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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
48/128

P-048 絵で判断してはいけない





 麻袋を貰ってきて、その中に麦藁を詰め込む。それをロープで十字に結びつけ、丸い輪を作ってしっかりと結んだ。


 「何を作ってるんだ?」

 「ああ、これか? 浮きだよ。銛にロープでこれを結んでおくんだ。するとこれが浮かぶからジラフィンは深く潜れなくなるんだ」


 ふ~んという顔付でレイナスが俺を見ている。完成した浮きをポンポンと叩きながら感触を確かめているようだが、納得しているのかは分らない。

 だが、これは結構な浮力があるし、ぶつかった位では壊れないから海で使うには十分だろう。

 

 「これで終わりだ。後は全体にウミウシの体液を塗れば良い」

 「簡単なんだな。来年は俺達用に少し作っておくか。海で遊ぶのにも使えそうだ!」


 それも、良い考えだ。俺達のパーティで泳げるのは俺1人だしな。もう少し小振りな物を作って腰に着けていれば安心して遊べるに違いない。


 番屋の外で、レイナスに手伝って貰いながら、浮きにたっぷりとウミウシの体液を塗り付ける。

 番屋の軒下に3個を並べて干しながら、一服して乾くのを待つ。2度塗りすれば少し位傷が付いても中に水が入らないだろう。


 そんな所に、大工さんがやってきた。小さな荷車を曳いているぞ。


 「出来たぞ! どれ位飛ぶか試してみてくれ」

 「レイナス、猟師さんを呼んできてくれないか?」


 大工さんの頼みに、レイナスを走らせた。これの試射は猟師さんにやって貰うのが一番だからな。

 

 ぞろぞろと番屋から猟師さんがやってくる。荷車のバリスタを眺めて大きさに驚いているようだ。

 そこにサルマンさんまで現れた。どうやら、大工さんが知らせたらしい。


 「誰か、船を運んで来い。ここではなく、砂浜だぞ! さて、上手く行けば良いんだが……」


 俺達の番屋からシグちゃん達もやってきた。やはり、興味があるんだろうな。

 皆で荷車を浜辺に押していくと、10人程の猟師さんがコロを使って舟屋から舟を運び出してきた。

 既に舳先に角材が突き出している。あれにこのバリスタを付ければいいんだな。

 船が引き出されたところで、大工さんが逆L字状に突き出た角材に数人がかりでバリスタを取り付けた。バリスタの架台についた金属製の支柱を船から突き出た柱の穴にしっかりと入れる。

 架台が前方に伸びた支柱に乗せられると、かなり安定するようだ。銛を撃つ前まではロープで固定しておけば少しぐらい船が揺れても柱から落ちる事は無いだろう。


 サルマンさんがバリスタの手元の柄を持って上下左右に動かしながら、納得しているみたいだ。

 

 「リューイよ。どうやって銛を撃つんだ!」

 

 そんな怒鳴り声に、船に向かって漁師さん達に使い方を説明する。見ればだいたいは分るだろうが、弦を引くのは数人がかりだ。

 先端に鉄の爪が付いたロープを弦に引っ掛けて曳くと、カチリとトリガーに連動した金具に引っ掛かる。

 次に銛を滑走台に乗せれば、後は取手の下にある鉄のレバーを握れば金具から弦が外れて銛が飛んで行く。


 「一応、照準器を取り付けました。この十字線と先端にある棒の先端を合わせればそこに飛んでいきます。2、3回撃って照準器の位置ズレを直します」


 最初はサルマンさんが撃ってみた。

 番屋から急遽、カゴを運ばせると20m程離れた場所に置いて、サルマンさんがレバーを握るようにして引いた。


 バン!っと弦が鳴りカゴの直ぐ傍に銛が突き立った。

 一斉に漁師達が銛の傍に走り出す。


 「十分じゃないか? 俺達ではこの距離まで銛を投げれねえぞ!」

 「深さも十分だ。殆ど銛の根元まで砂に入ってるぞ!」


 「命中はしなかったが、ジラフィンの大きさならこれで命中してるぞ!!」

 「そうだな。リュウイよ。十分だ。直ぐにもジラフィン狩りが出来るぞ!」


 そんな言葉を皆が言ってるけど、ちゃんと照準合わせは済ませることにした。

 バリスタを、もう2個作ってもらうことで大工さんと調整して報酬を払う。

 金貨1枚で請け負ってくれたから、残りをサルマンさんに渡す。


 「銛撃ちにはそれなりの報酬を払う慣わしだ。それを考えると、2枚の金貨はリュウイ達に渡しても問題はないんだがな」

 「それは僭越すぎます。海の狩りは漁師さん達が命を掛けて行うもの。それなりの対価は必要でしょう。ですが俺達は陸で狩りをします。たまに道具を融通するのも同じ狩り仲間ということで……」


 俺に2枚の金貨を渡そうとするサルマンさんに、俺は断固断わる事にした。浮きに気が付いて、レイナスと浮きを運んでサルマンさんに説明すると、笑いながら俺に金貨を1枚渡してくれた。


 「浮きだな。ならこれは浮きの代金だ」

 「貰いすぎです!」


 慌てて返そうと思ったけど、笑うだけで受け取ろうとはしない。

 改めて、深々と頭を下げて金貨を受け取った。


 「もうすぐ、ジラフィンが回遊してくる。ジラフィン狩りは命懸けだ。リュウイの作った銛撃ちが上手く行ったら他の村にも広がるだろ。ライトン式ジラフィン狩りってなるわけだな」

 

 村の名が上がるということか……。村の名士である以上、村への思い入れも人一倍大きいんだろうな。ライトン式というパテントで買取ってくれるという事だろう。

 元々作ったのは大工さんだし、俺達が工夫したと言ってもクロスボウを大型にしたようなものだ。ありがたく受け取って、冬越しの資金にしよう。


 報酬を分配するため、ギルドに行ってミーメさんに両替をしてもらう手数料は両替金の5%になるらしい。95枚の分配は1人銀貨15枚。20枚は共通費になる。


 「あれで、1人銀貨15枚になるのか? 貰いすぎだよな」

 「俺もそう思ったんだけど、頑として聞き入れてくれないんだ。ミーメさんに訳を話したんだけど、『頑固だから、ありがたく受け取っておきなさい』って言われてしまった。たまに獲物を届けてあげようと思ってるんだけどね」


 俺の言葉に全員が頷く。こんな付き合いがこの村では長く続いているんだろうな。皆で漁をするから村人同士の繋がりは俺達の想像以上なんだろう。

 何となく囲炉裏で鍋を囲みながら酒が美味しく感じる。

 猟師さんに貰った魚のぶつ切り鍋だけど、イリスさんも舌鼓を打ちながら食べてるぞ。

 

               ・

               ・

               ・


 冬に備えて海辺を東に辿り、フェルトン草の球根を手に入れた。3日ほどの行程だが、冬場に探すのは苦労すると分ってるからな。少し多めに手に入れておけば依頼のあった時にも役立つだろうし、俺達も安心できる。この前の冬にはレイナスが高熱を出してる。俺達の番屋は隙間が多いから必需品になるんじゃないか?


 「11個は多いんじゃないか?」

 「必要な時に無くては困るだろ。11個あれば依頼書が張り出されても何とかなるさ」

 

 そんな事を言いながら囲炉裏でパイプを楽しみながら笑いあうのも、俺達に余裕があるからなんだろう。

 俺達の番屋は、少し板を張ったけどあまり隙間風に変化は無かった。

 この冬は、家の中にテントを張るという暮らしをしなければなるまい。


 「次ぎの依頼を取ってきたぞ。今度はこれをやる!」


 バッグからイリスさんが取り出した依頼書に書かれていたのは……。

 これって? 狩れるのか??


 「モグロンドじゃないか! この辺りのもいるんだな」

 「知ってるのか? これって、土の中にいる獣じゃないか! どうやって狩るんだ!!」


 興奮した俺を、困った奴だレイナスの目が言っている。

 だが、依頼書に書かれている簡単な絵はどう見てもモグラだぞ。どうやってモグラを獲るんだ?

 

 「リュウイさんはモグロンドを知ってるんですか?」

 「土の中に穴を掘って虫を食べるこれ位の奴だろ」


 シグちゃんの問いに俺が答えると、皆が驚いている。

 違ったのか?


 「リュウイ……。モグロンドの大きさは野犬より少し大きい位だ。それに奴等がいるのは藪の中だぞ」


 イリスさんが首を振りながら俺に説明してくれた。

 ちょっと待て、……もう一度絵を眺める。絵の大きさで判断したのがいけなかったか? だが、大きな前足と長い鼻、それにつぶらな瞳は紛れも無くモグラだ!


 「モグロンドは棘のある藪にいるんだ。鼻が長いのはそのせいなんだろう。それに前足が異様に大きいのも藪を掻き分けて動くからなんだ。肉は食用にならないが、その毛皮は光沢があって高値で取引される。数枚あれば冬用の毛皮の外套が作れるぞ」


 確かにモグラの体も光沢のある毛皮だったな。

 だが、棘のある藪と言うのが問題だ。焼く分けにはいかにな。

 

 「聞いた話だと、藪を突付いて藪がガサガサと動けばモグロンドが潜んでいる。それを突付きだして槍で仕留めるらしい。だが背中に槍が刺さると値段が下がるらしい」

 

 パイプ片手にレイナスが説明してくれる。

 シグちゃん達も編み物の手を休めて聞いているぞ。


 「その通りだ。王都の貴族の女性達に人気なのだが、どうしても槍の傷が残る。出来れば腹を刺したいが、突き抜ければ背中に出てしまう。力加減が厄介な依頼になる」


 なるほど、結構それが狩りのレベルを上げる事になるのだろう。

 今までとは違った狩りをしなければならないようだ。力ではなく知恵の狩りになるな。

 パイプにタバコを詰め込み、囲炉裏で火を点ける。

 ゆっくりとタバコの味を噛み締めながら、頭の中で狩りをシュミレーションしてみる。


 藪にモグロンドがいるか否かは、棒で突付けば分るらしい。

 更に突付けば出てくるという事だが、そこまでは問題は無いという事だな。

 最後に槍で刺す……。問題は、ここにある。

 止めを指す方法が問題なんだ。何で体を刺す必要がある。頭を潰せばそれで終わりじゃないか?


 「イリスさん。1つ教えてください。先程、槍で腹を刺したいと言っていました。レイナスは背中を刺すと言ってます。止めであれば何で頭を刺すか潰すかしないんですか?」


 「あまり獣の生態を知らないようだな。モグロンドの頭は小さくて藪から出ると頭を体に縮めて両手で隠すんだ。両手の爪は長く伸びてしっかりと頭を覆う。その爪は鋼の剣を弾くんだ」


 なる程……。藪から出ると、自己防衛的に頭を隠すんだな。まるでカタツムリみたいだ。

 毒矢はダメだろうな。使用制限が掛かっている。

 ならば、どうする……。


 「あまり考えると眠れなくなるにゃ!」


 そう言いながらファーちゃんがお茶のカップを渡してくれた。

 まあ、そうだよな。今までそんな方法があれば誰か考えている筈だ。

 

 皆と一緒にお茶を飲む。確かに考えすぎだ。俺を見る皆も微笑んでいる。俺を試してたんだろう。上手い方法があればと思ってたんだろうけど、そうはそうそうあるもんじゃないからな。


 「やはり、思い浮かばんか……」


 「何時も、考えられるとは限らないさ」


 そう言って、イリスさんに微笑んだ。

 

 「そうだな。まあ、値段は落ちるが仕方が無い」


 蜂蜜酒を取ろうとレイナスが後を手探る。ガタンっと何かが倒れる音に思わずそれを見た。

 簡単じゃないか! ヨロイ通しを使えばいい!!

 鎧通しを正確にモグロンドの頭に射込めばいい。それには……。


 「レイナス手伝ってくれ!」

 「思いついたんだな。良いぞ。何でも言ってくれ!」

 

 俺達は急いで矢とボルトを分解して鏃を付け替え始めた。

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