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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
43/128

P-043 毒矢の威力は?


 ディランダルの皮剥ぎを終えると、沼の向うにいるもう1匹を狙う為に、ゆっくりと沼を遠巻きにして歩きはじめた。


 「やはり、ヤニが効いたのか?」

 「分らん。投槍が3本貫いていたからな。次ぎは毒矢だけを先に撃ってみよう」


 「確かに確認は必要だ。だが、あの位置に槍3本では絶命には至らんぞ」


 少しは効果があったという事だろうか? まあ、次ぎのディランダルで分るだろう。

 丁度反対側に来たところで、レイナスとイリスさんがディランダルの気配を探り始めた。

 ネコ族の勘が頼りだからな、邪魔をしないように投槍とウーメラを持って後ろに下がって2人の様子を見守った。シグちゃん達はクロスボウの弦を引き絞って、発射1歩手前の状態だ。


 「やはり、あそこの木の洞が怪しいですね」

 「朝方は、あの茂みにいたのだが、確かにあの洞が怪しいな」


 そんな話が聞こえてきたら、レイナスの右手がファーちゃんを呼び寄せている。

 ファーちゃんが急いで駆け寄ると、なにやら指示を与えているようだ。

 ファーちゃんはシグちゃんのもとに戻ると、今度は相談を始めた。2人が頷くとクロスボウを持ってイリスさん達の所に歩いて行く。 

 2人にクロスボウを預けると、背中のメイスを取り出して沼の近くの茂みと機野祠に同時に【メル】を打ち出した。

 まぁ、どちらかにいるんだったら同時に撃てば間違いは無いな。

 

 にゅ~っと長い首が木の洞から現れた。4人に向かってチロチロと舌を出して威嚇しているぞ。

 4人が俺の方に向かってゆっくりと下がってくる。ウーメラを投槍にセットして、何時でも投擲出来るように俺は待ち構えた。

 

 「先ずは、シグちゃん達にボルトを撃ち込んで貰う。あまり効き目が無い時は俺達ので番だ!」


 俺の怒鳴り声に4人が頷くと、シグちゃん達が膝撃ちの姿勢でクロスボウを構えた。

 ディランダルの全身が沼から出て来た。先に倒した奴と殆ど同じ大きさだな。

 

 「撃て!」


 イリスさんの声が響くと同時に、ディランダルの首に2本のボルトが深々と突き刺さった。

 グオォォン……。

 叫び声とも思えないような音がディランダルから上がると全身が小刻みに震えだす。


 「効いてるのか?」

 「どうやら、そうらしい。少し下がって見守るぞ!」


 俺達は、更に後ろに下がる。距離は20mはあるから、突然俺達に襲いかかったとしても、投槍を放つ時間は十分にある。シグちゃん達も次ぎのボルトをセットしてディランダルに何時でも放てるように、体をくねらせて苦悶している大蛇を見ている。


 「本当に、毒だったんだな。あれだけの巨体をあれだけのヤニで効果があるのか……」

 「最初に言ったでしょう。即効性の猛毒だってね。少しはパイプをひかえますか?」


 「無理だな。だが、私達には効果がないのが不思議な思いだ」

 「だよな。あれだけ効果があるなら、普通の弓矢の鏃に塗っても効果がありそうだ。なんで誰もやらなかったんだろう?」


 「最初に言ったろう。タバコを吸う連中が多いからな。誰も毒とは思っていない筈だ」


 やがて、ドサリとディランダルの鎌首が地面に落ちる。ピクピクと体が痙攣しているからもうしばらく様子を見たほうが良さそうだ。

 シグちゃん達が様子を見守っている後ろで俺達3人は小さな焚火を作ってポットでお茶を作る。

 焚火でパイプに火を点けると、パイプの煙と倒れたままのディランダルを交互にイリスさん達が眺めている。


 「親父だって信じないだろうな。まだ、夢の中にいるような感じだ」

 「これだぞ。これでディランダルを倒せるって言ってもローエルさんは笑うだけだろうな」


 まぁ、毒を狩りに使うという概念は無かったみたいだからな。だが、使い方は難しい。かなりの猛毒だから、長剣や槍に塗るというわけにはいかないだろう。ボルトや矢に塗るとしても管理が容易ではない。誤って自分達がその毒を受けかねない。


 シグちゃん達が輪に加わったところで、レイナスが倒れたディランダルに投槍を打ち込んだ。

 

 「全く反応なしだ。やはり死んだと見るべきだな」

 

 その声で、俺達3人がディランダルの皮剥ぎを始める。表皮は少し硬いが、木の皮を剥くような感じで剥ぎ取る事が出来る。長剣使ってディランダルの口をこじ開けてイリスさんが牙を回収した。そう言えば、ディランダルの討伐証は牙だったんだよな。

 それが終ると、焚火に戻って、皆でお茶を飲む。後は村に帰るだけだ。結構森の奥にいるし、ディランダルの肉を狙ってどんな獣が現れるか分ったものではない。


 まだ昼はだいぶ先だが、今から歩けば第2広場で野宿することが出来るだろう。そこは俺達の狩場だからな。精々ガトルが数匹で済む話だ。

                ・

                ・

                ・


 次ぎの日の夕方、俺達はギルドのテーブルにディランダルの牙と皮を丸めた束を置いた。

 後をレイナス達に任せると、イリスさんは俺を引きづるようにしてローエルさん達がくつろいでいるテーブルへと歩く。


 「ディランダルを倒したようだな。まぁ、そこに座って顛末を聞かせてくれ」

 

 テーブルの4人が興味深々に俺とイリスさんを眺める。

 隣のテーブルから椅子を2個運んで座ると、イリスさんが早速俺達の狩りを話始めた。


 「何だと! 毒矢を使ったのか!!」

 「だが、この辺りに毒草は無かった筈だ。それに、あったとしてもそれは食べさせねば使えんぞ!」


 ローエルさんの言葉にイリスさんが頷いている。

 

 「リュウイが使った毒は即効性だ。嬢ちゃん達が2匹目を2本の毒を塗ったボルトで倒している。とんでもない効き目だった」

 「問題は、その毒の出所だ。場合によっては王都の警邏隊に引き渡すことになりかねん」


 これは、早めに誤解を解いておかねばなるまい。

 

 「俺も初めて使ったんですが、確かに効き目はありましたね。その毒ですが、これですよ」


 そう言って、腰からパイプを取り出した。


 「その中に仕込んでいるのか? あまり感心しないな。自分が毒を取り込んだらどうするんだ?」

 

 やはり、毒を仕込んでいると思っているようだ。その場でパイプを分解してテーブルの連中に見せる。


 「何だ……、何も無いじゃないか?」

 「いいえ、ちゃんとありますよ。この部分に着いてます」

 

 皆がじっと俺の指先を見詰める。


 「ヤニにしか見えんが……」

 「それが、猛毒の正体です。これから毒を取り出すことが出来るんです。その毒は、体の血に混じると血の流れによって、脳に作用します。そして体の動きが止まります。即効性ですから、デルトン草では手遅れになるかもしれません」


 ローエルさん達が一斉にイリスさんを見た。


 「本当だ。私達3人のパイプを掃除しながらヤニを集めて、それを使って毒矢を作ったのは私も見ている。いくら毒性が高くとも、パイプを使う者全てを拘束するわけにはいくまい」

 「だが、その毒性はディランダルを倒せるのか……。あまり、広めるのは止したほうが良さそうだな。作り方を知っているのはお前達5人だけだが、ディランダルを倒せるとなれば、ハンター殺しのグライザムさえ容易に倒せるんだろうな……」

 

 「一応、親父には顛末を知らせるつもりだ。山麓の狩りでグライザムに倒されるハンターは毎年出ている」

 

 イリスさんの言葉に、テーブルの連中が頷いている。それを使いたい相手がいるって事か?

 

 「しかし、これで倒せるのか……」

 

 そんな事を言いながら、パイプに火を点けたのはネコ族の青年だ。

 お茶が出て来たので、カウンターを見るとシグちゃん達は番屋に帰ったみたいだな。

 俺もお茶をご馳走になりながらパイプに火を点けた。


 「1つだけ、注意しておきます。極めて毒性が高く、即効性です。その毒は体の傷から入りますから、無闇に刃先にヤニを塗るのは避けたほうが良いです。自分が毒を受ける可能性があります」

 

 「だいじょうぶだ。それを使う相手が今のところいないからな。そんな時があれば、お前達に相談すれば良い。皆のパイプを持っていけば良い筈だ」


 「だが、親父は信用しないだろうな……」

 「リュウイの名を出せば、信用するさ。それに、実際にディランダルを狩って来たのだ。俺達なら可能だろうが、リュウイのレベルではかなり問題があるのも確かな相手だからな」


 って事は、ディランダルはかなり上級者向けって事なのか?もうちょっと、軽めの獲物を選んで欲しいな。


 「レベルに見合わない獲物を狩るとなれば、そんな工夫もいるだろう。だが、毒矢を使うのはあまりやらない方が良いな。もし、使う場合は俺に一言告げて欲しい。そして、その反対の場合もあるかもしれん。その時はよろしく頼むぞ」

  

 ローエルさんの言葉にテーブルいた連中が頷いている。禁止とは言わないが、なるべく避けろという事だな。万が一の場合は使うのを躊躇わないということか。


 「分りました。今回の毒矢も別に保管しておきます」

 「だが、3本だけ毒矢を作って欲しい。親父に渡しておく。グライザムに効果があれば、狩りは楽になるからな」

 「詳しく手紙に書いておく事だ。親父殿なら使い道を誤る事は無かろう。ハンター殺しに効き目があるなら、晩秋の狩りも楽になる」


 それならばと、テーブルの人達のパイプを拝借してヤニを集める。厚紙に回収しておけば番屋に戻って直ぐに作ることが出来るだろう。


 「本当に効き目があるのか?」

 「だよなぁ、そんな毒なら俺達はどうなってるんだ?」


 「傷口に入らなければ、あまり役立ちません。先程言ったように煙りとしてその毒成分を少量取り込んでいるからちょっとした酩酊感があるんです。それに、これを食べようなんて思う人もいないでしょうし……」


 そんな事を言いながら全員のパイプを掃除した。これで3本以上の毒矢が作れるだろうが、効果を確認して貰うなら3本で十分だろう。

 改めて、お茶のお礼を言うと、イリスさんを連れて番屋へと引き上げた。


 「どうだった? 何か言われたか?」

 「ああ、あまり使うなと釘を刺された」


 「でも、凄い威力にゃ。ボルト2本であのディランダルが倒せたにゃ」

 「レベルに見合わない狩りは、身を滅ぼしかねん。私も、あれは使わん方が良いと思う。だが、使うなとは言わん。狩りをする上で使わねばならないときもあるはずだ。ローエルさんはあのように言ったが、1本ずつは持っていた方が良いだろう。だが、普段は使わぬように紙に包んで袋に入れて置くんだな」


 イリスさんは、中間的な考えのようだ。

 使う機会は無いとは言えない。ならば備えとしてちゃんと保管しておけば良いという事かな。


 夕食後に、再度タバコのヤニからニコチンを抽出する。改めて、ボルト2本と矢3本にたっぷりと塗りつけた。

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