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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-039 トラ族のイリスさん


 季節は夏に変わってきた。

 俺達のこなすギルドの依頼は、採取から少しずつ狩りにウエイトが移っている。

 野犬やヤクー、それに数頭単位のガトルが俺達の獲物になる。

 精々森での一泊程度でこなせるものばかりだ。

 冬に備えての貯えは十分にあるし、無理をしないでハンターライフを楽しめるのが一番だな。


 例の鎧モドキもどうにか完成した。

 何となく足軽の胴丸に似ていなくもないが、強度的には十分だろう。

 フェルトンの皮を名刺サイズに切って丈夫な革紐で相互に繋いでいる。腹部の大型のフェルトンの皮と連結したから、布地に皮を結びつけて作らなくても何とかなった。

 ちょっと手作り感溢れる鎧だが、人に見せる訳ではないし、俺達が求めたのは丈夫さと軽快性だから、これで十分な筈だ。


 「これを着て狩るのは、どんな奴なんだろうな?」

 「俺達が壁になって、しかも手に負えない時だ。ガトルに腕を噛まれたが、あの時これがあればと思うよ」


 そんな鎧を見詰めながら、俺とレイナスはパイプを楽しんでいる。

 ある意味、用心だ。使う機会がなければそれに越したことはない。そして俺達のレベルの上昇と共にその機会は増えるんだろうか、それとも減るんだろうか……。


 「イネガルの突進に耐えられるってことはないよな……」

 「それはぶ厚い金属製か、更にフェルトンの皮を重ねないと無理だろう。だが、かすったぐらいは避けられると思うぞ」

 

 万能の鎧なんてあるわけじゃない。

 相手からの攻撃を完全に防ぐ事は不可能だ。

 そして、多くの鎧は、戦争の武器の発展に伴なって変わってきた。

 俺達は人を相手にする訳じゃないから、狩りの対象から受ける攻撃を少しでも防御出来ればそれで良いと思う。


 「だが、何となく安心感が湧くな。ファー達の手甲も良い感じだ。あれなら腕で掃っても怪我をすることはないだろう」

 「基本は俺達のと同じだ。だが、過信は禁物だぞ」


 俺達の手甲と同じようにシグちゃん達のも作ってみた。

 クロスボウが主体だけど、乱戦になればメイスを使うから手甲はあった方が良いだろう。

 ちょっとした安心感は、勇気に変わるからな。

 とは言え、過信は禁物なのは確かだ。


 そんな話をしている狩りの休日。

 のんびりと相談しあいながら、剣やボルト等を俺達は砥ぐ。シグちゃん達はおしゃべりしながら薄いパン焼いている。

 急ぐ仕事じゃないから、パイプを楽しみながらやっていると、番屋の扉が叩かれた。


 すぐに、ファーちゃんが走って行くと、相手を確かめて扉を開いた。

 

 「邪魔をするぞ!」


 そんな言葉とともに番屋へ入って来たのは、ローエルさんとレビトさん、それにトラ族のお姉さんだ。

 シグちゃんが囲炉裏の傍に3人を案内すると、ファーちゃんが皆にお茶を入れたカップを渡してくれた。


 「ここに住んでたのか。中々暮らしやすそうだな」

 「古い番屋ですが、今は俺達の物になりました。ここで暮らしていこうと思っています」


 ローエルさん達は番屋の中を眺めている。

 それ程見る物はない筈だ。入口の扉の片側には俺達の杖と槍、その反対側の壁には投槍が数本横にして並べてある。

 

 「今日、やって来たのは例の話だ。彼女を、お前達に託したい。青8つで長剣を使う」

 「親父がこの村に変わったハンターがいると言っていた。レベルは低いが工夫でそれを補っていると……」

 

 「そのハンターがこいつ等だ。レベルは白の中程だが、赤の時代にフェルトンの群れを相手にしている。リスティン、イネガル、そしてガドラーさえもだ。こいつ等単独では無理だが、お前が加われば十分に青の狩りは可能だぞ」


 トラ族のお姉さんに向かって、ローエルさんが補足している。

 とりあえず、パイプに火を点けて、お姉さんの反応を見ることにした。


 「どう見ても、ガドラーに投槍を突き通した連中に見えないのだが……」

 「だから親父殿がお前をよこしたんだろう」


 そう言ってローエルさんが笑いながらお茶を飲んでいる。

 お姉さんは少し考えているぞ。

 その顔は、やや丸顔だけど美人だな。薄い茶色の髪は肩で切りそろえている。

 長剣を使うだけあって筋肉質である事が、革の上下の上からも分かるぞ。トラ族って、皆筋肉質なのかな?


 「親父は嘘は言わない。ローエルさんもそう言うなら間違いのないはなしなんだろう。

 私の名は『イリス』。宜しく頼む」


 そう言ってお姉さんが俺達に頭を下げる。


 「それでね。相談なんだけど、イリスさんをこの番屋に泊めてあげてくれない。一緒に狩りをするならその方が良いでしょう」

 「でも、俺達はこの一間に雑魚寝ですよ。寝具もありませんし……」


 「親父が持たせてくれた。外の背負いカゴに入っている。寝る場所があれば十分だ」

 

 レビトさんの頼みを断ろうとしたら、イリスさんが一言添えてきた。

 それなら、大丈夫だろう。

 3人の顔をみると小さく頷いてくれる。


 「分かりました。でも、この番屋に泊まる以上、俺達のルールに従って貰いますよ」

 「了解だ。宿代はどうなる?」


 「狩りの分け前をから頂きます。食事代を含んで番屋の維持費を1人分で計算していました。割り切れない金額は食事代と言いことで……」

 「そんな額で大丈夫なのか?」


 イリスさんが驚いたような表情で俺を見た。


 「ええ、十分ですよ。こちらこそよろしくお願いします」


 交渉成立だ。

 俺達は順々にイリスさんに握手をする。

 

 「さて、俺達は帰るが……、あまり無理はするなよ。先ずは青の低レベルで彼等の実力を見てから、順に上げて行くんだぞ」

 「分かってる。親父からも散々に言われてきた」


 ローエルさんはイリスさんの言葉に安心したのだろう。俺に片手を上げて、レビトさんと一緒に番屋を出て行った。


 「ローエルさんが、青の低レベルと言っていましたが、具体的な獲物は何になるんでしょうか?」

 「そうだな……。ガトルなら20頭と言ったところだ。イネガル2頭もこの範疇だな。

 先ずは、今までの狩りを続けて、そんな依頼が出たらそれを受ければ良い。依頼を達成する期間も7日から10日位あるから、じっくりと狩りの計画を練ることが出来るぞ」


 そう言って、腰に差していたパイプを引く抜くと囲炉裏で火を点けている。

 女性なんだけど愛煙家のようだ。


 「イリスさん。この番屋にいる間は、この奥を使ってください」

 「良いのか? 家の奥は家主と言われているが……」


 「ええ、良いですよ。この箱を片付ければ寝られる位の場所が空きます」

 

 そう言ってシグちゃんはファーちゃんと一緒になって箱を動かしている。

 箱2つは衣類が入ってるだけだから簡単に動いたけど、共用の箱は食料が入っているようで、2人では無理みたいだな。


 俺とレイナスが席を立って、横に移動させる。

 レイナス達は箱2つに囲まれたようになったけど、2人とも小柄だから問題はないようだ。


 空いた場所にイリスさんが背負いかごから荷物を運んできた。

 布団は毛布が3枚だけど、あれで冬は寒くないのだろうか?

 まあ、その時はイリスさんが何とかしなければならないだろう。俺達だって余分な布団は持ってないからな。


 フエルトのような敷き布を板の間に広げて、俺達と同じようにガトルの毛皮を取出して囲炉裏端に敷く。

 その上に胡坐をかいて座ると、ちょっとワイルドな感じがするな。

 

 「それで、何時から狩りをするんだい?」

 「狩りを終えると1日休みます。今日がその休みでしたから、明日には出掛けたいですね」


 「なら、今の内にギルドに行ってみるか。私が見てこよう」


 そう言うと席を立って、番屋を出て行った。

 意外と行動的なお姉さんだな。


 「青の8つか……。王都のハンターだろうから、中堅には違い無いな」

 「武者修行ってやつかな?」


 レイナスの言葉に俺は首を振った。


 「いや、そうじゃないと思う。そう見えるようにしているじゃないか。……俺達の教師として送ってきたんじゃないかな?」

 「ガイエンさんか?」


 囲炉裏でパイプに火を点けながら、小さく頷いた。

 親父と言ってたからな。その親父とはガイエンさんその人だろう。

 俺達のレベルを早く上げることを考えているようだ。

 

 問題はその理由ってことになる。

 俺達はのんびりとこの村でハンターをしていたかったが、ガイエンさんはそれを良しとしないようだ。

 

 ひょっとして、俺達を手駒として使うつもりなのか?それとも、その他の理由があるのだろうか?

 その辺りは、一度ローエルさんと話しみた方が良さそうだな。


 「経緯は良く分からないけど、俺達を指導してくれるのは確かなようだ。それに、青の8つだぞ。どんな依頼でも受けられるような気がするな」

 「確かに……。それでだ。レイナス、お前中衛が出来ないか?」


 ネコ族は前衛には向いていない。

 力と体力が人間族より少ないのだ。その分、敏捷性はどの種族よりも上だ。

 俺達の壁を突破した獣を倒すには、シグちゃん達ではまだ手に余るからな。その前にレイナスがいてくれたら俺も安心出来る。


 「そうだな……。イリスさんが戻ったら、その辺りの編成も相談してみよう」

 

 俺がガトルに噛まれたことを思い出したのか、レイナスは考え込んでいる。

 本人としては前衛でいたかったに違いない。だが、更にレベルの高い獣を相手にした時に、どこまで前衛が務まるかは疑問が残るのも理解しているようだな。

 

 このまま村のハンターで終るのも1つの選択肢だ。

 だが、自分達を冷遇した世間を見返したくもあるだろう。

 俺だって、山間の町の虐めは未だに覚えているからな。


 俺達に改めてファーちゃんが入れてくれたお茶を飲んでいると、イリスさんが帰ってきた。

 俺の後ろを通って自分の席に着くと、腰のバッグから1枚の依頼書を取出した。


 「先ずはお前達の狩りを見せてくれ。依頼はガトル10頭だ。一応白9つの依頼だが、ローエルさんに聞いた限りでは最高でも白6つと聞いている。そして、お前達に出した課題だとも言っていた。

 私は、後ろで見ていよう。ダメだと判断した時には直ぐに介入する」


 ガトル10頭か……。あれを使ってみるか。噛まれても大怪我にはならないだろうしな。

 レイナスも俺を見手頷いている。

 

 「やりましょう。場所はどこですか?」

 「第4広場の奥と書かれている。場所はお前達は知っているのだろう?」


 俺達は力強く頷いた。

 イザとなれば介入してくれる立会人がいるのだ。ここは何としてもローエルさんが俺達に課した課題であるガトル10頭の狩りを成功させねばなるまい。

 


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