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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-038 材料入手


 フェルトンは俺達より背が高い。

 頭が俺より少し上にあるから見下ろされているように感じるが、ローエルさんたちの話では俺達の体温を見ているらしい。

 焚火の影に隠れて身を小さくしていれば、焚火の熱で奴らには見えないということになる。


 20m程に近付いても、シグちゃん達はボルトを放たない。

 ぎりぎりまで待って放つようだ。

 それだけ狙いも正確になるし、威力も増す。

 フェルトン相手に、クロスボウがどれだけ役に立つかを知るには都合がいいかも知れない。とはいえ、だいぶ近付いて来たぞ。


 鋭い弦の音がして、フェルトンの小さな三角形の頭部にボルトが突き刺さる。

 完全に脳に達している筈だが、昆虫だけあって前足を振るっているからうかつに近づけない。

 俺とレイナスは、槍を構えて遠巻きに見守っていると、2つ目のボルトが頭部に突き立った。


 途端にフェルトンの動きが鈍くなる。

 槍を叩き付けて前足を折り、接近して殴るようにして頭部を切り離した。

 それでもまだもがいている。

 しばらく放っておけば、やがて動かなくなるだろう。


 「どうにか、倒したな」

 「ああ、あのクロスボウは凄いな。これからの狩りが楽しみだ」


 とりあえずは休憩だ。

 お茶を飲みながら、パイプを楽しむ。

 

 そして、倒したフェルトンを眺めた。

 やはり、腹部の皮膚だよな。頭や胸部は使い物になりそうもない。

 問題は、剥ぎ取った後だ。穴を掘ってその中でやるか……。


 4人で交代しながらフェルトンを埋める穴を掘ると、その中にフェルトンの腹部を転がして、丈夫な皮を剣で引き剥がしていく。

 ある意味、外骨格だから、皮を剥ぎ取ると内臓が穴に散乱する。

 ちょっとエグイ解体だが、俺達の防備には必要なことだ。

 2体の腹の表皮を剥ぎ取ると、牙を回収した頭部等と一緒に穴に埋める。


 匂いはそれ程でもないが、黄色い体液が俺達の衣服に掛かってる。

 それを剣と一緒にシグちゃんが【クリーネ】で落としてくれた。ついでにフェルトンの皮にも【クリーネ】を掛けてくれた。

 

 「どうだ。使えそうか?」

 「十分だ。見ろ、この弾力。そして何と言っても軽さが良い」


 横幅が30cm程もある、直径1.2m程の1片を両手で曲げながら弾力を確認していた俺はレイナスにそう答えた。


 皮の厚さも3mm程だ。これで通常の鏃を跳ね返すんだからな。

 鉄を使うよりもはるかに効果的だ。正に理想的な素材じゃないか。


 「ファーちゃんが、『ガトルが見てる』って言ってるよ」

 

 シグちゃんの言葉にレイナスが振り返る。

 ファーちゃんが指差した方向をしばらく眺めていたが、……やがて頷いた。


 「リュウイ、来たぞ。3匹だ」

 「俺達を襲う気か?」


 「たぶんな。こっちを見ながら近付いてる。もうすぐ広場に出るからお前達にも見える筈だ」

 

 やがて、3頭のガトルが森の奥から顔を出した。

 痩せたガトルだ。群れを離れると狩りも上手くこなせないのかもしれない。


 「群れを離れたガトルは凶暴らしいぞ。左右のガトルはファー達に任せて、俺達は真ん中をやるぞ!」

 

 焚火の炎越しに、ガトルを見ていた俺達はレイナスの言葉に黙って頷く。

 腹を空かせてるなら強暴だろうな。そして、俺達の様子を探るような眼光をさせてゆっくりと近付いてきた。


 槍を手元において、背中の長剣をゆっくりと引き抜いて膝の上に乗せる。

 ガトル相手には長剣が一番だ。

 

 30m程手前でガトルの歩みが止まった。

 いよいよか? ゆっくりと長剣を背中に担ぐように構えると、左足を半歩前に出して身を低くする。


 クロスボウの弦が鳴り、左右のガトルに命中する。

 1匹はその場で昏倒したが、もう片方は顎から頬にボルトが抜けたようだ。

 唸り声とともにガトルが俺達に飛び掛ってくる。

 手負いはレイナスに任せて、飛び掛ってきたガトルに向かって、跳びつくようにして剣を振るった。


 鈍い感触が左手に伝わる。

 振り返った俺を睨むように顔を向けた深手を負ったガトルの首に剣を突き通してとどめを刺した。

 

 「だいじょうぶか?」

 「ああ、何とかなった。やはり前にも柵がいるな」


 本来なら柵を作っていたところだ。

 数が少ないと油断してた感じだな。クロスボウの命中率が良くても、必ずしも致命傷を与えることにはならない。

 肉食獣の狩りは油断は禁物ってことだ。十分注意しよう……。


 「済みません。外しちゃいました」

 「謝らなくてもいいよ。ちゃんと、シグちゃんのボルトは命中してた。当る直前にガトルが少し頭を動かしたんだろう。それが無ければ、あの1撃は致命傷だ」


 もう直ぐ夜が明ける。

 東の空が少し白くなってきた。

 俺達は、倒したガトルの毛皮を剥ぎ取り、牙を手に入れた。


 焚火でお茶を沸かして、夜明けを待つ。

 とりあえず依頼は完了したし、良い防備の材料も手に入った。

 またしばらくは、付近で日帰りの依頼をこなせば良い。


 「しかし、ローエルさん達の依頼を俺達がやってしまって良かったのかな?」

 「終ったことだから気にしない方がいいぞ。それ位でとやかく言う人では無さそうだ。それに群れをはぐれたフェルトンならどこで誰を襲うかも分からないからな。俺達は逃げなかっただけだ」


 だいぶ明るくなった頃に、シグちゃん達が簡単な朝食を作ってくれた。

 クレープより少し肉厚のパンに焼いたハムを挟んだだけの代物だが、これから村まで歩くのだ。しっかり食べて朝日の差し込む森を歩いて村へ帰った。


 ギルドの扉を開けると、カウンターのミーメさんの所に向かった。

 レイナス達に依頼の処理を任せて、何時もの場所でお茶を飲んでいたローエルさんのところに向かう。

 

 「森の狩りか? フェルトンが第4広場辺りをうろついているから気を付けろよ」

 

 俺に椅子を薦めながら話し掛けてきた。


 「第2広場の奥でフェルトンと対峙しました。2匹ですが何とか倒しました」

 「ガトルを狩ってたのか?」


 テーブルにいた1人が驚いたように俺達の狩りを確認してきた。


 「ええ、ガトル3頭の依頼を受けて森に入りました。何時ものように周囲をロープで柵にしてましたから戦うしかないと判断して、接近してきたところをクロスボウで奴の頭にボルトを打ち込み、弱ったところで首を落としました」


 「あの短かい槍先はフェルトンの頭に刺さるのか……。全くとんでもない代物だな。

 それなら、これはお前達に譲ろう。フェルトン狩りの依頼書だ。狩るだけで100Lだから暮らしの足しにすれば良い。

 そして、お前を呼んだのはちょっとした相談だ。

 ガドラー狩りをした時のトラ族の男を知ってるな。あいつが知り合いを1人、この村に送って来るそうだ。レベルは青の8つ。黒になる前に他のパーティに預けたいと言っている。

 そこでだ。お前のパーティに一時的に加えてくれまいか?

 お前たちは実力的には十分に青のレベルにあると、俺は思っている。

 青8つの人物を入れれば、これまで以上に狩りの範囲が広がるからお前達のレベル上げにも役立つと思うのだが……」


 助っ人ってことかな?

 来る人も、それなりの目的があるんだろうし、あのトラ族のおじさんも悪い人では無さそうだ。

 とは言え、俺1人じゃ判断出来ないな。


 「返事は皆にはかった後で良いですか? 狩りの対象が多くなるのはありがたい話ですが、それだけ危険も増します。俺1人では判断出来かねます」

 「ああ、十分考えてくれ。来るのは長剣を使うと聞いている。壁として使えるぞ」


 そんな相談を受けた俺は、ミーメさんにフェルトンの依頼書を渡して、銀貨を受取ると真っ直ぐ番屋へと向かった。


 「遅かったな?」

 「ああ、一応顛末は話しておいた。ローエルさんがフェルトンの依頼書をくれたんで、これはその報酬だ」


 そう言って、シグちゃんに銀貨を渡す。


 「それでだ。前にガドラー狩りをした時にいたトラ族のおじさんがいたろう。あの人がこの村に若手を送ってくるらしい。青の8つと言っていたな。

 ローエルさんがその人物を俺達のパーティで預かってくれないかという相談だ」


 シグちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら皆に言った。

 

 「確かガイエンさんだったな。黒の保持者ならかなりの融通が利く。そして黒ならハンターの育成にも力を注ぐ筈だ。だが、1人なのか?」

 「ああ。長剣を使うらしい。ローエルさんが壁に使えるって言っていた」


 俺とレイナスはパイプを加えながら考え込んだ。

 確かに魅力的ではある。

 色んな狩りを教えて貰えるだろう。そして、壁が1人増えるならレイナスを中衛に回す事が出来る。

 シグちゃん達がクロスボウの準備をする間の防衛を任せられるのだ。


 俺とレイナスの視線が、夕食の準備をしているシグちゃん達に向けられた。

 やはり、考えることは同じのようだな。


 「リュウイもそう思うか?」

 「ああ、レイナスが中衛をしてくれるなら、ガトル10頭は容易いだろうな。そして、それだけ危険も減る」


 「シグちゃんとファーちゃんはどう思う?」

 

 俺の問いに2人は顔を見合わせたが、頷くことで賛意を示したくれた。

 

 「それじゃあ、明日にでもローエルさんに伝えるよ。そして、俺とレイナスの鎧だが……」


 そう前置きして概要を話す。

 基本は革の上着の下に着る鎧だ。丈夫な綿の上着にフェルトンの皮を取付ける。

 その上に少し大きめの革の上着を着れば良い。

 

 「内側に着るんだな。確かに皆内側だよな。鎖帷子を着てる人もいるぞ」

 「たぶん、皆知られたくないんじゃないか? だが夏は暑そうだな」


 「革の上着ではなく。布の上着を着れば良いだろう。折角作るんだから長く使いたいからな。

 だが、どうやって取り付けるんだ?」

 「こんな感じだ……。」


 体に合わせて、皮を切り取る。その皮を屋根をふくように、上の皮が下の皮に重なるようにして取付けて行けば良い。


 俺が簡単に絵を描いて説明すると、3人が熱心にその絵を見ている。

 感心して眺めているところを見ると、納得してくれたかな?


 「腹はそれでいいが、肩や腕は少し加工しなければならないな?」

 「ああ。それにこれを結び付けるための紐を通す穴もいるぞ。直ぐに使うわけじゃないからのんびり加工しようぜ」


 蛇腹みたいな感じになるから、前屈みになる時も容易だろう。

 さらに小さな切片を作れればうろこ状に作ることも出来る。先ずはどれ位、加工が容易いかを確認せねばなるまい。

 

 そんな事で、早速皮の端を使って加工の容易さを確認し始めた。

 確かに強靭だ。鋸で切り取るにも骨が折れる。穴を開けるのも一苦労……。

 先が長い作業が始まった。


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