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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
34/128

P-034 ガリナムさんの考え


 ローエルさんが柵の左右の薪に火を点けた。

 同時にシグちゃんが光球を次々と放っていく。

 

 明るくなった周囲の闇の奥で、獣の目が光る。

 その数は……想像以上だ。間違いなく50は超えている。


 「100前後といったところだな。一斉に来たところを【メルト】で散らす。後は頑張れよ!」

 

 先ずは前衛のガトルだけだが、数が半端じゃない。

 段々と目が慣れて、ガトルの姿が闇の中にうっすらと見え出した。レイナスならばその奥まで見えてるんだろうな。

 ゆっくりと近付いてくる。

 この辺りがガトルだけの群れとは違うようだ。

 

 投槍を焚火の傍に突き立てて、片手剣を抜いた。右手には採取ナイフを握る。

 

 「後ろを守ってやれよ。もう直ぐ襲って来るぞ」

 

 ガリナムさんの言葉にただ頷くだけだ。

 俺達を中心に半円を描くようにじりじりと近付いてくる。

 もう直ぐ、最初のロープを張り巡らせた柵に達するぞ。


 ガウゥゥ!!

 大きな吼え声を上げて一時に柵を超えようとする。

 そんなガトルの群れに炎が炸裂した。

 2回の炸裂でガトルの群れが散れる。そこにシグちゃん達の矢が浴びせられる。


 柵を乗り越えようと、ロープに絡まったガトルを次々に剣で突刺していく。ロープを乗り越えたガトルは俺とレイナスが血祭りにあげた。

 そして、もう一度ガトルの群れの中に【メルト】が炸裂する。


 ガトルの攻撃にちょっとした間が開いた。その隙に自分の体制を立て直して、次の攻撃に備える。

 右手が血まみれだが拭うことも出来ない。

 左手で剣を振り切った僅かな隙をついて襲ってくるガトルを突刺しているのだが、だいぶ刃先が鈍ってきたようだ。今は柄頭で殴ることに専念している。


 【アクセル】の効果で剣の方は難なく振るえる。

 2m四方を動き回りながら、次々と柵を越えるガトルの頭に向かって剣を振るった。

 レイナスも片手剣を新調しているから問題無さそうだな。


 倒したガトルで足の踏み場も無くなってきた時、不意にガトルの襲撃が止まった。

 2、3度強く剣を振って血糊を払って鞘に納めると柵の奥を見据えた。


 大型の獣が2匹こちらを伺っている。

 あれがガドラーか……まるで子牛程もあるぞ。


 採取ナイフを鞘に入れて、ウーメラを腰から引抜いた。

 火箸を穂先にした投槍を引抜いてウーメラにセットすると、ローエルさんの後ろに位置する。

 弓を持つ連中も、鎧通しの矢を準備している筈だ。


 「良いか。飛び掛ってくる一瞬を狙うんだ。奴の動きは速い。簡単に矢を避けるぞ」

 

 ガリナムさんが俺達に振り向きもせずに怒鳴り声を上げる。


 のそりと2頭連れ立って近付いてくる。

 簡単に当たりそうな気もするけど、ガリナムさんは黒レベルだ。奴との戦いはこれが初めてではないからな。

 はやる気持ちを抑えてその時を投擲の姿勢を取って待つことにした。


 10m程離れて俺達は睨み合う。

 このままだと疲れてしまうな。

 そんな思いが頭を過ぎった瞬間、ガドラーが一瞬に間合いを詰め柵を飛び越える。

 その横腹に、力一杯投槍を投擲した。

 続いて次の投槍をセットしてガドラーに向かうと、既に顎の下から剣を突き通されたガドラーが地面に倒れている。

 もう1頭が長剣を構えるローエルさんに向かっているが、数本の矢が頭や体に深く食い込んでいた。

 ドン!っという音をたててレイナスの投げた槍が突き刺さる。

 レイナスに頭を向けた一瞬に、ローエルさんが奴の首筋に長剣を突き通した。

 

 ドサリっと巨体が倒れる。


 「油断するなよ。まだガトルは残っているぞ」

 

 何時の間にか逃げたと思っていたガトルが俺達を取巻いている。

 再度剣を抜いて構える。ちらりと後ろを見ると、矢が尽きたシグちゃん達がフレイルを構えている。


 そしていきなり群れが俺達を襲う。

 舞うように剣を振るってガトルを仕留めるが、後ろにも回りこまれているようだ。

 雄叫びを上げて、俺に群れが集まるように仕向けるが、乱戦になっているから効果の程は分からない。

 

 そんな戦いが唐突に終る。

 目だけで周囲を見回して動くガトルがいないことを確認して、剣の血糊を振り払った。


 「終ったな……。怪我はないか?」

 

 ガリナムさんの言葉に急いでシグちゃん達の様子を見に行く。

 

 「大丈夫か?」

 「何とか……です。これは威力がありますね」

 

 そう言って足元を見ている。

 そこには数匹のガトルが転がっていた。

 ファーちゃんの方も何事も無かったようだ。レイナスに報告しているぞ。

 

 「はい、返すわ。ありがとう」

 

 そう言ってレビトさんが俺に手斧を返してくれた。


 「私も、あれを作る事にするわ。良くガトルを見てごらんなさい。全て頭骸骨が割られてるわ」

 

 シグちゃんの足元のガトルを観察すると、確かに頭が割られている。フレイルは見掛けによらず強力だとは聞いたが、これ程のものだったのか。


 焚火の周りに集まってとりあえず休憩だ。

 お茶を沸かして皆で飲む。


 「大怪我はないようだな。魔道士達も魔力切れだ。小さな怪我は薬草で処置してくれ」

 「ガドラー相手に、無傷は初めてだ。周りのガトルに噛まれた位なら問題はないが、この血糊は我慢しなければなるまい」


 そう言ってパイプに火を点けたガリナムさんの革の上着からは血が滴っている。

 とんでもない武人ぶりだったからな。

 ローエルさんが技で斬るのに対してガリナムさんは力で斬っていた。もろに血飛沫を体に受けてたのを視野の端で俺は見ていた。


 シグちゃんやファーちゃん達は服に点々と血糊が着いたぐらいだ。俺とレイナスは悲惨なものだ。明日には【クリーネ】が使えると、シグちゃんが言っていたから、それまでの辛抱だな。


 諦め顔で俺達もパイプを楽しむ。

 とりあえず依頼は終了したのだ。そして誰も大怪我を負った者はいない。俺的には満足出来る狩りが出来たと思う。


 「やはり、その道具を使う槍は効果的だな。4人揃えば青でもガドラーが狩れるぞ」

 「確かに……。王都に引き上げる前に数本作らせようと思っている。あれならグライザムにも有効だ」

 

 「私は、あの杖を作ってもらうわ。この魔道士の杖が陳腐に見えるもの。あの子達、ガトルを一撃だったのよ。隣で見てて思わず立尽くしたわ」

 

 黒レベルの連中は俺達の装備に肯定的だな。

 だが、グライザムなんて名前は始めて聞くぞ。

 

 「山麓の村々が大型の獣の被害に遭っている。出来ればローエル達を向かわせようと思ってやってきたのだが、この村でもガドラーが出るのでは、引抜く訳にはいかんな」

 「俺にはこの村で十分さ。王都にも黒は多いだろうに……」


 「ああ、……だが、あいつらを向かわせると帰ってこないのではと心配だ。青の上位をこの村に送る。少し鍛えてやってくれぬか?」

 「それなら歓迎だ。リュウイ達もいるし、色々と学ぶことも多い」


 ローエルさんがそう言って俺の肩をポンっと叩いた。

 ガリナムさんが送って来るとなれば、将来の黒レベルとして他のハンターを率いる者達なんだろう。そんなハンターを間近で見られるなら、俺達の技量も上がるんじゃないかな。


 「リュウイは経験がないが技量は十分青だ。仲間のレイナスは慎重さを持っている。そして2人の嬢ちゃん達の腕も確かだ。こいつ等が青になれば俺も安心して村を離れられるんだがな」

 「俺もそう思う。村のハンターでは終らせたくないのも確かなんだが」


 そう言って、バッグから真鍮の水筒を取出した。

 「カップを出せ」の言葉で、カップを集めると水筒の中身を注いで渡してくれた。

 中身は蜂蜜酒だ。村では売っていない上物だぞ。


 「おもしろい狩りが出来た祝いだ。これだけのガトルの死体があれば獣も寄り付かぬ。毛皮を剥ぐのは朝でも良かろう」

 

 そして、酒宴が始まる。

 レイナスがバッグから魚の干物を取出して焚火で炙って皆に配る。

 確かに、酒の肴に丁度いい。

 ネコ族のお姉さんが嬉しそうに丸齧りしているぞ。


 「これも持ってきたのか?」

 「地引網を手伝うと食べ切れない程貰えるんで、自分達で作ったんだ」

 

 「そういえば、番屋で暮らしてると言ってたな。あの風呂にも入ったのか?」

 「あれはリュウイが作ったようなものだ」

 

 「あれもか? 全く、王都にいればそんな知恵者はそれだけで飯が食えるぞ」

 

 ガリナムさんが、驚いたように俺を見た。

 それにつられたように皆が俺を見てるぞ。

 とりあえず、笑って誤魔化しておこう。


 「だろう。見ていても退屈しない奴らだからな。フェルトンの1件以来、こいつ等の成長が楽しみでしょうがない」

 「これの作り方を教えてくれよ。何度やっても1回撃つと曲ってしまうんだ」

 

 「簡単なんですよ。一度真っ赤に焼くんです。その後で水に入れると硬くなります。本来の鏃なら何度も叩いて練成するんでしょうけど、俺達にはこれで十分です」

 「ハンターなら、そんなことは考えもしない。だが、事実その鏃はフェルトンを貫通したんだ。全く恐れ入るよ」


 フェルトンの脅威がこれでなくなれば良いんだけどね。

                ・

                ・

                ・


 夜が開けると、俺達にシグちゃん達が【クリーネ】を掛けてくれた。

 血糊でごわごわになった衣服が元通りになる。体の汚れも取れたからサッパリした感じだ。

 朝食を終えると、早速ガトルの毛皮と牙を回収する。

 ローエルさんたちはガドラーの魔石を探っているようだ。


 これだけのガトルだと埋めるのも大変な作業になる。

 ガドラーは魔物だから少したてば体が無に帰るとのことだが、ガトルだけで100頭は超えるからな。

 次々と浅い穴にガトルの亡骸を転がして土を被せていった。


 「さてこれで終わりだな。焼けた毛皮は売り物にならんがそれでも86枚は多いぞ。牙は106本だ。良くも無事だったものだな」

 「それに魔石が2個だ。討伐料金の銀貨3枚と合わせれば、2980Lだな。1人248Lにはなるぞ」

 

 そんな話をしながら村に戻る。

 そして、俺達がギルドで受け取った金額は249Lだった。

 

 「矢を2本受け取っている。あまりはお前達に上乗せだ」

 「ありがとうございます」


 1Lだけだけど、確かに割り切れないからな。

 番屋に戻ると、銀貨2枚を手元において49Lをシグちゃんに渡す。合計196Lが俺達の共通費だ。

 これだけあればしばらくは安心だな。

 レイナスといっしょに風呂の水を汲んで今夜はゆっくりお風呂に入ろう。


 次はどんな狩りをするかな。

 そんな話をしながら囲炉裏を4人で囲む。

 

 「ところで、投槍と弓の中間の武器って何とかなるのか?」

 「ああ、そうだな。作ってみるか。だが、最初に言っておくけど弓のように連射出来ないぞ」

 

 クロスボウは強力だが、発射するのに手間が掛かる。

 とはいえ、ガトルクラスなら一撃で倒せるだろう。弓矢で倒すのは結構苦労するようだからな。




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