P-033 ガドラー狩り
背負い籠に古い毛布を入れて、その上に薄いパンの入った袋と大型の水筒を入れる。最後にシグちゃん達の弓矢をマントに包んで取出しやすい場所にいれて置く。
俺とレイナスは片手剣を背負ってウーメラは腰に差しておく。腰のバッグの上にはマントが畳んで付いているから、籠が背中に変に当たることはないだろう。
投槍を2本革紐で縛れば杖代わりに使える。
シグちゃん達は背中にメイスを差し込んで、短い杖を持っている。腰のバッグの隣には水筒がついているから、途中で飲むときは一緒に飲ませて貰おう。
そんな出で立ちの俺達がギルドに着いた時には、既に2つのパーティが揃っていた。
「やって来たな。今日は第4広場の奥で野宿だ。早速出掛けるぞ」
ガリナムさんのパーティは、トラ族のガリナムさんに人族の男とネコ族の男女だ。
俺達のパーティを珍しそうに見ている。
「ほう、その細い槍が噂の奴か?」
「夕食前に見せて貰え。投槍の常識が変わるぞ」
適当に休憩を取りながら、俺達は森を進む。第2広場ではお茶を飲みながらの一休み。
早速、俺達はパイプに火を点けた。
「今回は特注品は無しか。お前達と狩りをすると何時でも驚かされるんだが……」
「そうでもないわ。お嬢ちゃん達が持っているのが、今回の目玉になると思うわ。あれって、魔道師の杖を改良してるのよ」
そんな話をしているので、シグちゃんからメイスを借りるとレビトさんに見せてあげた。
「打撃武器に魔道士の杖の先端部を埋め込んでるのね」
レビトさんが立上がって、メイスを振っている。
「何だ? おもしろそうな武器だな。ちょっと貸してみろ」
目ざとく、ガリナムさんがそのメイスを見て歩み寄った。
数回振って満足したのか、直ぐにレビトさんに返してる。
「ローエル。あの棍棒をどこで手に入れたんだ? あれを両手に持てば、ガトル等軽く倒せるぞ」
そんなことを言ってパイプを吸い始める。
「それ程の物か?」
「ようは、使い方だ。場合によっては恐るべき武器になるな。リュウイは、分かっているな?」
「あれは、鉄板で作った鎧用に開発された武器です。長剣では斬る事も出来ないような相手でも、打撃には弱いところがありますから。
家の女の子も非力ですから、数打ちの片手剣で野犬を相手にするのは問題です。棒で殴るのが精一杯。それならと形にしました」
「たぶんガトルの頭骨位なら粉砕出来るな」
「それでいて、魔道士の杖の効果を持ってるのね。う~ん、私も作ろうかしら?」
「これは銀貨25枚でしたよ」
そう言って、レビトさんから受取ったメイスをシグちゃんに返してあげる。
「昔、戦場で棒に鎖を巻いて使ったことがある。あれと似た様な感じだが、俺も土産に作って貰おう。魔法の効果は要らぬから少しは安くなるだろう」
そんな話で休憩が終る。
まだ日がある内に第4広場を横切って、森の手前で今夜は野宿する手筈だ。
森を歩きながら、適当に薪を拾って背負っている籠に入れていく。
野宿の場所は、ガリナムさんが慎重に選んで場所を決めた。
太い立ち木が密になって並んだ場所の周りには、太さ20cm程の低木が数本生えていた。
「ここで良いだろう。薪は沢山集めろ。とりあえず焚火を作ってお茶を沸かせ、俺達は周囲にロープを張る」
荷物を一箇所に降ろして、籠を担いで薪を集める。
ここまで薪を取りに来るものはいないから、直ぐに籠一杯に集まった。
それを皆のところに運んで、再度薪を集めに向かう。
ついでに、5cm程の丸太を3本運んできた。ちょっとした柵を作れるだろう。
夕闇の中を野宿場所に帰ると、直径10m程の柵が出来ていた。
かなり太い丸太を蔦で縛って柵を作っている。何箇所かには杭が打たれ、柵が動かないようにしてあった。
背後が立木で柵のようになった場所の手前に杭を3本打って、籠を縛り付ける。横木を通せば立派な柵になる。
そんな俺達をおもしろそうな目でガリナムさんが見ていた。
「後、3本杭を追加しろ。横木は2本使え。そうすれば、女達がそこに入れる」
早速、レイナスと余った杭を使って柵を拵える。ロープを杭に回しておいたから、十分、足止めにはなるだろう。
「妹達をそうやって面倒をみてきたのか。あれなら安心して俺達を援護できるだろう」
「まだ小さいですからね。年上なら仕方ありません」
そんな俺達にフラスコの酒をついでくれた。
結構強い酒だ。咽てしまったぞ。
焚火に鍋を掛けてスープを作る。2人のネコ族の人が見えないと思っていたら、ヤクーを担いで帰ってきた。
内臓と革は剥いであるから、適当に切り分けて焚火で焼いている。
味付けは塩だけだが、結構贅沢な食事が出来た。
「100D先に内臓をばら撒いてきた。たぶん今夜来る筈だ」
「最初は、リュウイ達に任せる。次にローエル、最後は俺達で良いな」
そう言って焚火の近くで横になった。
籠の上にシグちゃん達が弓矢を準備している。俺達の投槍とウーメラも籠の上だ。
背中の片手剣と採取用のナイフはしっかりと研いである。
「去年はフェイトン。今年はガトルってことだな」
「まあ、年一回だと思えば気も楽だ。それに俺達だけで対処する訳じゃないしな。黒レベルの狩りを体験させて貰えるんだから、ありがたい話だと思うよ」
レイナスは俺の話を聞きながら頷くと、パイプにタバコを詰めて火を点ける。
夜は長いからな。俺もパイプを取出すと一服を楽しむ。
シグちゃん達はバッグから毛糸球を入れた籠を取出して、ファーちゃんと話をしながら編んでいる。
そして、星の動きで交代時間が来たことを確認すると、ローエルさん達に焚火の番を代わって貰う。
何事もなく夜が明けた。
朝食を終えたところで、ガリナムさんのところの猫族のハンターが周囲の偵察に出掛ける。
俺達は近くで薪を集め、ローエルさん達は柵の補強を行っていた。
夕食を食べながら、ガリナムさんが話を始めた。
「やはり知恵はあるようだ。撒いた餌が無くなってる。今日もばら撒いたが、昨日よりはここに近い。そして、足跡で分かったガドラーは2頭のようだぞ」
「青じゃ、歯がたたんだろうな。逃げることすら出来なかったろう」
「そして、2頭となると俺達も奴らの獲物になりかねない。柵を補強しといて良かったぞ」
「となると、最初の一撃はリュウイ達にも手伝って貰う必要があるな」
「そう言うことだ。例の投槍、見せて貰っても良いか?」
早々と夕食を終えてお茶を飲んでいたレイナスが立上がった。
投槍を2本籠から引抜いて30m程先の大木を指差すと、ウーメラを使って投擲する。
ブン!っと音を立てながら飛んでいくと、大木に突き立った。
続けて、火箸を穂先にした投槍を投擲した。
大木にガリナムさん達が、レイナスと一緒に向かって状況を確認している。
「十分だ。あれなら一撃でガドラーの頭蓋骨を貫通できる。こっちを使え」
焚火に戻って来たガリナムさんが、火箸の穂先を付けた投槍を選択した。
「例え外れても、当たれば深く刺さる。それだけ俺達の攻撃が容易になる筈だ」
そんな事をローエルさんと話しながら頷いてるが、2人の武器は長剣だぞ。槍を使わないのだろうか?
「それなら、矢も使えませんか?」
「そうか。お前達はフェルトン用の矢を持ってたんだな」
シグちゃんが鎧通しの矢を持ってきた。
ガリナムさんとガリナムさんのパーティの猫族の女性が、変わった鏃が付いた矢を見ている。
「これが、フェルトンを貫通したという矢なのか? まるで釘を先に付けているような感じに見えるが……」
「村で売っていた一番長い釘で作りました」
「だが、釘を使ったなら曲ってしまうぞ。それに砥いでも直ぐにナマってしまう」
「そこは工夫しました。2本進呈しましょう」
残りは4本ずつだから、また作っておくか。結構使えそうだし……。
「俺のパーティも持っている。都合、4人がこの矢を放つことが出来るぞ」
「それと、あの強力な投槍か……。勝機が見えて来たな」
シグちゃんが2本の矢をネコ族の女性に渡し終えると、再度配置の打合せが始まる。
どうやら、ガドラーは最後に登場するらしい。
最初に、【メルト】で群れを散らし、ガトルの一斉攻撃を避け、柵を越えようとするガトルを各個倒していくことになりそうだ。
「先程の矢を必ず残しておけよ。上手くいけば長剣以外で倒した始めての例になりそうだ」
「ダメ元でやってみるが良い。それでも手傷を負う筈だから俺達には都合が良い」
配置に従って準備を行い、俺達は最初の焚火の番を始めた。
渋いお茶で眠気を覚ましながら、パイプを楽しんで時が過ぎるのを待つ。
星空の位置が大分変わって、そろそろローエルさん達を起こそうかと考えていると、レイナスの耳がぴこぴこと動いている。
シグちゃん達は既に編み物籠をバッグに仕舞い込んでいた。
「来たのか?」
「まだ、先だがローエルさん達を起こした方が良いだろう。俺達が起こすから焚火に薪を追加しといてくれ」
直ぐに全員が焚火の周りに集まった。シグちゃん達がお茶を配っているから、目も覚めるだろう。
「この焚火の左右の柵に近い場所に薪を積んであるな。奴等の姿が見えたらローエル火を点けてくれ」
「光球は?」
「柵の左右と中央に1個ずつ。柵の前方10D(3m)で15D(4.5m)上空だ。柵の中にも2つ程上げたい」
「それは、私が担当します。何時上げれば良いですか?」
「ローエルが焚火を点けたら直ぐにやってくれ」
シグちゃんの名乗りに、ガリナムさんが指示を与える。
レビトさんが立上がって、俺達に【アクセル】を掛けてくれた。
いよいよってっ感じがしてきたな。
「まだ、距離がある。今から緊張していてはイザという時に動けんぞ」
俺達の顔を見て、ガリナムさんがパイプを加える。
リーダーともなるといろいろと気遣いが大変だな。
俺達がパイプを取出したのを見て、頷いているところをみると、やはり俺達が心配なんだろう。
「そうだ。レビトさん。これを使いませんか? その棒よりは役立つと思いますよ」
そう言って、バッグの袋から小さな斧が頭に付いた片手斧を見せた。
「小さな頭ね。ありがとう。貸して貰うわ」
斧の反対側はハンマーに使えるように平らな面だ。メイス代わりに使えるんじゃないかな。
ガリナムさんが立上がるのを見て、俺達も焚火の傍から立上がる。
「さて、始まるぞ。ローエル、嬢ちゃん頼んだぞ!」
左右に積上げた薪が燃え上がり、シグちゃんが都合5つの光球を出現させた。
柵の外には遠巻きで俺達を伺う沢山のガトルが見て取れる。
それをじっと見ながら、ゆっくりと背中の剣を引抜いた。