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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-031 イネガル狩り

 皆が起き出したところで、女性達が朝食用のスープを作る。

 俺達男性は周辺の木々に張り巡らしたロープを解いて、背負い籠やバッグに詰め込んだ。

 毛布やマントも畳んで入れて置く。

 

 「これからが、イネガル狩りだ。あいつらは森の中で数頭の群れを作る。単独ならそれなりに狩れるんだが、3頭となると少し面倒になる。そこで奴らの習性を利用して狩るのだが……」


 群れを見つけたら、立木を利用して丈夫な革紐を地面から1D(30cm)の高さに張る。

 そして俺達は木の後ろに隠れることになる。

 この状態で、1人がイネガルの視界に態と入ると、縄張りに侵入した者に対して攻撃する。

 イネガルの攻撃は前方に向かって突き出した2本の牙と1本の角だ。そして真っ直ぐに突っ込んでくる。

 張り巡らした革紐にイネガルが足をとられて転倒したその時に、槍や長剣で攻撃すると教えてくれた。


 「だが、お前達の投槍の腕を見せてもらった。イネガルが突進してきたら投槍を構えて進路に立て! そして転倒したときに放てば……上手くいけば2頭倒せる。残り1頭なら俺達で十分に狩れる」


 そう言って、地面に棒を並べて各自の配置を指示してくれた。

 俺が左でレイナスが右だな。後方に弓の持ち手が3人いるから、万が一仕損じてもかなりの痛手を与えられるだろう。鏃だけでも長さが10cm以上あるからな。

 

 レビトさんが俺達に【アクセル】を掛けてくれた。それが終ると焚火を消して、俺達は森に分け入る。

 女性3人を中に入れて、俺達は広く散開して獲物を探す。

 獲物を探すのはあまり得意でないが、俺の前にはレイナスがいるから安心出来る。やはりネコ族の勘の良さは頼りになるからな。


 足音を忍ばせながら2時間程歩いた時、レイナスが左手を横にして、短く口笛を小さく吹く。

 ゆっくりとレイナスのところに俺達が集まると、レイナスはゆっくりした動作で森の奥を指差した。

 

 「いたぞ。ガトルよりも2回り程大きい奴だ。まだ成獣では無さそうだな」

 「あれか、この辺りでは十分成獣だ。フェルトンがいるからな。大きくならないんだ」


 去年山の村で見掛けたイネガルよりは確かに小さい。それでも、俺の倍近い体格をしているぞ。重さも100kgは軽く超えてるだろう。

 捕食者に合わせて体型が変化したんだろう。本来なら何千年も掛かってそうなるんだろうが、この世界も似たようなことが起こっているのだろう。それ程離れた場所でもないのに体型が変化したということは、短期間に進化したのかもしれないな。

 だが、4頭いるぞ。上手く狩れるんだろうか?


 「革紐を張れ。そこと、あの木の間だ。嬢ちゃん達はあっちの木の陰で待機してくれ。リュウイ達はその木の前だ。俺達は、あの木の陰に隠れる」

 

 ローエルさんの指図で俺達はゆっくりと持ち場に移動する。

 前衛がローエルさん達で槍を使うようだ。中衛が俺とレイナスで投槍を使う。そして後衛のシグちゃん達は3人で弓を使う。レビトさんもシグちゃん達のところに待機している。

 イザとなれば【メル】の火炎弾で牽制してくれるのだろう。


 丈夫な革紐を30m程の範囲で張り終えた男がローエルさんに報告している。

 そして、男が持ち場に移動したことを確認したローエルさんが、俺達の方に向かって槍を上げて合図を送ってきた。

 いよいよ狩の始まりだ。槍を地面に突き立て、1本の投槍を掴むと柄にウーメラの突起を差し込んだ俺達は、姿勢を低くすると互いに顔を見合わせて小さく頷いた。


 ローエルさんがいきなり飛び出して、ガサガサと繁みをやりで突きながら大声を上げた。

 誘っているようだ。

 そんなローエルさんに200m程先のイネガルは気が付いたようだ。こっちを見ているぞ。

 

 俺とレイナスは互いに頷くと立上がってイネガルに姿を見せた。

 そんな俺達の所にローエルさんが走って来た。と同時にイネガルもこちらに突進してくる。


 「来ました!」


 俺の声に頷いたローエルさんが姿勢を低くして素早く横に移動する。

 これで、イネガルの目標は俺達になったな。


 ウーメラを後方に伸ばして、槍先を革紐を張った辺りにして構える。

 事前に、俺が左でレイナスは右を狙うと決めているから、転倒する瞬間を狙えばいい。

 

 前方を走って来たイネガルがいきなり転倒した。と同時に俺達の投槍が宙を飛ぶ。

 直ぐに次の投槍をウーメラにセットして構える隙に、シグちゃん達が矢を放った。

 そして2本目の槍が矢で深手を負ったイネガルに突き刺さった。


 槍を掴んでウーメラを腰に差し込むと、イネガルに向かって行く。

 俺達が30m程の距離を走る間に、ローエルさん達が既に止めの槍を突刺していた。


 ネコ族の男がロープを腰に巻くと傍の木に登って行く。

 早速、内臓を取去るのだろう。内臓を取去るだけでも軽くなるからな。


 「4頭を仕留められるとは思わなかった。直ぐにソリを作ってこの場を離れるぞ」

 

 俺達で細めの木を切り出しに向かう。その間にローエルさん達がイネガルの内臓を取去ってくれるだろう。


 俺達で10本近くの木を運び、レビトさんが蔦を輪にして運んでくると、ローエルさん達が手際良くソリを組み立てて、イネガルを蔦で固定する。

 俺とレイナスで少し離れた場所にソリを移動すると、シグちゃん達は周辺の見張りに付いた。

 これだけ血の匂いがするからな。野犬やガトルが現れるのは時間の問題だろう。


 「出来たぞ。直ぐに移動する。1つのソリを2人で運ぶんだ」


 ローエルさんの指示で俺達はソリを引く。まだ、【アクセル】が利いているとはいえ、結構な重労働だ。

 15分程引いて数分休みながら、第4広場まで引いてくる。広場を抜けた森の際で小さな焚火を作って休憩した。

 疲れてるんだろうな、お茶が美味しく感じられる。


 そして、タバコを吸いながら雑談が始まる。シグちゃん達も駄菓子を食べながらレビトさんと話をしてるぞ。


 「やはり、その投槍は威力があるな。近くで投げた槍よりも深く刺さっている。イネガル狩りにはもってこいだ」

 「この鏃も凄い威力だ。完全に柄まで刺さっていた。イネガルの顔の骨を貫通していたぞ。頭に当たっていたら、それでし止められた」


 そんな話を聞くと嬉しくなるな。

 ローエルさんは俺から再度、ウーメラと投槍を借りて使い方をレイナスに聞いている。

 そして、近くの大木にウーメラを使って投槍を投げた。


 「なるほど、それ程難かしくは無さそうだ。しかも穂先だけを武器屋に頼めば十分だ」

 「作るのか? 俺も頼んでおくぞ。リュウイの名を出せば同じ物が手に入るだろう」


 そして、再びソリを引く。

 第2広場を通り越した森の際に着いた時には、日が落ちかかっていた。

 

 急いで薪を拾って焚火を作る。

 今夜はここで野宿だ。狩をした場所から離れたとはいえ、血の匂いを追いかけて来る獣がいないとも限らない。

 薄暗くなった森から更に薪を集め、周辺にロープを張って、野犬やガトルの襲撃に備えた。


 夕食は何時もより塩気のあるスープに、薄いパンを浸して食べる。

 疲れた体には甘い物も欲しいけど、塩気のあるのもありがたい。

 最後に魚の干物を焼いてお茶を飲む。


 「昨夜と同じ順番で焚火の番だ。何かあれば、直ぐに全員を起こすんだぞ」

 

 ローエルさんが念を押すように俺達に告げる。

 やはり、獣の襲撃を気にしているようだな。

 俺達は一服を終えると、焚火近くで横になる。

                ・

                ・

                ・


 ゆさゆさと体を揺すられて目を覚ます。

 シグちゃんが起こしてくれたようだ。

 目を擦っていると、レビトさんがお茶のカップを渡してくれた。

 渋いお茶での効果か、頭がはっきりしてきたぞ。

 

 まだ真っ暗で星空という事は……。


 「野犬ですか?」

 「たぶん、そうだと思うわ。広場の東にいるみたいなの」


 血の匂いを追って来たんだろう。ガトルじゃなければ良いんだが……。

 皆が起きたことを確認したローエルさんが焚火に薪を投げ込んだ。少し炎が大きくなったが、広場の向こうまでには届かない。

 

 「レビト、光球を投げてみろ」

 

 レビトさんが【シャイン】を唱えて作った光球を広場の東に投げた。

 ふわふわと飛んでいく明かりで広場の奥が見えてくる。


 「ガトルか……。数は20というところだろう。襲ってくるのは間違いないだろうな」

 「あっちからも、来てるにゃ!」


 少し北の方角をファーちゃんが指差した。

 

 「群れが2つか。面倒だぞ。どうするんだ?」

 「レビト、そろそろ俺達の【アクセル】が切れるだろう。もう一度全員に掛けて、襲ってきたら【メルト】を使え」

 

 「【アクセル】なら私が掛けます。【メル】用に魔力を温存してください」

 

 そう言って、シグちゃんが俺達に【アクセル】を掛けて回る。

 そして急いで袋の中から予備の矢を取出している。

 そういえば、レビトさんは魔法攻撃だけなんだよな。魔力が尽きたら、短剣を下げてるからそれを使うのだろうか?


 「少し重いですが、使ってください」

 「良いの?」


 「ええ、片手剣がありますから。それに、これも使えます」

 

 そう言って、バッグの袋からハンドアックスを取出した。

 柄の長さは40cm程で、先端の斧は小さく反対側は殆どトンカチだからな。

 柄の滑り止めに巻いた革紐の一部は手首を通せるように輪を作ってある。フレイル代わりに使えそうだ。


 「レビト、使わせてもらえ。ガトル相手となると俺達も長剣だ。俺の槍では少し長すぎるからな」

 

 俺も使って貰ったほうが安心出来る。

 シグちゃん達にガトルが接近した時に守ってもらえるからな。


 「俺は右だ、リュウイは左を頼む。お前達は中央を何とかしてくれ」

 

 ローエルさんが俺達の配置を指示すると、焚火の周りで俺達は場所を入替える。

 

 「野犬なら、槍でぶん殴れば良いんだが、ガトルは厄介だな」

 「まあ、その手もあるが一撃で倒せない場合が多いからな。ガトルはやはり剣になる」

 

 群れが散っているなら、俺達の槍の柄は太いからそれなりに使えるんだが、たまには剣を使ってみよう。

 レイナスも片手剣を新調しているから、やる気満々だぞ。

 そんなことを考えながらパイプに火を点けた。待っているのは退屈だからな。


 「来るぞ。光球を上げろ!」

 

 じっと森の奥を見ていたローエルさんが叫んだ。

 レビトさんとシグちゃんがそれぞれ光球を作って俺達の真上に上げる周囲が明るくなったところで急いでパイプを腰に差し込む。吸わなければ独りでに消えるから、こういう時には便利だ。

 

 焚火の傍から立上がって、数歩。前進してガトルを待ち受ける。おれはレイナスよりやや左に位置を変える。

 この位置なら、シグちゃん達の盾になれるだろう。

 周囲に張った、ロープが柵代わりになるから、直接飛び込んで来るガトルは少くない筈だ。


 2つの黒い群れが俺達に迫ってくる。

 俺達の手前30m程に来たところで、広範囲に爆裂が広がった。

 群れに1回ずつ【メルト】が炸裂したところで、群れに向かって矢が飛んでいく。


 キャンキャンっと叫ぶガトルは放っておいて柵を飛び越えてきたガトルに剣を振るった。

 ズンという軽い手応えで剣が振りぬかれる。

 

 更に飛び越えてきた数匹に向かって「ウオォー!」と雄叫びを上げて、剣を振り上げながら駆け寄った。

 剣を振り回し、斧をガトルの頭に叩き込む。

 【アクセル】で身体機能が上昇したからだろうか、ガトルの動きがはっきりと分かるぞ。

 そんな戦いがやがて途絶えると、柵の周辺に沢山のガトルが息絶えていた。

 

 「終ったか……。リュウイ達は穴を掘ってくれ。レビトは嬢ちゃん達と周辺の監視だ。その前に、嬢ちゃん達の矢を回収して【クリーネ】を掛けてやってくれ。だいぶ助けられたからな」


 確かに、10匹以上のガトルに矢が刺さっている。

 即死とはいかないまでも、深手を負ったガトルは簡単に倒せるからな。

 

 俺とレイナスで広場の一角に穴を掘り始める。

 スコップナイフで掘るんだからあまり深くは掘れないけれど、広く浅く掘っていった。


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