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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
28/128

P-028 ヤクー狩り

 お風呂作りの報酬として、サルマンさんは銀貨20枚を俺達に渡してくれたが、俺達は半分の10枚を受取った。

 食事は全て出して貰ったし、俺達もたまに利用させて貰う腹積もりもあってのことだ。


 「ならば、この金はもう1つのお風呂に使わせて貰おう。評判を聞きつけてなぁ、いつも満員だ」

 「珍しいもの見たさもあるんでしょうか?」


 「そうじゃねぇ。年寄りには好評だ。やはり歳を取ると体を暖めるのが一番だな。俺も腰の痛みが少し和らいだ気分だ」

 「ですが、あまり薪を取ると森が荒廃しますよ」


 「その辺りは考えがある気にするな」


 そう言って、俺達の番屋を去って行った。

 シグちゃんが俺達に銀貨を2枚ずつ分けてくれた。残りの銀貨2枚は共通費ってことになるようだ。


 「さて、そろそろ俺達も本業に戻ろうぜ」

 「そうだな。今の季節だと何になるんだ?」


 という事で、俺とレイナスはギルドに出掛けて行く。

 ミーメさんに挨拶すると、小さく片手を上げて挨拶を返してくれた。

 

 掲示板には依頼書が沢山張ってある。

 俺達のレベルはレイナスが白1つで、俺とシグちゃん、そしてファーちゃんが赤の9つだ。だいぶ上がったのは、この間のリスティン狩りの結果だろうな。

 ということで、白3つまでの依頼を受けられるのだが……。


 「採取じゃなくて、狩りがしたいぞ!」

 「そうだな。そうなると……この辺りか?」


 そう言いながら、レイナスが指差したのはヤクー狩りの依頼書だった。 

 

 「ヤクーってのは、狙うハンターが多いと聞いたぞ!」

 「だが、だいぶあるぞ。町から来ていたハンターも帰ったんじゃないかな?」


 レイナスの説明では、リスティンをグッと小さくしたような草食獣らしい。成長してもリスティンの子供位の大きさと言うから、ガトル程の大きさだ。


 「弓で狩る事になるんだが、俺達には2人も弓が使えるからな」

 「俺とレイナスの役目は?」


 「獲物運びと護衛だな。ヤクー狩りはハンター以外にも、ガトルや野犬、それにフェルトンも狙うからな」

 「フェルトンは厄介だぞ」


 「森の奥に行かねば問題ないはずだ。リスティン狩りをした辺りならそうなるかも知れないが、第3、第4広場までならフェルトンは普段出ないって聞いたぞ」


 という事は、第2広場の先にある森が俺達の狩場になるのかな。

 あの辺りなら往復で3日というところだろう。


 俺が頷いたことを確認したレイナスは、依頼書を手にしてカウンターに持って行った。


 「ヤクー狩りね。レベル的には問題ないけど、森の奥は危険よ」

 「大丈夫。精々第3広場までの森で狩るつもりです」


 依頼書に確認印を押しながら、そう言って心配してくれたミーメさんに答える。

 

 「なら、心配はいらないわ。結構重いから狩り過ぎないようにね」


 そんな注意を俺達に与えて依頼書を帰してくれた。1頭が40Lになるようだ。頭数の制限が無いから、確かに欲を出すのは問題だろうな。

 早速、番屋へ戻ると狩の準備を始める。

 

 シグちゃんとファーちゃんは薄いパンを焼き始め、俺は2人の鏃を研いで、レイナスは俺達の片手剣と槍を研いでくれた。


 古い薄手の毛布を俺とレイナスで持てば、暖かくなってきたから夜もこれで過ごせるだろう。

 獲物を運ぶのは大きな背負い籠だ。獲物が少なければ薪も運べる。

 俺とレイナスが杖代わりの短い槍を持って、シグちゃん達は身軽な格好だ。それでも腰のバッグには食料と大型水筒が魔法の袋に入れて入っている。

 そのバッグの上に雨具代わりのマントをぐるぐる巻いて縛ってある。

 マントハ俺達も一応持っていくから、雨が振ってもずぶ濡れにはなら無いだろう。


 「こんなところか?」

 「そうだな。ファー、明日はお前とシグちゃんが頼りだからな」

 

 「任せるにゃ!」

 

 そう言って元気に返事をしてくれた。シグちゃんもうんうんと頷いている。

 

 次の日。

 軽い朝食を食べると、囲炉裏の火を落として俺達は村を北に抜ける。

 門番さんに挨拶をすると、「気を付けて行けよ」と手を振ってくれた。

 そんな門番さんに、シグちゃんとファーちゃんが手を振っている。

 俺とレイナスは軽く頭を下げた。


 「やはり、村は良いなぁ。皆親戚みたいだ」

 「そうだな。獲物をお裾分けしても直ぐに他の物に変って帰ってくるし、何かあっても相談に乗ってくれるからな」


 「町や王都では無理だな。何かいつも他人を監視しているような感じなんだ」


 胡散臭いと思われてたに違いない。

 村は余所者は嫌うところがあるが、一旦住人になると仲間意識が働くからな。

 サルマンさんの番屋に住んでいなければ俺達もまだ村に溶け込んでいなかったのかも知れないな。


 森の手前で小さな焚火を作って休憩する。

 パイプにタバコを詰めて焚火で火を点けた。お茶を飲みながら外で吸うタバコも久しぶりだ。

 

 「やはり、外は良いな」

 「ああ、しばらくお風呂作りに励んでたからな。ファー達の腕が鈍っていないことを祈りたいよ」


 「たまに2人で練習してたにゃ。大丈夫にゃ」


 そう言って、ファーちゃんがレイナスに食って掛かるのもおもしろいな。

 シグちゃんがそんな2人を寂しそうに見ている。確か兄貴がいたんだよな。


 休憩を終えた俺達は、久しぶりに森へと入った。

 先行はレイナスで、その後ろに弓を持ったシグちゃんとファーちゃんが続く。俺は槍のケースを外して少し後方を歩く。


 第1広場に出るまでは、遠くに野犬を見掛けた位だ。

 初夏になりかけだから、獣は広範囲に広がっているんだろう。草食獣だって食べ物に困らないからな。

 こんな季節に森にいるのは臆病な奴ばかりの筈だ。


 広場で再度休憩を取る。

 いよいよ本格的な狩りだ。その前に疲れは取っておく必要がある。

 そんな休憩時間を利用して、シグちゃんが俺達に【アクセル】を掛ける。昼過ぎだから夜半までは有効だ。


 「そろそろ本格的に始めるぞ。横隊で進む。両端は俺とリュウイだ」


 レイナスの言葉に当然とばかりに俺は頷いた。

 狩りをするのはシグちゃん達だが護衛は俺達だからな。


 休憩を終えてゆっくりと森に分け入る。

 姿勢を低くしてなるべく遠くを見る。そして音を立てないようにゆっくりと歩いて行った。


 ヒュイっと口笛が鳴る。

 レイナスを見ると中腰で腕を伸ばしている。その先には……草を食んでいる野犬よりも少し大きな鹿のような獣がいた。あれがヤクーだな。


 ゆっくりとレイナスに俺達は集まった。


 「良いか。ファーとシグちゃんで左右から狩るんだ。100D(30m)位で弓を使えば良いだろう。俺はファーと一緒に左に行く。リュウイは右に回ってくれ。弓を射る合図はヤクーが頭を上げて首を振った時だ」


 アバウトな合図だが、離れてしまっては連携できないからな。

 そして、首を振った時と言うのは、俺達に気付いて逃げようとする前触れなんだろう。


 1M(150m)以上離れて円を描くように移動する。

 身軽なレイナス達は既に予定の場所に到着したようだ。レイナスが槍の柄を上に上げて教えてくれた。

 

 とは言え俺達はゆっくりと進む。

 音を立てないようにするのは至難の技だ。ネコ族はハンターとしての素質があるが生憎と俺達は持っていないようだ。


 それでも、レイナス達の倍近くの時間を掛けて予定の場所に付く事が出来た。

 準備が出来たことを槍の柄を上げてレイナスに教えると、向うも上げ返してきた。


 シグちゃんの肩を軽く叩くと頷いてくれた。

 矢筒から矢を抜いて弓につがえると静かに弦を引いた。

 全部で5匹か、シグちゃんが狙ってるのは一番近くの奴だな。


 突然1匹が頭を高く上げると耳をピンと張って辺りを見渡すように左右に振った。

 シュタっと弦が鳴って、シグちゃんが次の矢を素早く放つ。

 2匹が跳ねるようにして森の奥に姿を消した。


 俺達は立ち上がると、槍を手に獲物に近付く。

 レイナスが先に獲物に辿り着いたようだ。槍で止めを刺している。


 「上手く行ったな。3匹だ。シグちゃんも1匹狩れたんだから大したものだぞ」

 「やはり2矢は外れました」

 

 ちょっと残念そうにシグちゃんが呟いた。

 放った位置を確認しながら、俺が外れた矢を回収してシグちゃんに渡す。


 「それでも1匹は狩れたんだ。気を落とす事は無いよ。レイナス、次ぎはどうするんだ?」

 「ちょっと待ってくれ。とりあえず血抜きをしないとな。そうだ、これから狩りをすれば夜になってしまう。野宿用に薪を集めてくれ」


 俺とシグちゃんで森の中から適当に薪を拾って俺の担いでいる籠に入れていく。

 余れば明日も使えるからな。少し余分に取ってもだいじょうぶだろう。


 第1広場の片隅で焚火を作る。大きな立木が後ろにあるから、ロープを数本張って即席の柵を作る。

 その袂で寝れば安心できるだろう。焚火も大きいからな。


 「距離はあるから、こっちには来ないと思うが獲物を籠に入れているからな。注意は必要だと思うな」

 「そうだな。来るとすれば、ここなら野犬か?」


 「そんなところだ」


 そう言ってパイプを上手そうに吸っている。とりあえず3頭だからな。幸先は良さそうだ。

 

 「ところで目標は?」

 「3匹は俺が担げる。リュウイも同じ位は担げるだろう?」

 

 6匹ってことだな。

 

 「ああ、だいじょうぶだ。4匹でも何とかなるぞ」

 

 そう言って、俺もパイプに火を点ける。

 

 そんな俺達を見ながらシグちゃん達は夕食を仕上げていた。

 簡単なスープに薄いパン。パンには薄いハムが挟んであった。

 帰ったら、ヤクーの焼肉が食べられそうだな。


 食事が終ると、俺とシグちゃんで焚火の番をする。

 夜半過ぎにレイナス達と交替だ。


 お茶を飲みながら2人でのんびりと過ごすのも良いものだ。

 俺がパイプを取り出すと、シグちゃんは魔法の袋から編み物を入れた籠を取り出した。自分だけの分ではなく、俺の分間で作ってくれるからな。

 暖かくなっても、冬に備えるって事なんだろう。


 一服を終えると、数本の薪を焚火に投げ入れた。

 たまに、野犬の声を遠くに聞くが近寄っては来ない。季節がら向こうも獲物に苦労していないようだ。

 それでも、槍は手元に置いてある。

 そして、腰の後ろに差した片手剣も何時でも抜ける状態だ。

 シグちゃんも光玉を左右に作った後は、魔道師の杖をベルトに挟んでいる。

 とりあえず、隙を突いてこようとする獣に一撃を与えられる状態ではあるな。


 「リュウイさん。お茶はどうですか?」

 「ありがとう。頂くよ」


 空になって傍に置いてあるカップに、シグちゃんがお茶を注いでくれた。

 ジッとしてると眠くなるから、たまに苦いお茶を頂いて眠気を覚ます。


 そして、目標にしていた大きな星が西にだいぶ動いた事を確認して、レイナス達と焚火の番を交替した。

 薄手の古い毛布を敷いて、その上にマントを羽織って横になる。

 明日は1日中狩りになるな。


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