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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-024 春の薬草採取

P-024




 罠猟をしながら森を廻っていると、何時の間にか新芽が膨らみ始めているのに気がついた。

 そういえば、日中はだいぶ暖かくなってきている。

 罠猟を終えて、再び薬草採取を始められるのももう直なのかもしれないな。


 そんな、罠猟の合間に森の広場で一休み。

 のんびりとお茶を飲みながら周囲を眺めている。


 「だいぶ温かくなってきたな」

 「たぶん、ここでもグリルの採取依頼がある筈だ。春になって取れる最初の薬草だ」


 そう言って、レイナスが説明してくれた。

 前の村でもらった図鑑にもちゃんと載っているけど、どうみてもフキノトウだな。

 蕾の状態で採取して一度茹でるらしい。そして陰干ししてこの季節になるとやって来る商人に販売するということだ。


 「山間の村では沢山取れるらしいが、ミーメさんの話では、この村でも沢山取れると言っていたぞ」

 「茹でるにしても、陰干しでも俺達には番屋があるから便利だな」


 俺の言葉に皆が頷く。


 「生のままだと値段が下がるんです。3個で2Lの引き取り価格が、5個で2Lで取引していました」


 シグちゃんが昔を振り返って教えてくれた。


 「そうなるよな。茹でる位は鍋でもできるんだが、その後の陰干しが丸1日だからな。ハンターにはちょっと残念な薬草だったんだ」


 レイナスも苦い思いをしたようだ。

 だが俺達には、海鮮鍋用の大きな鍋もあるし、干物作りに使ったザルもある。

 1日おきに採取すれば体も休めるし、丁度良いかもしれないな。


 それから数日が過ぎて、何時ものように罠猟で森を歩いていた時だ。

 ファーちゃんが今年最初のグリルの蕾を見つけた。

 周囲を注意深く探すと、結構地面すれすれに芽を出してるようだ。


 「少し早いかもしれないが、蕾が親指位になったら採取しようぜ。採取して1日経つと蕾が開いてしまうんだが、茹でてしまえば日持ちがするんだ」

 

 3日もすると、かなりのグリルが顔を出している。結構成長が早いようだな。蕾がだいぶ膨らんでいる。

 

 そして、いよいよ俺達のグリル採取が始まる。

 まだ、依頼はないんだが陰干ししたグリルは長期間保存が効くらしい。

 ならば俺達には丁度いい仕事になる。


 背負い籠に少し底の深い手籠を入れると、早速ギルドに出掛ける。

 一応、依頼を見越して採取する訳だから、ミーメさんには断っておいた方が良いだろうからな。


 掲示板の依頼書にはやはりグリル採取の依頼は無かった。

 カウンターに行ってミーメさんに確認を取る。


 「もう、出てるんですか? 採取の方は問題ありません。知らせてくれてありがとう。早速、薬剤ギルドに連絡するわ。2日もすれば賑わうわよ」

 「なるべく森の中で採取します。村の人も採取する筈ですよね」


 「そうしてくれるとありがたいわ。村のおばさんや子供達も採取することになるから」


 シグちゃんの言葉にミーメさんが応えてくれた。

 やはり春先の薬草採取は村人総出になるのかな?

 だとしたら、畑や荒地は俺達の対象外にすれば問題もないだろう。


 という事で、森の第2広場付近を目指して歩き出す。

 罠猟の確認と罠の回収を行って、俺達の罠猟を終了させなければなるまい。

 無駄な狩りをするのは、ハンターとして失格だからな。


 広場に到着したところで一旦休憩を取る。焚火を作ってお茶を飲みながら、これからの段取りを再確認する為だ。

 

 「俺と、リュウイで周囲を常に見守っていれば良いだろう。そして、あまり広がらずに採取すれば、野犬が近付いても対処できる。だが、その前に罠を回収しなければな。これは俺とリュウイでやればいい。その間の見張りはファー達に任せる」


 パイプを咥えながらレイナスが説明してくれる。

 その内容に俺達は依存はない。皆で頷いて了解したことをレイナスに告げる。


 焚火を消して早速罠の回収に取り掛かったが、今日は全く掛かっていなかった。この辺りのラビーは用心深くなったのかも知れないな。

 罠を全て籠に回収したところで、採取用の底の深い小籠を持って、早速シグちゃん達がグリル採取を始める。

 10個程が群れているから、直に籠が一杯になる。

 それを背負い籠に入れて、更に採取を続ける。


 「レイナス、交代だ!」

 「おう!かなり取れるぞ」


 見張りをレイナスと交代して俺もグリル採取を始める。


 「この蕾を持って直下を採取ナイフで横に切り取るんですよ」


 シグちゃんの教えに従ってグリル採取をするのだが、事前に採取ナイフを研いでおいたのと、蕾の茎が柔らかいことから、簡単に切り取れる。

 数個採取したところで、シグちゃん達が持つ小籠に入れる。

 

 そして、背負い籠が一杯になったところで、採取作業を止めた。

 シグちゃん達の持っている小籠にもだいぶ入っているけど、これはシグちゃん達が運ぶみたいだな。


 「さて、帰ろうか。リュウイ、少し薪を集めてくれないか?」

 「そうだな。持てるだけ持って帰るぞ」


 ちょっとした倒木を見つけたので俺が担ぐと、シグちゃんが【アクセル】を掛けてくれた。

 何とか運べるかなって感じだったが、魔法のお蔭で楽に担いで行けるぞ。


 そして、ようやく番屋へ戻る。

 これからが大変だ。

 番屋の少し前に石を集めて炉を作り大鍋を三脚で吊るす。

 採取してきたグリルを桶で洗って、ザルに入れて置く。

 そして煮立った鍋にザルのグリルを投入して再度沸騰したら、急いでザルで掬って干物用の大きなザルに乗せる。

 

 「ちょっと、ザルが足りないな。ファー、隣の番屋で借りられないか?」


 レイナスの指示でファーちゃんとシグちゃんが漁師達のいる番屋へと駆けて行った。

 そして大きなザルを3枚運んでくる。


 結構、採取してきたんだな。俺達の前には大きな干物用のザル6つ分の茹でたグリルが並んでた。


 「少しグリルを分けてくれって、漁師さんが言ってたから置いてくるね」

 

 そう言って、小籠半分位のグリルをシグちゃんが届けに行った。


 「グリルを輪切りにして飲むと疲労回復に役立つんだ」


 シグちゃんを不思議そうに見ていた俺に、レイナスが教えてくれた。


 お礼に貰ってきた魚を串に差して焚火で炙る。

 その傍で、シグちゃん達がグリルを刻んでポットに入れると焚火の傍に置いている。

 

 どうやら、夕食はここで食べるみたいだな。

 昼間は少し温かくなってきたけど、夜風は流石に冷たい。それでも風を避けて焚火に当たればマントを羽織る必要は無いな。

 ちょっとアウトドアな夕食を食べた後、初めてグリルを飲んでみた。

 苦味があるが、飲んだ後はさっぱりしている。ちょっとコーヒーに似た感じがして、前の世界を懐かしく思う。

 疲れが取れるというのは、どうも実感が無いな。意外と眉唾な話じゃないのか?

                ・

                ・

                ・


 次の日は、朝からグリルの陰干しだ。

 番屋の裏手にザル事運んで、春風に晒す。

 たまに、日があたって無いかを見に行けば良いだろう。

 

 という事で、今日1日は閑になる。

 シグちゃん達は、買い物や冬物の整理にあたるらしいが、俺とレイナスはこれと言ってやることが見当たらない。


 外で、のんびりとパイプを2人で咥えていると、漁師さん達がタライを転がしているのが目についた。

 タライ舟という奴なんだろうな。少し離れた岩場で漁をするんだろう。

 どこの世界でも似たようなことをするもんだと考えていた時に、ふと気が付いた。


 あれで、お風呂が作れるんじゃないか?

 早速、隣の番屋に行くと、数人で焚火を囲んでいた漁師さんに聞いてみる。


 「あのタライ船か? あれは岩場で小回りが利くんで都合が良いんだ。古いので良ければ1つやるぞ。大丈夫だ2人は乗れるし、水は漏らん」

 「漁ではなく、風呂を作ろうと思いまして。あのタライならお湯を入れても漏らないでしょう。のんびりお湯に浸かれば疲れも取れるんじゃないかと……」


 「暖まれるなら、是非やってみてくれ。漁は体が冷えるんだ。確かにお湯の中に入れば暖まれるだろうからな。期待してるぜ!」


 タライ船は後で届けてくれるそうだ。確かに漁を終えた後で風呂に入れるならうれしいだろうな。

 次に向かうところは、村の武器屋だ。

 どう考えてもボイラーを作れる技術はないだろうが、モドキは作れる。それには熱交換器が必要なのだが、鉄のパイプで代用できる筈だ。問題はその面積をどうやって稼ぐかなんだが、簡単なのは鉄パイプをコイル状に整形することなんだけどね。


 武器屋の扉を開くと、早速親方を呼んでもらって交渉を始める。


 「鉄のパイプをグルグルと巻く事が出来るかだと! 出来る事は出来るが、こんなに小さくは巻けないぞ。精々、この位だ」


 そう言って親方が示したのは直径50cmはあるぞ。出来れば30cm以内にしたかったが……。

 確か、友人に聞いたことがあるな。直径を小さくするのは中々難かしいらしい。

 曲げがキツイとパイプが潰れてしまうらしい。それを防ぐために砂を入れて曲げるとか言ってたぞ。

 

 「ひょっとして、パイプが潰れてしまうからじゃないですか?」

 「そうだ。軟鉄を使えば曲げることは容易なんじゃが、曲げがきつくなると簡単にパイプが潰れてしまう」


 「ならば、中に砂を入れれば潰れなくなりますよ」

 「砂じゃと!」


 親方が目を大きく見開いて俺を見た。

 

 「どこで、誰に聞いた!」


 カウンターから身を乗り出して、掴みかからんばかりの形相で俺に迫ってきた。


 「昔、友人からですけど……」


 そう、答えるととりあえずカウンターに戻って俺の顔を眺めてる。

 

 「他所から来たハンターじゃな。良くみれば人間族ではあるがこの辺りの顔付きではないし、髪の色も異なるか……。

 それは、ワシの習った親方は教えてくれなんだ。だが、確かに小さく綺麗に曲げたパイプを見せてくれた。たぶん、お前の言った方法でやったんだろうな。

 良かろう、作ってやる。金もいらん。

 上手く曲れば、ドワーフの秘術をお前さんが教えてくれたことになる」


 俺はありがたくお礼を言うと、武器屋を後にした。

 番屋に帰ると、扉の脇にタライ舟が立て掛けてある。どう見ても新品だ。

 番屋の中に入ると、囲炉裏の3人が俺を見詰める。


 「先程、漁師さんが頼まれものだと言って、外のタライ船を置いて行きましたけど……」

 「ああ、お風呂を作ろうと思ってね。お風呂は簡単に言うと、あのタライ船にお湯を張ってそれに体を沈めて温まるものなんだけどね。俺達は体を【クリーネ】で清潔にしてるから、必要ないと思うけど、俺の故郷にはそんな魔法が無いからお風呂に浸かって体の汚れを落とすんだ。それに暖まれるしね……」

 

 「ひょっとして、漁師達にも話したのか?」

 「ああ、期待してるって言われた」


 「王都の上流階級にそんな風習があるらしい。だが、出来るのか?」

 「最大の難関は何とかなりそうだ。グリル採取は1日おきだから、手伝ってくれるとありがたい」


 レイナスは勿論だと言い切ったけど、噂の風呂を経験したいんじゃないかな。

 シグちゃん達もニコニコしてるから話には聞いていたのかも知れない。

 上手く出来るかはやってみないと分からないけど、桶とボイラーの目処が立てばこっちのもんだからな。





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