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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
23/128

P-023 分かち合い


 いくら【アクセル】状態とは言え4人で200kg近い獲物を運ぶのだからとんでもない作業だ。

 100m程運んだところで一休みしながら、獲物を村に向かって運び続ける。

 3日分の食料が必要な理由がこれなんだな。どう考えても明日一杯は掛かりそうだ。


 それでも、3つのパーティがいるおかげで、協力しあいながら日暮れ寸前に第4広場に着くことができた。

 早速、野宿の準備を始めるが、ローレルさん達は周囲の立木に蔦を張り始めた。

 焚火を作り女性達が夕食を作る中、蔦で2重の柵を作り終えて、ようやく焚火の周りに腰を下ろしてお茶を飲む。


 「リスティン狩りには、もう1つの山がある。リスティン自体も危険な獣だが、それは狩りの時だけだ。そして、そんなリスティンを狩るのは俺達だけではない。ガトルも群れでリスティンを狩るんだ。今夜来る筈だ。覚悟しといてくれよ」

 「野犬ではないんですか?」


 「野犬が出るのは、明日の昼間だな。ガトルが出る時には野犬は出ねぇ」

 

 サドミスさんがパイプを咥えながら呟いた。

 という事は、今夜はガトルで明日は野犬ってことか?


 俺とレイナスは思わず顔を見合わせた。

 シグちゃん達も不安そうな顔をしてるぞ。


 「サドミス、あまり脅かすな。だが、間違いなく今夜襲ってくる筈だ。それで、獲物と焚火を中心に蔦を2重に張ってある。

 たぶん俺達を囲む筈だ。前衛が外側、後衛が内側に位置する。レビトが【メルト】で群れを散らすから前衛は頑張ってくれよ。後衛は【メル】と弓で群れの後ろを狙ってくれ」

 

 大急ぎで夕食を食べると、レビトさんが俺達に再度【アクセル】を掛けてくれる。

 皆が抜刀するのを見て、俺とレイナスも剣を抜く。

 シグちゃん達は矢筒に入るだけバッグの袋から矢を補給している。


 野犬なら槍でぶん殴れば良いのだが、ガトルとなるとちょっと心もとない。

 シグちゃん達に矢が尽きたときに使うように渡しておく。

 

 そして剣を傍において、採取ナイフを砥ぎ始めた。

 そんな俺をおもしろそうにローレルさんが見ている。


 「何を始めたんだ?」

 「剣は片手で使えますからね。もう一方にもナイフがあれば役に立ちます」

 

 不思議そうに訊ねてきたサドミスさんに答えた。

 レイナスもパイプを咥えながら俺を見ていたが、同じことをしようとは思わないようだ。

 一通り砥いだところでケースに納めておく。


 俺の作業が終ったのを見てシグちゃんがお茶のカップを渡してくれる。

 ありがたく受取って、俺もパイプの仲間入りをした。


 「両手を使う気か?」

 「ええ、ぶん殴るよりは良いですからね。杖は槍にしてますから、今回は剣でいきます」


 そんな話をしていると、やおらレイナスが立ち上がり、しきりと周囲を探っている。


 「来たか?」

 「どうやらそのようです。森の奥からですね」


 「レビト、光球を2つだ! 準備しろ」

 

 ローエルさんがレイナスに確認して俺達に指示する。

 直に円陣を作ると、頭上に光球が出現して周囲を照らし出す。

俺とレイナスは広場に面した方向だ。森に対してはローエルさん達が向き合っている。


 「だいぶ集まってるな。数十はいるぞ」

 

 サドミスさんの言葉が終わらないうちに森の中で【メルト】の炸裂音がする。

 群れを散らしたんだろう。直にシグちゃん達の唱える【メル】の声が聞こえ始めた。


 「来るぞ!」


 身近いレイナスの声が聞こえる間もなく、ガトル数匹が俺達の前に回ってきた。

 なるべく動かずに剣を振るってガトルを牽制しながら斬り付けた。


 斬り抜ければ問題ないが、刺さったままだと面倒だ。足蹴にしながら剣を抜き、その僅かな隙を狙って飛び掛るガトルを採取ナイフで斬りつける。


 しばらくは剣を振るう声と剣が空気を斬る音、それにガトルの叫びだけが周囲に満ちていたが、やがてピタリと止まった。

 辺りを眺めると、かなりの数のガトルが倒れている。


 「急いで牙と毛皮を回収しろ。終わり次第、広場の反対側に移動する」

 

 ローレルさんの指示で早速作業を開始する。

 次の群れが来るかもしれないからな。シグちゃん達が牙を折り取っていく後からレイナスと毛皮を剥ぎ取って行く。


 作業が終ると、毛皮をソリに乗せて大急ぎで広場を横切った。

 300mも離れてはいないが、数十匹の血まみれの獣がいるのだ


 移動を終えると直に焚き火を作る。

 ポットを載せてお茶の準備だ。


 「今夜は向こう側に餌があるから、これで終わりだろう。少し休んでおけ」


 ほっと一息つきながらお茶を飲んでいると、サドミスさんが言ってくれた。

 ありがたく、俺達は焚火の傍で横になった。

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                ・


 朝の冷気で目が覚める。

 焚火の前にはローエルさんとカンザスさんが起きているだけだった。

 俺が身を起こしたのを見て、ローエルさんがお茶のカップを渡してくれた。


 「カンザス、少し横になれ。リュウイが起きたからな」

 「ああ、そうさせてもらうよ」


 朝と言っても周囲はまだ薄暗い。

 2時間程は眠れるということかな。


 「ローエルさんはだいじょうぶなんですか?」

 「少し横になったからだいじょうぶだ。……それよりどうだ? リスティン狩りはおもしろいだろう」


 そう言ってパイプに火を点ける。


 「正直な話、俺達にはまだ早そうです。リスティンは何とか成りそうですが、運搬とガトルの襲撃はあまり自信がありませんね。獲物も2匹でなく1匹ならもう少し楽なんでしょうが」

 「それが分かれば十分だ。狩ったは良いが、運べずに捨てる輩もいる。無駄な狩りをするようではハンターとして失格だな」


 だが、少し捨てたい気はするな。ホントに重いんだ。


 みなが起き出したところで朝食を取る。

 それほどゆったりとは寝られなかったから、皆疲れた表情だ。

 それでも黙々と朝食を取り、食後のお茶を飲むとソリを曳きはじめた。


 ちょっとの休憩を何度も挟み、1時間程曳いたところで長めの休憩を取る。

 ひたすらその繰り返しをして、第2広場までやってきた。

 広場を過ぎた辺りで、焚火を作ってお茶を飲む。


 この辺りは俺達の猟場なんだよな。

 休憩の合間を使ってレイナスと罠を調べると2匹のラビーが掛かっていた。獲物は俺のバッグの魔法の袋に入れて置く。

 再度罠を仕掛け直して、ソリに戻ると直ぐに出発だ。


 村に着いたのは、日が落ちてからだ。

 それでも、肉屋にリスティンを卸して、片足を切取って貰った。そんなことだから売値は銀貨で12枚になってしまったが、リスティンの肉は焼くと美味いって聞いたから、ここは味見をしなければなるまい。

 

 「これはガトルの牙と毛皮の分け前に、リスティン狩りの分け前だ」


 ギルドに行くと、ローエルさんがそう言って各自に72Lずつ分けてくれた。

 俺達にはさらにラビー2匹の獲物があるんだが、これは別に使えるからな。

 帰りに酒を買い込んで俺達の家へと急いだ。


 「半分はサルマンさんで良いよな」

 「ああ、俺達で食べきれるもんじゃない。ファー、ついでに隣に酒とラビーを届けてくれ」


 レイナスガリスティンの片足を更に半分にすると、籠に入れてシグちゃん達に渡している。俺は、バッグの袋からラビーを取り出して籠に入れた。


 「それじゃあ、行ってくるにゃ!」

 

 2人で出掛けたのを見て、俺達は囲炉裏に火を焚き、桶と鍋に新しい水を汲んできた。

 そして、もう一度井戸に出かけてポットにも入れてくる。それを囲炉裏に掛けておけば、シグちゃん達が戻った時にお茶が飲めるだろう。


 しばらくして「ただいま!」と言いながら2人が返ってきたが、籠の中から取り出したのは岩牡蠣だった。


 「貰っちゃった!」

 「何時も貰ってばかりだから、獲物を渡したんだけどな」


 「それが、この村のしきたりかも知れないぞ。まあ、ありがたく頂こうぜ」


 牡蠣を囲炉裏の熾き火で焼きながら携帯食料で食事を作る。

 味気ない食事だが、リスティンの焼肉もあるし、牡蠣だってあるからな。かなり贅沢なんじゃないか?


 残ったリスティンの肉は紙に包んで魔法の袋に入れて置くようだ。腐らないとは言うんだけど、早めに食べることになるだろうな。

 確かに、リスティンは美味い。塩だけで焼いたんだが、胡椒があればもっと美味しく食べられたに違いない。

 一度雑貨屋で調味料を確認した方が良いかも知れないな。


 3枚ずつ分けた銀貨を1枚ずつシグちゃんに渡して、ローレルさんから受取った銅貨はそのまま自分達の物にする。

 だいぶ貯まってきた気がするな。


 そして、布団に入ってぐっすりと眠り込んだ。

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 次の日に目が覚めたのは昼近くだ。

 リスティン狩りは俺達にはまだ早いようだな。無理にレベルを上げなくても少しずつ経験を積んだ方が良いのかもしれない。


 「今日は休むことにしようぜ」

 「賛成だ。リスティンは金にはなるが運ぶのが大変だったからな」


 レイナスも俺と同じ意見のようだ。

 囲炉裏に座って、のんびりとパイプを楽しむ。

 シグちゃん達は買い物に行くみたいだ。

 俺とレイナスはそんな彼女達にタバコを頼んでおく。


 「ところで、この番屋だが、どうするつもりなんだ?」

 「まあ、板を張るのは確定だが、それ以外に何かあるのか?」


 「俺達がここに来たのは秋の頃だったよな。あまり、虫はいなかったんだが、なつになったら相当悩まされそうだぞ」

 「それは、蚊帳を張れば良いんだ。……そうか! リュウイ、暖かく寝る方法を思いついたぞ。この小屋の中に天幕を張れば良いんだ」


 囲炉裏の両側に布団より少し大きめの天幕を張れば、確かに隙間風は防げるな。

 外で使う訳じゃないから、少し厚手の布で十分だろう。

 早速、2人で寸法を測り始める。と言っても、物差しがあるわけじゃないから、杖を使って寸法を測ることにした。

 長さが約2.5mで横幅が2m。高さは壁側を2mにしておく。これなら、天幕を壁際に着けておけば隙間風を防ぐ事も出来るだろう。


 「問題は、何処で作るかだ」

 「雑貨屋で良いんじゃないか?蚊帳もこの大きさで作っておけば夏も安心だ」

 

 シグちゃん達が帰ってきたところで、再度相談。

 全員が賛成したので、彼女達2人に手配を多能ことにした。

 軍資金は新たに全員が銀貨を1枚ずつ預けることで何とか出来るだろう。余れば食費にすれば良い。

 

 そして10日も経った頃、念願の天幕と蚊帳が手に入った。

 シグちゃん達は余ったお金で木箱を3つ買ってきた。確かに色々と道具が増えてきたからな。

 それを奥の板敷きに置いてタンスと納戸の代わりにしている。俺達とレイナス達で1個ずつ。残った1つが共用品の置き場所らしい。

 

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