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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
21/128

P-021 サルマンさんから貰ったもの


 風邪に似た病が、村ではちょっとした流行だったらしい。

 俺達のパーティではレイナスが掛かってしまったが、俺を含めて他の3人は至って元気だ。

 念の為に、レイナスの治療に使った残りの半分をギルドのミーメさんに渡しておいた。他にも困ってる人はいるだろうし、この村で暮らしてるんだからそれ位はしてあげるべきだろう

 

 「ありがとう。これだけあれば、後2人は治療できるわ」

 「ところで、サルマンさんはどうなりました?」


 「すっかり元気になったわ。きっとお礼に行くと思うから覚悟しといてね」

 

 お礼って覚悟がいるものだったのか?

 頭に疑問文を浮かべながら俺達の番屋へと帰った。

 レイナスはすっかり良くなったらしく囲炉裏の傍に座ってパイプを楽しんでる。


 「レイナス。起きても大丈夫なのか?」

 「ああ、すっかり良くなったよ。明日からまた罠を見回らなくちゃな。収入がないと後が大変だ」


 たぶんそんな事を経験したんだろう。ファーちゃんは無駄遣いはしないからな。

 世間から疎まれた者が収入を得られなかったら、かなり悲惨な状況になるだろう。

 今まで兄妹で細々とハンターをしていた筈だから、そんなことがあったのは1度や2度では無いんだろうが、……今は俺達が一緒だ。

 片方が倒れても、もう片方が何とかしてくれる筈だぞ。


 「シグちゃん達とパーティを組んで良かったにゃ」

 「私も色々教えてもらえるから嬉しいわ!」


 シグちゃんは喜んでるな。

 でも、ファーちゃんの感謝はもっと深いところにあるんだと思うな。

 それに気が付かなければそれでもいい。俺と同じように2人と付き合ってくれれば十分だ。


 「ところで、やはり流行してたのか?」

 「どうやら10人程度のようだな。残りを渡してあげたら喜んでたよ」


 「だとしたら、ギルドの依頼が出てくるかも知れないぞ」

 「まあ、その時は俺達がまた行って来るさ」


 そう言って、俺もパイプを取り出した。

 ファーちゃんが俺達にお茶を入れてくれる。

 冬の収入の無い期間でも、この番屋の家賃は格安だからな。数日は静養していても大丈夫だ。


 「ところで、ミーメさんが気になることを言ってたんだ。『お礼に行くから覚悟しとけ』ってことなんだが……」

 「何か穏当じゃないな?まるで喧嘩の決まり文句のようだぞ」


 「ああ、それで俺も気になってるんだ。まさかとは思うが猟師10人ぐらいで櫂を持って番屋を取り囲まれたらと思うと気が気じゃなくてな」

 「そこまではしないだろう。ところで、ミーメさんに渡したフェイズ草が腐ってたって事は無いよな?」


 「大丈夫だ。それは確認してる」


 とは言え、不安だな。

 イザとなれば後ろの壁を蹴破って一目散に3人を逃がすか……。


 次の日の朝早く、番屋の戸をドンドンと叩く音で目が覚めた。

 まさか! そう思って、エルちゃん達を番屋の後ろに移動させて、レイナスを待機させる。

 素早くレイナスと頷きあうと棒を片手に扉を開けた。


 「よう、世話になっちまったな。ちょっと出て来な」

 「俺1人で良いですか? まだ寝てるんですよ」


 俺の言葉にガハハと笑いながら頷いた。

 素早く、奥のレイナスに頷いて俺1人で外に出る。

 

 「世話になっちまったな。この季節に手に入れるには苦労した筈だ。それに報いるにはと俺も考えてんだが……。この番屋の権利をお前達に譲ってやる。周囲100D(30m)がお前等の土地になるから好きに家を建てるがいい。権利書はミーメに渡しといたから後で持ってくるはずだ」

 「しかし、俺達は余所者ですよ。それにハンターでもあります。家や土地など……」


 再びガハハ……と豪快に笑って俺の背を叩く。

 思わずその場に倒れそうになったぞ。


 「気にするな。俺が良いと言ったら、誰もそれに否を唱えん。キチンと書類をしたためて村長の印もある。俺に万が一の事があっても、あの番屋はお前達のもんだ」

 

 「じゃあな!」と言いながらヘルマンさんが何事も無かったように村へと戻っていく。

 しかし、フェイズ草1個で家を貰うなんて……、良いのかな?


 とぼとぼと番屋に戻って囲炉裏に座る。


 「どうしたんだ? やはり、この村に置けぬということか?」

 

 レイナスの言葉にシグちゃん達は心配そうな顔で俺を見ている。


 「いや、そうじゃないんだ。ヘルマンさんは俺達にこの番屋をくれるって言ってる。それに、『この番屋周囲100D(30m)の土地をやるから将来は家を建てろ』って言っていた」

 「俺達は他所もんだぞ。それに俺達兄妹はネコ族だ。そんな事をしたら……」


 レイナスは吃驚して咥えていたパイプを落としながらそう言った。シグちゃん達も目を見開いてるぞ。


 「それは俺も言った。だが、ヘルマンさんは後々問題が出ないように書類を作ってくれるそうだ。たぶん数年はそれで済むだろう。だが、家を作るのはずっと後だな。この村は住みやすいが、まだ1年も住んでいない。

 金を貯めて、住み難らいようなら他に移っても良いだろう。その時はこの番屋を世話になったミーメさんに譲れば良い」

 「そうだな。確かに長く住まねば分らん事があるだろう。そして、この村で暮らしていけそうなら家を建てようぜ」


 「でも、そうなると漁師さん達にお酒を届けなくても良いのかしら?」

 「それは続けた方が良いと思うぞ。何と言ってもお隣だ。それに大した額ではないし、貰い物の方が多いからな」


 何となく物々交換じみてるが、漁の獲物を分けてもらってることは確かだ。

 意外と、貰う分だけで酒代を越えてるような気がするんだよな。

 レイナスの意見に俺達は深く頷く事で賛同を示した。


 とは言え、ひょんなことで家を手に入れてしまった。

 例え1間しかなく、隙間風が酷くても、家であることに変りは無い。その上庭まで付いてる。

 どのように改造しても構わないという事だよな。


 「だけど、とりあえずは隙間風対策だ。レイナスの病もそこから来てるような気がするぞ」

 「まぁ、寒いことは確かだな。少しずつ外壁の上に板を張っていくか?」


 それでもどうかと思う。天井はスカスカだし、壁も長い年月で無数に穴が空いてるからな。壁だけはだいぶ塞いだのだが、小さな隙間から北風が吹き込んでくるようだ。

               ・

               ・

               ・


 結局、罠猟を5日休むことになった。

 レイナスは狩りをしたかったようだが、無理はさせられない。

 たまにはゆっくり休んでも良いとおもう。

 結構働き尽くめだったからな。


 その間に、暇な俺達は鏃やナイフを研いだり、罠を作ったりして時間を潰す。

 シグちゃん達は編み物に忙しそうだ。

 そして、俺に渡してくれたのは毛糸の帽子だった。ちょっと昔のスキーの時に被った帽子みたいだな。縁を折り返して被ってみるとかなり暖かいぞ。

 

 「ありがとう大切にするよ」

 「えへへ、お揃いなんですよ」


 そう言ってもう1つ帽子を取り出してシグちゃんが被った。

 よく見ると、黒い帽子なんだが、横に2本の赤い線が入っている。

 編みながら良くこんな事が出来るもんだな。ちょっと感心してしまった。


 「中々似合うぞ。俺達はこれだ」

 

 そう言って、レイナスが被った帽子には白くて太い横線が入っていた。

 意外とこれが目印になるのかも知れないな。皆同じような帽子をこの季節には被ってるから。


 「罠も20個作ったから明日は猟に出かけるぞ。それにずっとギルドに行って無いからな。依頼書を一度見ておかなきゃならない」

 

 夕食を終えると、あの鍋の裏を使ってシグちゃん達が薄いパンを焼き始めた。

 30枚も作っておけばしばらくはそれで事足りる

 そして、確かにあの大きな鍋はこの作業に向いているようだ。

 次々とパンが焼きあがる。


 そんな光景を、少し離れてレイナスとパイプを咥えながら眺めている。

 明日は、しばらくぶりの罠猟だ。

 皆で出かけて森を歩くのも悪く無いな。

               ・

               ・

               ・


 次の日の朝早く、罠を沢山籠に入れて俺が背負う。

 ギルドに寄って、掲示板を見ると薬草採取は無いようだ。

 てっきりフェイズ草が出るかと思ったが、俺の取ってきた2個でどうにかなったらしいな。たぶん何個かはハンターの人達が持っていたんだろう。

 

 「やはり、罠猟をする外無さそうだぞ」

 「そうだな。ついでに根っ子を掘ってこようぜ」


 ギルドを出て、森へと歩いて行く。

 久しぶりに冷たい空気の中を歩くのも良いものだ。

 シグちゃんが作ってくれた帽子で、頭と耳が温かいのが気持ち良い。


 2時間程歩くと第2広場に出る。

 レイナスと前回仕掛けた罠を、新しい罠に交換していく。

 ラビーが数匹掛かっていたようだが、残念ながら野犬に食べられてしまったようだ。長く罠を放っておいたんだから仕方がないことではあるが、ちょっと残念だな。

 

 そんな場所は、ラビーも警戒するのだろう。レイナスが少し離れた場所に罠を掛けている。

 

 「リュウさん、あれ!」

 「ん?」


 シグちゃんが俺の背中をちょんちょんと叩いて指差した先には、大型犬程のしかのような獣が2頭いた。

 盛んに木の皮を剥いで食べている。


 「レイナス、見えるか?」

 「良い獲物だな。あれは小型の草食獣だ。確か……ビーベルとか言って、食肉用だ。ファー、シグちゃんと左から行け。俺達は正面からゆっくりと右に回る」


 挟み撃ちというよりは、シグちゃん達の攻撃を悟られないように、俺達が囮になって目を逸らす感じだな。


 ゆっくりと歩いて行くと、やがて2頭が俺達の方に首を向ける。

 遠巻きになって今度は少しずつ近づいて行く。2頭の獣はこっちを注目して、耳まで立てているぞ。

 2頭とも俺達に注意を注いでいる。

 木の皮を剥ぐ事も止めて、何時でも逃げ出せるようにしているようだな。俺達が、駆け出しそうものなら、一目散に森の奥へと消えていくんだろう。


 俺とレイナスはゆっくりとした動作で、槍のケースを外した。ケースの紐をベルトに巻いて無くさないようにする。


 突然、ビーベルが体を震わせて後ろ立ちする。

 そして森の奥に逃げようと体を回したところに、ビーベルの背中に矢が突き刺さった。


 ビーベルの1頭がその場に倒れ、もう1頭はよろけながらも森の奥に歩き出した。

 そこに矢が追い討ちを掛けて、ようやくビーベルが倒れた。


 「やったか?」

 「上手くやったようだな。行くぞ。長居は無用だ。血の匂いを嗅いで野犬が来るかもしれないからな」


 早速、レイナスがビーベルの腹を裂いて臓物を取り出す。そしてシグちゃん達が持ってきてくれた籠に1頭ずつ入れると大急ぎで森を出ることにした。

 それにしても、シグちゃん達の弓の腕はたいしたものだな。

 十分に一人前と言えるんじゃないか?

 


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