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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
20/128

P-020 フェイズ草の効き目


そろそろ日が暮れそうになった時分に俺達は崖に辿り着いた。

夕焼けが崖を紅に染めている。


 「登れるかな?」

 「フェイズ草はあるんでしょうか?」


 シグちゃんと崖を見上げながら互いに呟いてる。

 崖の高さは30m程で垂直って訳ではない。

 それでも、真下で見上げると頭上にせり出しているように見えるぞ。


 「どっちにしても登るのは明日の朝だな。この近くで野宿できる場所を探そう」


 俺達は崖から程近い場所にあった窪みを使って野宿することにした。

 波で侵食されたような感じなんだが、ここは海からはだいぶ離れているし、高さだって海面から数mは上だ。海が後退したんだろうな。この窪みを波が洗っていたのは、遠い昔の話なんだろう。


 2人で薪を拾って焚火を作る。2人だけだから少し大きな焚火になるように薪を集めておいた。

 鍋に水筒の水を入れて早速スープを作る。

 携帯食料はこんな時は便利だな。

 ポットにも水を入れて焚火の傍に置いておく。


 夕食は波の音を聞きながらだ。

 周囲は真っ暗闇だが、海はどうにか見る事が出来る。

 少し燐光を帯びているようにも見えるな。小石を敷き詰めたような浜辺に砕ける波が光って見える。


 「最初は、私が起きてます。夜半に起こしますから先に寝てください」

 「悪いね。じゃあ、頼んだよ」


 そう言って岩の窪みに身を横たえる。マントをシート代わりにして薄い毛布のような物を被って眠りに着いた。


 ユサユサと体を揺すられて眠りから覚める。

 そうだ、俺達は薬草採取の最中だったんだよな。


 ごそごそと身を起こして焚火の傍に行くと、シグちゃんがお茶を入れてくれた。

 焚火の後ろだから結構暖かく寝る事が出来たな。

 かえって焚火の傍の方が寒く感じるぞ。


 「後は俺がやるから、今度はシグちゃんが眠りなよ。窪みの奥は結構暖かいぞ」

 「そうします」


 そう言って、俺の背中にマントを掛けてくれた。

 やはり、焚火の番はマントが必要だな。

 パイプを取り出して、焚火で火を点ける。

 夜は意外と長いのだ。

 知った星座は無いかと探すけれどもそれらしいのは見当たらない。

 ここは、地球ではないのかも知れないな。

 地球だとしても、全く俺の元いた時代とは違っているのだろう。

 

 それでも星を連ねて適当に星座を作るのは面白そうだ。

 そんな事をしながら時が過ぎていく。

               ・

               ・

               ・


 「さて、どうやって採るかだな」

 「登るのは無理ですよ」


 「そうでもないさ。結構窪みがあるみたいだ。それにあれを見てくれ」

 「棚みたいですね」


 崖の斜度は70度前後だろう。それなら何とかなる。そして途中に沢山ある岩棚にフェイズ草があるんじゃないかな。斜面に生えるとはとても思えない。


 「あの枝ロープを垂らしてそれを伝って登ろうと思うんだ」

 「ライトンの実を採るようにすればロープが掛けられます。ちょっと待ってください」


 糸車と先に木製の錘が付いた矢を取り出すと、弓を構えて慎重に狙いを定めて矢を放つ。


 「上手い。一回で枝を越えたぞ。次ぎは革紐で最後がロープだ」

 

 糸に革紐を結んで枝を越えた糸を引張る。

 スルスルと革紐が伸びていく。そして、最後はロープに代える。


 これで準備は完了だ。ロープをベルトに結んで、もう一方もベルトに通しておく。

 下でロープをシグちゃんがしっかり持っているから落ちたとしてもずり落ちる程度で済むはずだ。

 2人とも革手袋をしておけばロープで擦り傷を作る事もない。

 腰にしっかりと採取ナイフを取り付けて、ゆっくりと崖を登り始めた。

 

 確か、こんな競技があったよな。

 そんな事を考えながら足場と手掛かりを見つけながら慎重に上っていくと、最初の岩棚に辿り着いた。


 岩だなは奥行き30cm程だが落ち葉や崖から落ちてきた土でまるで段々畑のような感じになっている。

 だが、この岩棚にはフェイズ草の特徴であるネギのような草が枯れた跡は見受けられない。

 次の岩棚は右上3m程だな。

 再びゆっくりと登って行った。


 そんな感じで、3つ目の岩棚にたどり着いた時だ。枯れたネギを見つけたぞ。

 球根を傷つけないように大きく周囲を掘っていくと、まるでニンニクのような球根を2つ見つけることが出来た。

 落とさないようにバッグに詰め込んで、下で俺を見上げているシグちゃんにてを振った。

 シグちゃんも手を振っているから無事採取出来たことが分ったみたいだ。

 

 問題はこれからだ。崖を昇よりも降りる方が危険性が高い。

 体を垂直に保つようにしてロープを緩めながらゆっくりと崖を降りて行く。

 そして、崖下にようやく足が付いた。

 時間にして2時間は掛かっていない筈だが、俺には数時間にも思えるぞ。

 

 「ご苦労様です」

 「枯れた茎が目印だな。それが分れば簡単な採取だ。2個採れたから十分じゃないかな?」


 「本当は1個もいらないんです。その球根を割って1つを良く焼いて煮汁を飲ませれば良いんですから。それだけあれば村でも使えますよ」

 

 ロープを回収しながら教えてくれた。

 まぁ、無駄にはならないだろう。雑貨屋にも無かったみたいだからな。


 焚火に戻ってお茶を飲むと、浜辺沿いに村へと急いで戻る。

 ファーちゃんが兄貴を心配して見守っている筈だ。

 

 途中で休憩を挟みながらようやく村に戻った時にはすっかり日が暮れていた。

 それでも、村の家々からは明かりが漏れている。まだ深夜と言うわけでは無さそうだ。


 番屋の扉をトントンっと叩く。


 「誰にゃ!」

 「リュウイだ。今帰ったぞ」


 ガタンと音がして扉が開いた。

 直ぐに、シグちゃんが俺の渡したフェイズ草の球根を手で割ると一片を囲炉裏で炙り始める。


 「手に入れたぞ。効き目はやってみないと分らないが……」

 「大丈夫にゃ。効き目は確かにゃ。……ありがとうにゃ」


 ファーちゃんがそう言って、俺の手を両手で握るとブンブンと振った。

 次にシグちゃんのところに行って、同じように礼を言いながら手を握ってる。

 余程嬉しかったようだな。

 レイナスを見ると、熱で顔が赤いし少しうなされているようだ。

 フェイズ草が効けば良いのだが。


 小さなポットに焼き上げたフェイズ草の球根を入れて、今度はそれをじっくりと煮る。

 結構手間が掛かるな。

 囲炉裏に座るとパイプを取り出して、2人の作業を見守った。


 シグちゃんが、カップに煎じた液を入れてファーちゃんに渡すと、兄貴の上半身を無理やり起こして飲ませている。

 仲の良い兄妹だな。ちょっと羨ましくなるぞ。


 「ちゃんと飲んだにゃ。これで安心にゃ」

 

 そう言って、今度は兄貴を布団に戻している。

 そんなファーちゃんを見ながら、シグちゃんは鍋を掻き混ぜ始めた。そういえばまだ夕食が未だだったな。

 

 「ファーちゃんも、夕食が未だなんでしょう?」

 

 シグちゃんの言葉に小さく頷いた。

 兄貴があんなだから、食べる事も忘れて看病してたんだろうな。

 

 3人で食べる食事は静かだった。

 やはり早くにレイナスが治ってくれないと、食事も味気ないものになってしまう。

 それでも、寝る前にファーちゃんが額の濡れた布を交換した時には、殆ど熱が下がっていると教えてくれた。

 フェイズ草ってとんでもない効き目だな。

                ・

                ・

                ・


 次の朝、目を覚まして囲炉裏の方を見ると、レイナスが布団から半身を起こしている。

 慌てて、囲炉裏まで行くとレイナスの様子を見詰めた。


 「起きてもだいじょうぶなのか?」

 「あぁ、世話になったな。ファーから聞いたよ。この季節にフェイズ草を採ってきてくれて、感謝してもしきれないぞ」

 

 「なぁに、仲間じゃないか。それより腹が減っていないか?」

 「それで、ファーに食事を頼んでるんだ。たっぷり食べて早く回復しなければな」


 どうやら、山は過ぎたみたいだな。

 後は栄養を着けて体力の回復って奴だろう。

 しばらくは狩りが出来ないから、番屋の隙間風でも塞ぐか。寝ていても結構寒そうだからな。


 扉が開いてファーちゃんが鍋を下げてきた。

 朝から鍋とはちょっと考えてしまうが、簡単に栄養を付けるなら鍋が一番だろうな。

 遅れて起きだしたシグちゃんと一緒に顔を洗いに出掛ける。

 シグちゃんは直ぐに朝食の手伝いに戻ったが、俺は番屋の前にある低い柵に腰を預けてパイプを楽しむことにした。


 小さな金属製の小箱をバッグから取り出す。

 名刺入れ位の大きさの箱なんだが、これがつい最近発明されたマッチのような代物だ。5cm程の軸木の上に何やら黒い樹脂のようなものが付いている。この樹脂を小箱に付いているヤスリのような面に強く擦ると、発火する仕組みのようだ。

 10Lと値段は高かったが、俺とレイナスで1個ずつ持つことにした。

 100円ライターは遂にガスが切れて使えなくなったが、これがあれば何処でもパイプを楽しむ事が出来るし、焚火も作れる。


 一服が終わって番屋に戻ろうと立ち上がったとき、通りの方から手を振りながら俺の方に走ってくる者に気が付いた。

 どんどん近付いてきた人は、ミーメさんだ。


 「はぁはぁ……。リュウイ君達が帰ってるって事は、フェイズ草を見つけられたの?」

 「ええ、2個手に入れました。早速、レイナスに飲ませてみたんですけど、嘘のように熱が下がって食欲も出てますよ」


 息も絶え絶えで俺に話しかけてきたミーメさんに答えた。

 すると、いきなりミーメさんが俺の手を握る。


 「半分で良いから分けてくれない。お爺さんが高熱で倒れちゃったの!」

 

 俺は直ぐに番屋に飛び込んだ。

 吃驚している3人を放っておいて、シグちゃんに訳を話してフェイズ草を1個譲って貰う。


 「1個あれば十分です。これは村の人にあげましょう」

 「じゃあ、早速渡してくるよ」


 番屋の外で待っているミーメさんにフェイズ草の球根を渡すと、俺にお礼を言って直ぐに走り去った。

 サルマンさんは高齢の筈だから心配だよな。

 そして、俺達を頼ってくれた事も、村人から信頼されてるような気がしてちょっと嬉しかったな。


 「急いで帰ってったよ。この秋にでも何個か採っておいたほうが安心かも知れないな」

 「ああ、今度は俺も一緒だ。しかし、昨夜まではあんなにふらついていた体が今朝はすっかり良くなってる。本当にフェイズ草は効くんだな」


 番屋に戻って、経緯を話すと、そんな答えがレイナスから返ってきた。

 サルマンさんも、直ぐに良くなるだろう。

 そして、朝から鍋というちょっと贅沢な俺達の食事が始まった。

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