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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-014 フェルトンの群れ 2nd


 朝日が俺達を暖かく照らし出す。

 そんな中で、焚火を囲んで皆で朝食を取っている。


 昨夜の戦闘でぐったり疲れているが、体が栄養を欲しがっている。貪るように朝食を食べ終えると、お茶を飲みながら誰も怪我がないことにとりあえず安堵する。


 「しかし、凄い数ですね」

 「あぁ、主力が途中から流れてきたのかもしれんな。その槍も結構使えそうだ。俺も、村に帰ったら1本作らせよう」


 「確かに、棍棒と槍の両方だからな。俺も作って置くぞ。いざという時にはかなり頼りになりそうだ」

 

 ローエルさんとサドミスさんが俺達の槍を見てそう言った。確かにあれだけ振り回しても、短剣はしっかりと付いている。

 フェルトンの体液で塗れた刃先は広場の草で払っておいた。


 「さて、触角を集めるぞ。短い方だ!」


 ローエルさんの指示で早速触手を集め始める。ついでにシグちゃん達の矢を回収しておく。

 結構、矢がフェルトンの胴体を貫通しているからフェルトンに足を掛けてグイっと引き抜かねばならない。

 回収した矢は纏めてシグちゃんが【クリーネ】を掛けてファーちゃんと分けていた。

 

 再び焚火に集まったところで、触手を数えてみると、50本以上ある。

 良くも無事でいられたものだ。回収した時にフェルトンの顎を見たんだが左右に10cm以上の牙があった。あれで挟まれたら腕ぐらいは千切れていたかもしれない。


 「たぶん外のところも似たような襲撃があったろうと思う。フェルトンの1つの群れは200から300位だ。今夜も来ると思って間違いない。

 今の内に場所を移すぞ。こいつ等は仲間の匂いを嗅ぎつけるんだ」


 ローエルさんが今夜の迎撃場所に選んだのはさほど離れていない2つの大木が広場の端に突き出た場所だった。

 昨日と同じように俺とレイナスで薪を集めている間に、テキパキとローエルさん達が周囲の囲いを作っていく。

 

 今度は更に頑丈にしているようだ。前に作った杭や蔦までも使って柵を強化している。


 「薪は同じように3箇所に積めば良いですか?」

 「そうだな。それでいいが少し量を増やしてくれ。俺達も燃え残りをこっちの運んでおく」


 数回、森を往復して薪を集めたところで、休憩することになった。

 

 「今夜も昨夜と同じとは限らん。少し数が増すかも知れんぞ」

 「しかし、その矢は凄いな。普通は刺さっても指の長さ程突き刺さるだけだが、貫通するとはな……」


 「私も吃驚したわ。それに手作りですって?」

 「釘を加工したんですよ。硬いと聞きましたから、普通の鏃では跳ね返るだろうと思いまして。なにせ、まだ少女ですからね」


 「それだけ威力があれば、役に立つ。俺達は当たりを選んだようだ」

 

 結構評価が高いな。

 高レベルの人達がそう言ってくれるなら、悪いことにはならないだろう。

 前の村とは大違いだ。


 休憩が終ると、レイナスともう一度薪を運んで、夜に備えて木の根元で横になる。

 ローエルさん達も横になるようだが、女性達は焚火を囲んでお茶を飲んでいる。たぶん編み物でもしながら辺りの監視をしてくれるのだろう。

               ・

               ・

               ・

 

 目が覚めると、だいぶ日が傾いている。

 焚火のところに行くと、シグちゃんが熱いお茶を入れてくれた。

 どうやら、俺が最後まで寝ていたらしい。


 「全員揃ったな。今夜も昨夜と同じだ。食事が終ったら、レビト達が最初の見張りだ。直ぐにサドミス達が替わってやれ。夜半からは俺達だ」


 ローエルさんの言葉で俺とレイナスは大木の傍で横になる。

 もっとも、起きたばかりだから眠れるもんじゃない。

 しばらく横になっても眠れないから置きだして焚火の傍に腰を下ろすと、槍の穂先を研ぎだした。


 「熱心ね」

 「ええ、切れ味が良ければそれだけ有利になります」

 

 研ぎ終わったところで、シグちゃんがお茶を入れてくれた。

 パイプに火を点けてのんびりとお茶を飲む。


 「北の村から来たんですって?」

 「ああ、良い村人だったけど……、ハンターがね。」


 「良くあることよ。そんなに自分が優れている訳じゃないんだけどね。将来、自分の立場が侵されると思って早めに芽を潰すって事はよくあるの。王都や町ではそんなことは他のハンターが許さないけど、村ではね」

 「という事は、俺達がこの町に来た事は正解だったという事?」


 「ローエルはそんな事は考えない筈よ。現に、貴方達の事は賞賛してるわよ。俺を越えるハンターに育つだろうって言ってたわ」

 「俺には魔法が使えません。村のギルドのお姉さんにも、精々それなりって言われてますよ」


 「でもね。シグちゃんから聞いたけど、貴方は金のリンゴを食べたんでしょう。金のリンゴの守護はあまり知られていないみたいね。

 名前だけが一人歩きしてるみたいだから、貴方に教えてあげる。

 私達エルフの言い伝えよ。確か、こんな話だったわ」


 遥か北の雪原の国、長い夜はオーロラが天空を舞い踊る

 その中央に聳えるポラリオ山の中腹には、1つの神殿がある

 神殿はどの国の王都よりも大きいが、その神殿にたどり着いた者はいない

 崇められる神はフレイア。常に世界を巡り自らの意をかたどるものを探す

 そして、それを見つけたときは手に持った黄金のリンゴを授ける


 「……という事なの。何時までも新鮮なリンゴであり続けるらしいけど、食べたって人は初めて聞いたわ。でも、水晶球では金のリンゴの祝福が記録されているんだから、本物って事ね」

 「食べちゃいけなかったんですか? 本当に腹が減ってた時だから、ありがたく貰って頂いちゃったんですが」


 「結果論だけど、良かったんじゃないかしら。飾っておく人が殆どだけど、ハンターではね。それより、1つ大事な事があるわ。その祝福の効果なんだけど……」


 レビトさんが教えてくれた効果は、寿命の延長と、不老効果それに、若干の身体機能の向上らしい。

 エルフ並みとは行かなくても、ハーフエルフクラスの寿命は得られるとの事だ。身体機能は確かに向上しているな。背中の長剣モドキを片手で扱えるのも祝福のおかげなのかもしれない。


 「金のリンゴの持ち主にその効果が宿るから、売ればとんでもない値が付くみたいだし、それを狙う者だって現れるらしいわ。それを考えると、貴方のように食べてしまうのが一番良い方法かもしれないわ」


 結果論だけど、問題ないって事だな。

 折角餓死を免れたのに、命を狙われるなんてとんでもないことだ。

 とは言っても、この状況では現在進行形で命を狙われているようなものでもあるんだけど。まぁ、大勢だからな。個人的でなければ問題ないとしよう。


 2時間程雑談しながらパイプを楽しんだところで、レイナスとサドミシさんを起こす。

 これから夜半過ぎまで、俺達が見張り番になる。


 濃くて熱いお茶を美味しそうにサドミスさんは飲んでいるが、俺とレイナスはちょっと顔をしかめて飲んでいる。

 眠気覚ましには良いのかも知れないが、ちょっと苦すぎるな。


 そんな俺達を眺めてサドミスさんが微笑んでいる。

 まだまだお茶の良さが分らないんだなって顔だな。


 ポットからお湯を足して飲んでいると、2人がパイプを取り出した。

 男だけだから気兼ねなく吸えると見たようだが、俺は女性達がいるところでも吸っていたぞ。この世界でも、嫌煙運動は盛んなんだろうか? ちょっと気になるな。


 「レイナスも槍を研いでおけよ。昨夜あれだけ働いたんだ。フェルトンの殻は固いからな。刃が鈍ってしまうんだ」

 

 サドミスさんの言葉にレイナスは砥石を取り出して槍を研ぎだした。

 

 「リュウイは研がないのか?」

 「俺は起きてたからな。レビトさん達と世間話をしながら研いでおいた。シグちゃん達の矢も軽く研いであるから大丈夫だろう」


 「なら、俺達だけか。だが、この槍は良いな。殴っても威力があるぞ」

 「柄が太いからな。たぶん武器屋の槍ではこうは行かないんじゃないかな」


 「確かにそうだ。この柄よりも遥かに細い。武器屋の武器は基本的に人を相手にする武器だ。獣や、ましてヤフェルトン用の武器等置いていない。ということで、武器を特注することになる。お前達も、何時までも武器屋の武器ではなく狩りに特化した武器を造ってもらえるようになるこった」

 「そうは言っても、俺達はまだ赤ですよ。そんな大金はありません」


 「まぁ、そうだな。ガトル位ならどうにでもなる。だが、青レベルまでにはそうした方が良いぞ。自分に合ったバランスの長剣だと、軽々と振るうことが出来るからな」


 確かに長剣はバランスが大切だろう。

 次の目的が出来ると、やる気も起きる。まぁ、その前に布団なんだけどね。


 槍を研ぎ終えたレイナスが焚火に薪を追加した。

 俺は、水筒の水をポットに継ぎ足しておく。これで俺の水筒には一口分位しか残らないが、シグちゃんが大型の水筒を持ってるからな。


 「今夜は来ないようですね」

 「いや、油断できねえ。良く周りの音を聞いといてくれよ」


 サドミスさんの言葉にレイナスが頷いている。昨夜のことがあるから、レイナスを信用しているみたいだ。

 

 3人でパイプに火を点けて、星空を眺める。

 少し肌寒くなってきたが、マントを羽織るほどでもない。

 さて、そろそろ起こそうかと、サドミスさんが立ち上がった時だ。


 「虫の音が消えたぞ!」

 「なんだと!」

 

 俺達は急いで全員を起こした。

 眠そうな目でシグちゃん達が起きてきたので、急いでお茶を渡して飲ませる。

 渋くて苦いお茶に、たちまち全員の目が生き生きとしてくる。


 「方向は、分るか?」

 

 ローエルさんがレムナスに訪ねる。

 

 「ハッキリしませんが、たまにあっちの方角から聞こえます」


 レイナスの告げた方向は昨夜、フェルトン達がやってきた方角だ。

 

 「まだ、近付く前か……。配置は昨夜と同じだ。レイナスが音を確認したら、その方向にレビトは光球を投げろ。サドミスとリュウイは薪に火を点けるんだ。そして俺達に【アクセル】を頼む!」


 テキパキとローエルさんが俺達に指示を出す。

 当然のように指示を出してくれるから、俺達が安心できるんだな。ここで、ローエルさんが考え込んでしまったら、俺達に不安が走るだろう。

 2人の魔道師が俺達1人1人に【アクセル】を掛け始めた。


 さて、どれ位の時間が残されているか……。

 ローエルさんは指示を与え終わると、焚火の傍でパイプを咥えている。

 確かに焦る事はない。

 昨夜と同じ事が始まるだけのこと。

 俺とレイナスもパイプに火を点けると焚火の傍で待機する。


 「レビトさん。あっちだ!」


 突然、レイナスが立ち上がると大声を上げた。

 すかさずレビトさんが、レイナスの指先が示す方向に光球を飛ばす。

 広場を通り越して森の木に当ったところで光球は停止したが、その光の下には沢山のフェルトンがこちらに頭を向けていた。


 「火を点けろ!」

 

 ローエルさんの指示で、俺とサドミスさんが杭の近くに積み上げた薪に火を点ける。

 今までいた焚火にも、レイナスとローエルさんが薪をどんどん投入している。


 「予想よりもだいぶ多い。近付いたら、杭の傍の薪を槍で広げろ。少しは目くらましになるはずだ」

 

 サーマル画像で俺達を捕らえるなら、それより高温の焚火を広げれば俺達の姿が焚火の温度に隠れるわけだ。

 経験で知ってるとはいえ、大した判断力だと思うぞ。

 そして、フェルトンの群れは徐々に近付いてくる。


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