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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-013 フェルトンの群れ


 森の第2広場に着いたところで、ローエルさんの指示で俺とレイナスは薪を集める。ローエルさん達は立木を切り倒して柵を作るような事を言っていた。シグちゃん達は葉っぱの付いた小枝を集めている。


 2人で抱えきれない程の薪を3回運んだところで、俺達はローエルさん達が打ち込んだ杭に横木を縛り付けるための蔦を採りに出掛ける。

 柵を作るなんて話は聞いていないが、フェルトンを相手にするとなるとそんな事も必要になるのだろう。

 

 20m程の四角い柵が出来上がった。背面は森の立木にロープを張り巡らしてある。

 柵の3辺にそれぞれ薪を積み上げているのはいざという時に明かりになると共に威嚇にも使う為なんだろうな。

 柵の余った木も薪に積み上げてある。

 そして、もう一度数人で薪を運んだところでだいぶ日も傾いてきた。


 森に近い場所に焚火を作って、シグちゃん達が夕食を作り始めた。

 俺達は柵の真中近くに小さな焚火を作って、丸太を椅子代わりにして腰を下ろす。


 「フェルトンはアリに似た奴だ。背丈は俺達とさほど変らん。目が大きくてこのカップ程あるから、槍や矢で狙うことは出来るぞ。だが、乱戦になったらそんなことに構わずにひたすら関節を狙って剣を振るえ。結構表皮が硬いから斬るという事ではなく叩き潰すようにすれば折る事が出来る」


 焚火でパイプに火を点けながら、そんな話をローエルさんがしてくれた。

 

 「魔道師の中に【メルト】が使える者がいる。【メル】と違って炸裂形だから少しは役に立つだろう。片手剣を使う者は今の内に槍を作っておいたほうが良いだろう」

 

 そんな話を聞いて、レイナスがバッグの中から短剣を取り出した。

 

 「持っていたのか?」

 「あぁ、たまに両手に剣を持つからな。これで作れるか?」

 

 俺が頷くと、レイナスが森に入っていく。

 渡された短剣を引き抜くと、俺の短剣と良い勝負だな。数打ちのナマクラだ。それでも鉄製だから、叩いたり刺したりするには都合が良い。

 柄の部分を外すと、刀身と一体になった鉄板があった。目抜きは1つだが、気にすることはない。

 

 レイナスが切取ってきた棒は太めで長さは俺のよりも少し長い。


 「長さはこれで良いのか?」

 「少し長めだが、使いずらそうなら、後を切るからこれで作ってくれ」


 早速、サバイバルナイフの背に付いた鋸で丁寧に短剣の鉄板の長さに切り込みを入れていく。

 そして、目釘の位置にナイフの先で穴を開けた。

 短剣を付けて目釘を差し込んだところでレイナスに渡す。


 「濡れた革紐できつく縛れ。焚火で乾かせば動かなくなる」

 「分った」


 俺がパイプに火を点けた横でレイナスが幾重にも革紐で縛っている。

 そして、少し離れた場所で振り回すと、やはり長いのだろう。後を30cm程片手剣で切取った。

 

 「おもしろい作り方だな。それなら、短剣と革紐があれば何時でも槍ができる」

 「赤のハンターですからね。早々、武器は購入できません。なるべくあり合わせの物で代用します」


 「フェルトン相手に太い杖を使う奴もいる。あながちその槍は便利かも知れないぞ」

 

 そんな事を言いながら、男の魔道師がレイナスと同じような太さの杖を焚火で両端を焼いているのを見ていた。

 魔道師でさえも乱戦に加わろうというのだろうか?

 

 焚火を囲んで夕食を終えると、レビトさんとシグちゃんが全員に【アクセル】を掛けてくれた。何でも2割程身体機能が上昇するらしい。


 「低レベルで【アクセル】を使えるとは驚きだ。少しはレビトの魔力を有効に使えるな」


 ローエルさんがそんな事を言っていたけど、一応全部の魔法をシグちゃんは使えるんだよな。

 どれどれって感じで槍を振ってみると、なるほど軽く振るえるぞ。

 

 「後は待つだけだ。フェルトンは夜活動する。フェルトンが出たら、光球を頼むぞ」


 最初の見張りは女性達だ。レビトさんがシグちゃん達4人と番をする。

 ファーちゃんがいるから安心よって言ってくれたのがファーちゃんには嬉しいみたいだ。

 驚いたことに、全員がバッグの袋から編み物を入れたザルを取り出した。

 編み物をしながらおしゃべりして時を過ごすつもりだな。

 

 その後は、サドミスさんと俺にレイナスだ。

 まぁ、のんびりとサドミスさんに狩りの話でも聞こう。そんな事を考えながら、マントに包まって横になる。


 「リュウイさん、リュウイさん……」

 

 体を揺すられて、半身を起こすと此処は森の中だ。

 どうやら、俺達の見張りの順番らしい。

 急いで、装備を身に付けると、槍を掴んでシグちゃんの頭を軽く叩く。


 「もう、……子供じゃないんですから」

 

 そんな声が聞こえてきたけど、少し嬉しそうな声だぞ。

 マントはそのまま残しておいたから、シグちゃんが畳んでくれるだろう。


 焚火のところに歩いて行くと、2人は既にお茶を飲んでいた。

 

 「遅くなって済みません」

 「俺達も来た所だ。先ずはお茶を飲んで頭をはっきりさせるんだな。夜明けまでが俺達の見張りの時間だ」


 早速、カップを取り出してポットのお茶を注いだ。

 熱いお茶は眠気を飛ばしてくれる。

 周囲の森は静まり返って不気味な位だが、小さく虫の音が聞こえてくる。


 「静かだろう。だが、あの小さな虫の音が聞こえる内は安全だ」

 「来ますかね?」

 

 「来ない方が良いんだが、来なければ何時までも狩りが出来ん。早く終ってくれれば良いと思ってるよ」


 白や青のハンター達にとっては切実だろうな。

 とはいえ、たかがアリだよな。そんなに強いのだろうか?


 「俺はフェルトンを見た事がありませんが、そんなに厄介な相手なんですか?」


 パイプにタバコを詰めながら聞いてみた。


 「厄介なんてもんじゃないぞ。確かに奴等の表皮は固い。矢が跳ね返る事もある位だ。だが、長剣で叩けば簡単に関節は折れたり切れたりする。そして、本当の恐ろしさは、そいつ等が群れで来ることだ」


 軍隊アリみたいな奴なんだろうか?

 それとも、巣穴をどこかに作って、そこを拠点にしているのだろうか?


「普段は、大人しい奴なんだが1年に1度だけ凶暴になる。奴等が巣別れをする時だ。この森の奥地に巣穴が1つある。おかげで、更に奥の方に住んでいる危険な獣が近付かない事も確かだ。ある意味俺達を守ってくれていたんだが……、今回に限って西に新たな巣を作ろうと移動してきたようだな」


 「定着したら、森の狩りは出来なくなりますね」

 「全くだ。この奥に更に2つ広場がある。その更に1つ先にあるのが奴等の巣だ。普通のアリと違って奴等は地面の下に巣を作らない。大きな広場を使ってまるで町のように巣を作るんだ。この広場もかつては奴等の巣だった筈だ」


 これがか? 直径200m以上あるぞ。

 そして、その後はしばらく木も育たない。

 だが、森の奥地の獣が溢れ出ないようにする役目も、ちゃんと果たしているようだ。

 害虫だか、益虫だか分らないけど、今は狩りの対象だから全力でやるしか無さそうだ。それにしても群れで来るのか……。

               ・

               ・

               ・


 レイナスの耳がピコピコと忙しく左右を探る。

 

 「虫の音が消えた。あっちからカサカサ言う音が変わって聞こえるぞ」

 「来たか。全員を起こせ!!」

 

 俺達は急いで森の大木の下で寝入っている者達を揺り起こす。どんどん起こしていくと、ぞろぞろと眠そうな目を擦りながら焚火に集まってきた。

 そんな連中にお茶を飲ませて目を覚まさせる。


 「来たか?」

 「あっちの方らしい」


 ローエルさんに、サドミスさんが腕を伸ばして方向を教えている。

 

 「光球を飛ばせるか?」

 

 レビトさんが作った光球が闇の中に吸い込まれていき、森の中の一角を照らし出す。

 そこにはワラワラと集まっている大きなアリの姿が見えた。

 

 「斥候だな。本体は少し北側か……」

 「ゾルトレンさんのところは激戦でしょうね」

 

 「此処からでは分らんが、少しはこちらに引きつけなければなるまい。全員

装備を付けろ。そして、正面と左手の薪に火を点けるんだ」


 あらためて自分の姿を確認する。

 背中に片手剣がしっかり結ばれているし、腰にはサバイバルナイフもある。

 

 シグちゃんも弓を取り出して、もう片方には矢を持っていた。

 各自が準備を終えたことを確認してローエルさんに向かって頷く。

 薪にはサドミスさんが火を点けたようだ。

 辺りが明るくなる。

 更に光球が2個ずつ柵の直ぐ外側にフワフワと浮いている。

 

 そして、フェルトン達も俺達に気が付いたらしく、頭をこちらに向けている。


 「ラビト、【メル】を1発ぶつけてみろ!」


 シュルシュル……そんな音を立てて火炎弾が飛んでいく。

 だが、広場の半分近くの場所で力が尽きて地面に落ち、周囲に火炎が広がった。

 夜露に濡れた草原は、それ位の火では燃え広がらない。

 

 だが、その火炎に釣られたようにフェルトンが森から姿を現した。


 「奴等の目は俺達と違って温度の違いが分るんだ。だから……」

 「肉食という事ですね。なるほど、温度が見えるのか」


 それが、この焚火の理由だったんだな。

 確かに周囲を明るくしているけど、それよりもフェルトン達の幻惑用ということになる。理科や物理を知らなくても、経験でそれが分るんだから凄いよな。


 数十匹のフェルトンが森から姿を現して先程の火炎弾の着地点に集まっている。そして、こちらを見ると、足早に近付いてきた。


 「来るぞ!覚悟を決めろよ。魔道師は【メル】を頼む。レビトは柵に取り付く前に矢チラノ真中に【メルト】を打ち込んでくれ!」


 俺達4人が柵近くに陣取り、少し離れた場所にシグちゃん達が控えている。

 ローエルさんとサドミスさんが長剣を抜いて地面に突き刺すようにして剣を下ろしている。

 構えて待つのでは疲れるだけだ。俺とレイナスも彼等の左右に槍を付いて近付くのを待った。


 フェルトンの動きが急に早まって柵に突進してきた。ミシっと柵が音を立てる。

 柵に絡まるようにしてもがいているフェルトンに、ローエルさんが素早く近付いて剣を叩きつけると頭が転がった。

 隣ではサドミスさんが次のフェルトンの頭を長剣で切り裂いている。


 柵から身を乗り出して俺に向かって顎をガチガチと鳴らしている奴に、槍を叩きつける。頭がボコッと窪んで半分程千切りかけている。

 次の奴にも同じように槍で叩く。

 【アクセル】の効果ってこんなにあるのか。

 まるで細い棒を振るっているように感じるぞ。重さもあまり感じないから思い切り叩いているんだが、相当な威力があるようだ。足に当れば足がちぎれるし、頭ならば千切れる程のダメージを与えている。


 ビュンっと音を立てて矢が突きたつ音が聞こえた。何時の間にか柵を乗り越えて俺の後ろにフェルトンがいたようだ。その胴を貫通して矢が通っている。

 もがいているところを槍で頭を叩いて大人しくさせた。


 そんな中、柵の直ぐ外側でドオォン!っと炸裂音がした。

 フェルトンの体液が俺にまで飛んでくる。

 ちょっと気持ちが悪いが、そんな事に構っている暇も無い。


 ひたすら殴り続けると、やがて周囲に静寂がやってきた。

 空は何時の間にか薄明が広がっている。何時の間にか夜が明けていたようだ。


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