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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
121/128

P-121 双子の誕生


 ファーちゃんが双子の母親になったのは、一番冬の寒さが厳しい時だった。

 いきなり産気づいたファーちゃんを見て、ブーツも履かずに夜の通りを走ったのは俺だったし、レイナスは漁師さんからお湯を沸かせと言われて風呂を焚く始末だ。

 シグちゃんだけが冷静にファーちゃんの介抱をしていてくれたから良かったものの、サルマンさんの奥さんが村の産婆さんを連れてやって来た時には俺とレイナスの姿に呆れていたからな。

 

 男には用が無いと言われて、番屋をレイナス共々追い出されたんだが行くところは隣の番屋ぐらいだ。

 夜分にも関わらず、何人かの漁師とサルマンさんが酒を飲んでいた。


「まだ生まれねぇのか?」

「まだなんです。とりあえず奥さんと産婆さんが付いてくれましたから、一安心してるんですが」


 レイナスの弁解がましい話を笑い顔で聞きながら、俺達を囲炉裏の輪に迎えてくれた。

 早速酒の入ったカップが渡され、少し早い祝杯を挙げることになったのだが、あまり長居すると明日動けるのはシグちゃんだけになりそうだ。


「もうすぐ満ち潮だ。そろそろ生まれるぞ」

「何で分かるんですか?」

「不思議な話だが、人が生まれるのは満ち潮時で、亡くなるのは引き潮時なんだ。俺にも不思議に思えるが、長く漁師をしてると分かってくるもんだ」


 そんな話を何かの本で読んだ気もするな。やはり俺達は自然と共に生きているのかもしれない。


「レイナス、奥さんが双子かもしれないと言ってたぞ。名前は考えたんだろうな?」

「名前だって! 待ってくれ、まだ考えてないんだ。ファーからも考えてほしいとは言われてたんだけど……」


 俺にすがるような目をレイナスが向けてきた。

 サルマンさんと視線を合わせると、2人とも首を振ったのは当然というところだろう。


「まぁ、仕方がねぇ話だ。その場になると父親ってのはそんなもんだろうな。俺にも少し頷けるところがあるぞ。ここは友人として助けてやった方がいいんじゃないか?」

「はぁ、そうですね。となると、いくつか候補を出して最終的にレイナスが選べばファーちゃんだって納得してくれるんじゃないかな」


 俺達は酒を飲みながら、名前を考えることになった。


「男の子なら『ムサシ』、『テムジン』辺りがいいな。女の子なら『アリス』、『オデット』も良さそうだ」

「『リドマン』に『ルーシアン』も良い名だぞ。ワシの両親の名だ!」


「『ジラーフ』や『ファナリー』でも良いんじゃないか?」

「そりゃぁ、獲物の名前だろうが!」


 たちまち10個以上の名前が出てきた。ジラーフはジラフィンからだろうな。大きく育ちそうだし、サルマンさんが両親の名を出したのは、それだけ両親に感謝しているんだろう。

 酒を飲みながらだけど、皆も真剣に考えてくれているようだ。


 レイナスが名前が書かれた紙を持って悩み始めた時だ。突然番屋の扉が乱暴に開かれた。

 その向こうには、笑顔をたたえたシグちゃんが俺達、いやレイナスを見ている。


「生まれましたよ。元気な男女の双子です!」

「ほんとか!」

 レイナスが、漁師さん達を蹴飛ばしかねない勢いで番屋を飛び出していった。


「リュウイさんは、もうしばらくしてからですよ」

「あぁ、そうするよ」


 俺の変事に頷くと、サルマンさんにお騒がせしますと挨拶して扉を閉めた。


「次はリュウイ達だな。だが、リュウイの姿は変わらんなぁ」

「金のリンゴを食べてしまいました。ヒルダさんがそのせいだろうと教えてくれたんですが、シグちゃんがハーフエルフですから、ともに暮らしていけそうです」


「少し番屋が近くなったな。息子の方もよろしく頼んだぞ」

 サルマンさんの太い腕で肩を叩かれたから思わず囲炉裏に体が落ちそうになった。相変わらずの怪力だ。

 言われなくとも、隣に住んでるんだからね。困ってるなら互いに助け合うのが筋じゃないか。


「そうなると、ミーメさんもそろそろなんじゃありませんか?」

「リュウイが独身ならなぁ。嫁さんも溜息をつくときがあるが、こればっかりは縁が無ければどうにもなるまい」


 少し気が強くて、料理はあまり得意じゃない。なんでもやりたがるけど飽きっぽいんだが、誰にでも親切で世話好きだ。

 旦那さんは一生退屈しないで済みそうだが、自分の相手としてはちょっと考えてしまうな。

 奥さんの心配もなんとなく理解できる。


「嫁の考えで、俺達の食事を作ることになったんだが……」

 サルマンさんの言葉に、周囲の漁師達が目を伏せる。かなりひどい代物だったということかな?


「塩と砂糖を間違えてしまってな。まぁ、食えねぇことは無かったんだが」

 思わずため息をついてしまった。

 ちょっと味見をすれば分かるような話だ。だけど、せっかく孫が作ってくれたんだから残らず食べたんだろう。

 これからは、食事時に番屋に来ることはしばらく控えねばなるまい。

 囲炉裏に刺してある串焼きにいつもより多く塩を振ってあるのはそんな裏があったんだな。


 そろそろ頃合いだと思って、番屋を後にして俺達の番屋に向かう。

 そ~っと、扉を開けたつもりなんだが、皆が俺に顔を向けている。


「リュウイさん、こっちに来てください。本当にかわいいですよ」

 シグちゃんの言葉の最後にはハートマークがついてるぞ。どれどれとゆっくりと近付いて奥さんが抱いている赤ちゃんをシグちゃんの肩越しに覗き込んだ。

 ほんとに小さいな。奥さんがネコの子のように抱いているから、余計にそう見えるのかもしれない。


「この子が女の子ですよ。男の子はおっぱいを飲んでるところです」

「ネコ族は成長が早いんだ。1年経てばこの辺りを歩き回るから、目が離せなくなりそうだ」


「レイナスが父親とはね。だが、最初から父親になろうなんて考えるなよ。この子達を育てることで父親になれるんだからな」

「そうですね。リュウイさんの言う通りだと思いますよ。失敗もあるでしょうが、次は改めればいいんですからね」


 俺と奥さんの言葉が、ちゃんとレイナスに届いたかは疑わしいところだ。いまだにジッと我が子を見ている。


「レイナス抱いてみたのか?」

「いや、少し練習してからにするよ。なんか落としそうで……」

 まだ首が座らないんだろうか? でも、早く抱いてあげた方がいいと思うんだけどな。


 そんな騒ぎが納まって数日が過ぎると、暖かな部屋でシグちゃんとレイナスが赤ちゃんを抱くようになってきた。

 まだまだファーちゃんは床を離れられないようだから、シグちゃんが手伝ってあげてるんだろう。

 ミーメさんも様子を見に来て、あまりのかわいらしさに抱っこさせてとシグちゃんに迫ってたけど、断られて膨れていた。

 正直な話、俺も抱かせたくない。ミーメさんが赤ちゃんを抱くのはもうしばらくしてからになるだろう。


 薬草採取の時期になると、レイナスの双子はハイハイするようになってきた。

 確かに、成長速度が速いように思える。

 気になってヒルダさんに聞いてみたら、獣人族の寿命にも関係しているようだ。獣人族の平均寿命は50歳程度らしい。人間族が70歳ほどだから確かに短く思える。


「私達は200歳近いのよ。リュウイ君も金のリンゴの加護を受けてるからハーフエルフ並みに150歳以上の寿命になると思うわ」

 

 そうなると、リュウイの子供達だけでなく、孫達にも狩りを教えることになりそうだ。


「それでどんな名前にしたの?」

「男の子は『ムサシ』、女の子は『ルーシア』だそうです。ムサシは俺の国では有名な剣豪の名前ですし、ルーシアはサルマンさんのお母さんの名前からとったと言ってました。サルマンさんを育てたんだから優しいお母さんだったに違いないとファーちゃんが言ってましたよ」


「サルマンさんが可愛がりそうね。でも、この村で暮らすには良い名前だと思うわ」

 笑顔で話してくれたから、ローエルさんにも教えるんだろうな。


 狩りをしばらく中断しての薬草採取は俺とレイナスの仕事だ。

 たっぷりと採取して番屋に持ち込むと、シグちゃんとファーちゃんが球根を仕分けたり、蕾を湯に潜らせたりしてくれる。

 最初はシグちゃんと俺達でやってたんだが、サルマンさんが魚を仕分ける大きなカゴを1個提供してくれた。

 この中に毛布を敷いて赤ちゃんを入れとけば、カゴから出ることができないのでファーちゃんも参戦してくれるようになったんだよな。


「赤ん坊は、こっちの番屋に置いといていいぞ。常に番屋には人がいるから安心できるだろう」

 サルマンさんがそんなことを言ってたけど、実際は可愛くて仕方がないんじゃないかな?

 それを知った奥さんが、時々織場にカゴ事持って行くのを恨めしそうな表情でサルマンさんが見送っている。


「皆、親切にゃ」

「親切には親切で返さないとな。これも恩の内と思って、将来助けてあげればいいだろう」

 俺の言葉にファーちゃんが頷いている。

 たぶんネコ族の村だって、村人皆が子育てを手伝っていたんじゃないかな。この村には、人情があるからなぁ。レイナス達がこの村を気に入ったのも、自分達が暮らしていた村とよく似ているからじゃないかと思ってる。


 今年の薬草採取は、サルマンさん夫婦のおかげでどうにかなったのかもしれない。総収入は例年通りだったからね。

 子守を手伝ってもらった2人に、収入の分配をしてもいいんだけど、2人とも受けってくれないだろうな。

 それならばと、その分配を使ってしばらくは織場にはお菓子、番屋には酒を届けることにした。これなら受け取ってくれるに違いない。


 夏を過ぎたころには双子の離乳も終わり、柔らかいものは食べられるようになった。そんなことから、昼間はサルマンさん達に双子を預かってもらうことで、日帰りの狩りならファーちゃんも参加できるようになってきた。

 

「子守ぐらいなら俺にだってできるからな。掴まり立ちはするがカゴから出なければ番屋でも安心できる。ついでだから、もう少し縁の高いカゴでも編んでみるか」

 そんなことを言いながら、カゴを編んで漁師のおじさん達の帰りをサルマンさんは待っているようだ。

 双子を入れた漁師カゴが村でも評判になっているらしく、暇になった漁師のおじさんもカゴを編んでいる。

 

「嫁さん連中には都合がいいんだろうな。小さな赤ん坊が心配で家事もろくにできない話は、嫁さん達からよく聞いてたからなぁ」


 何が、商売になるかはわからないな。本当の目的は魚の仕分け用なんだからね。それが子守用のカゴになるとは誰も思わなかったろう。


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