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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
120/128

P-120 兄妹同様の幼馴染ってことか


 ファーちゃんは、隣の部屋で休んでいる。

 俺達の前で頭を掻きながら、苦しい言い訳をしているのはレイナスだ。

 ファーちゃんの容態は一時的な物らしいが、しばらく続くとサルマンさんの奥さんが教えてくれた。


「でも、本当の兄弟でないなら、早く教えてほしかったですよ」

「すまん、すまん。小さいころから、いつも俺に付いてきてたんだ。そんな感じだから妹と思っていたことも確かだし、ハンターでいる時も他人というよりは妹として登録してた方が何かと都合が良かったこともあったんだ」


 小さな自分で盗賊に村を焼かれたと言ってたからな。俺には少し理解できるところもある。

 ファーちゃんとレイナスの何気ない仕草の中で兄弟ではないんじゃないかとは、薄々感じていたことも確かだ。


「まぁ、出来ちゃったものは仕方がないとして、今後が問題になるぞ。まさかファーちゃんがおんぶして狩りをするわけにもいかないだろうし」

「そこは俺が頑張るしかなさそうだ。子供が少し大きくなれば3人で薬草採取ぐらいはできそうだ」


 それももったいないと思うんだが、この世界に保育園なんてないからな。

 しばらくは俺達も協力することになるんだろう。何と言っても同じパーティ仲間だし、シグちゃんとファーちゃんは大の仲良しだからね。


「シグちゃんも、その辺にして祝ってあげようよ。レイナスには嫁さんのなり手がないんじゃないかと思ってたんだ。ファーちゃんが実の妹じゃないなら何の問題も無いと思うんだけどね」

「それは、そうなんですけど……」


 乙女心は複雑なんだろうな。俺には理解できそうもない。

 それでも、俺達の部屋に足を運ぶと、ワインのボトルを持ってきた。3人祝うつもりのようだ。

 注がれたワインのカップをカチンと鳴らして、ファーちゃんの安産を願いながら、2人の門出を祝うことになった。


 翌朝、恥ずかしそうにファーちゃんがシグちゃんに話をしていたから、少しはシグちゃんのもやもやが納まったかもしれないな。

 その日の夕方、大きな魚を漁師のおじさんが持ってきてくれた。改めてお祝をしなければなるまい。

 今日は、シグちゃんもちゃんと食べられればいいんだけどね。


 どうにか、俺達の騒動が納まったところで、次の依頼をこなすことになったのだが、シグちゃんが色々とファーちゃんの世話を焼くようになってきた。

 野犬を狩った時にも、2人で放ったボルトを探すのはシグちゃんだし、焚き火の番も長くするようになってきた。

 自分の事のように思ってるんだろうな。一緒に苦労した仲間だから、妊娠したことを知った時には少しショックだったようだけど、今ではいつもより優しいシグちゃんに戻ってる。


 近場の狩りを主にしていたんだが、サルマンさんの奥さんに体を動かすことも大事だよと言われて、たまに森にも出掛けることにしている。森に行った時には獲物以外にもレイナスと俺で焚き木を持ち帰るのも忘れない。

 生まれるのは今度の冬のようだ。赤ちゃんが寒さに震えるようでは可哀そうだ。


「リュウイさん。私達はこのままこの番屋に住んでいてもいいんでしょうか?」

 番屋の俺達の部屋のベッドで一緒に毛布にくるまっていると、突然シグちゃんが聞いてきた。

「いいんじゃないかな? だけどそれほど長くは暮らせないかもしれない。レイナスの子供達が増えればこの番屋も手狭に違いない」

 

「なら、隣に私達の番屋を作りませんか? だいぶお金も溜まりましたし、他の村に行こうとも考えないでしょう?」


 確かに、考えないといけないだろうな。

 俺達がこの部屋を出れば子供部屋として使うことも出来るだろう。それほど大きな家でなくても十分だ。一度サルマンさんと相談してみるか。


 翌日は狩りのお休み日だ。漁の方は順調なのかも気になるから、5日毎に差し入れる酒のビンを持って番屋へと足を向ける。

 訪問したのが昼過ぎだったから朝の漁を終えた漁師のおじさん達がサルマンさんと息子さんを囲んで酒盛りの最中だった。


「誰かと思えばリュウイじゃないか。ほら、立ってないで、こっちに来い」

 すでに出来上がってるな。ここは気を付けないと明日は寝ていることになるぞ。


 入り口近くの漁師さんに酒のビンを渡して、サルマンさんの開けてくれた場所に腰を下ろす。直ぐに酒のカップが渡されるとサルマンさんがたっぷりと注いでくれた。


「そういえば礼を言ってなかったな。あの銛はいいぞ。確かに絶対外れねぇ」

「今までの銛は、刺さっても外れる場合が多かったんです。ですがあの銛は外れません。最初に撃ち込んで浮きを付ければ勝手に動きが鈍ってくれますからね」


 息子さんも評価してくれたようだ。教えがいがあったということだな。


「これで、俺達の漁はかなり魚種が増えたということになるな。魚問屋の連中が新たに保冷馬車を作ったのも頷けるところだ。リュウイのおかげだよ」

「俺が漁をするわけではありません。漁をする腕があればこそだと思いますよ」


「リュウイならハンターを止めて、俺達と一緒にいつでも漁にでられるんだがなぁ」

「それは無理ですよ。漁師の皆さんは小さなころから漁師の手伝いをして少しずつ漁師として一人前になったはずです。新参者が入れば獲れるジラフィンを逃がしかねません」


 それはそうなんだが……。漁師達が頷きながら俺の話を聞いているんだよな。

 そんな俺を息子さんがジッと見ている。

 やはり俺がいると場を荒らしかねないと思っているんだろうか?


「そこまで分かっていながら、私達に漁の方法を教えてくれるのが私達には嬉しいんですよ。絹と漁はまるで関係が無いと思ってましたが、蛹を粉にして餌にまぶすだけであれだけエビの量が変わるとは私には思いつくことも出来ません」

「まったくだな。お前も良い相談相手を持ったと思わねばならんぞ。リュウイが10年早くこの村に来てたなら、お前を他の町に修行に出すことも無かっただろうよ」


 サルマンさんは息子さんを漁師の修行に出してたんだな。

 閉鎖的な漁師村では、新しい漁の方法など思いもつかないだろう。となれば他の漁師町でその方法を覚えてこさせなければなるまい。


「確かに、目から鱗ですね。他の町でもこんな方法があるとは思っても見ないでしょう。でも、そうなればこの方法を広めてあげたいところです」

 

 他の漁村も似たところがあるんだろう。子供達を他の漁村の知り合いに預けることをしてるんだろうな。


「ということで、この村にも来年はそんな奴らがやってくることになったぞ。この村のやり方を教えることになるとは俺も信じられんがいつの間にかこの村の漁を知りたいと俺に打診をしてくる者が増えてきたんでな」


 さぞかしサルマンさんも嬉しいに違いない。村についてはいつも考えている御仁だからね。


「1つ相談したいことがあるんですが?」

「何だ? 大概の事なら聞いてやるぞ」


 サルマンさんに、俺達の番屋の隣にもう1つ番屋を作る許可を得たいと話してみた。

途端にサルマンさんの太い腕が俺の首に廻ってくる。


「話は聞いてるぞ。そうだな、俺も賛成だ。この番屋からお前達の番屋まではお前達の自由で構わん。だが、あまり立派な番屋は作らんでくれよ。でないとこの番屋を作り直さにゃならんわい」


 リビングと寝室1つで十分だ。俺とシグちゃんなら今住んでる番屋の半分でも十分だろう。

 

 その夜。レイナス達に俺達の家を隣に作ることを伝えた。

「子供が増えれば今の寝室1つでは足りなくなる。俺とシグちゃんの家を隣に作るけど、食事はしばらくは一緒に取りたいな」

「この番屋を貰っていいのか? だとしたら俺も手伝うぞ。それに急にいなくなるとお互い寂しくなるからな。ずっと一緒に食事でも俺はいいと思うんだけどな」


 ファーちゃんがうんうんと頷いているけど、子供の世話は大変だぞ。少しは手伝ってあげられそうだけど、やはり親が一番大事だと思うな。

 この番屋は4人で力を合わせて作ったけど、新しい番屋は今までの貯えで何とかできるだろう。翌日、シグちゃんと村の大工さんのところに行って、間取りを伝えると材料費込みで金貨1枚でできるようだ。

 

「リュウイの旦那にはさんざん世話になってるからな。これで十分なんだけど、こんなに小さくても大丈夫なのか?」

「隣の番屋がありますから、俺達ならこんなものです。よろしくお願いします」


 俺の注文はリビングの炬燵だし、シグちゃんは暖炉だけだった。今の番屋よりも寝室は1周り小さいし、リビングもそれほど大きくはない。前の世界で言えば8畳のリビングに6畳の寝室になるが棚を多く付けて貰えばこれで十分だろう。リビングには収納庫まで付けて貰えるようだ。土間を作るのに驚いているけど、雨でぬれた時には重宝するんだよね。


 隣で始まった建設工事をレイナス達が見て、その小さいことに驚いている。

「俺達の寿命は長いみたいだから、しばらくはシグちゃんと2人で暮らすよ。レイナスとはいつまで一緒に猟ができるかわからないけど、子供達と一緒に猟ができるんじゃないかな」

「そう簡単に引退はしないぞ!」


 本人はそう言ってるけど、40歳を超えたハンターに会う機会は早々ないことも確かだ。エルフ族やドワーフ族のように長命な種族は別途して、人間族や獣人族であれば40歳から50歳が引退の時期になるんじゃないかな?

 そう考えるとレイナスとはまだまだ一緒に狩ができそうだけど、レイナスの子供達に狩りを教えるのは俺とシグちゃんの役目だと思っている。

 

 秋口になると、お腹の大きくなったファーちゃんをシグちゃんに託して、俺とレイナスで狩りを頑張ることにした。

 獲物は少ないが宿に泊まることはないし、隣の漁師さん達からのもらい物も多いからそれなりに暮らしを立てられる。

 狩りの合間にたっぷりと焚き木を集め、番屋の軒下に貯めこむ日々が続いている。


 そろそろ罠猟を始めようかという頃合いになって、俺とシグちゃんの番屋が完成した。引っ越し荷物はそれほどないし、俺達の番屋は帰って寝るだけにあるようなものだ。ここでの暮らしは、レイナス達の子供が大きくなってからになるだろうな。


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