P-012 ギルドの緊急依頼
「あのう……。ローエルさんですか? ミーメさんに狩りで見たことを話した方が良いと言われまして」
「まぁ、座って話せ。ところで名前は?」
「リュウと言います赤4つのハンターです。実は……」
ローエルさんの仲間が、はいよ!って持って来てくれた椅子に礼を言って座ると、第1広場の出来事を話すことになった。
「そうか。貴重な情報をありがとう。」
テーブルには簡単な地図が置いてあった。いろいろな書き込みがあるが、今回の異変を検討しているのだろう。
「宿で見掛けないが、どこに住んでるんだ?」
「サルマンさんの古い番屋です」
俺の言葉に片手を上げたから、分かったという事なんだろうな。
そういえばそろそろ、5日目になるんじゃないか?
皆の所に戻って、宿代の話をすると酒はもう買い込んであるとのことだ。
「明日が5日目だから、ちゃんと届けるわ(にゃ)」
2人はちゃんと数えていたようだ。
レイナスはそういえばそうだったな。なんて言ってるから、宿代の事はシグちゃん達に頼むことにしよう。
番屋に戻るとポットに水を汲んでお茶を沸かす。
まだ、夕食には早い時間だ。
「どうする?」
「そうだな。しばらくは森は難しそうだな。西の荒地の方に行ってみるか。サフロン草なら手に入りそうだし、上手く行けばラビーも狩れる」
やはりそうなるな。
荒地なら問題ないはずだ。高レベルのハンター達が森を鎮めてくれるのを、そうやって待つか。
俺達が囲炉裏でパイプを吸い始めたのを見てシグちゃんが弓を持って外に出かけた。たぶん近くで弓の練習をするんだろう。
シグちゃんがラビーを狩れるようになるのも、案外と近いのかも知れないな。
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数日は、荒地で薬草を採る。
結構、薬草は豊富なんだが、数の割には報酬が少ないんだよな。
それでも、1日頑張れば食費等を除いても1人15L程の分配がある。まぁ、塵も積もればって言う位だから、コツコツと貯えねばなるまい。
そんなある日、レイナスと連れ立って雑貨屋にタバコの葉を買出しに行くと、大きな包みを渡された。
「前に頼まれた毛皮の敷物です。お代は頂いていますから、これも持って行ってください」
「出来たのか! ありがとう」
そう言って、俺達は荷物を持って番屋へと帰ることになった。
早速、囲炉裏のところに敷いてみる。座布団2枚分より少し横に長いから、2人なら余裕で座れるな。
座ってみると、毛皮の裏に張った厚手の布がちょっとしたクッションになるようで、板敷きに直接座るよりも少し柔らかな感じだな。
この下に毛布でも敷けば更に良い感じになりそうだ。
シグちゃんとファーちゃんも喜んでる。板敷きに直接座るのは女の子には向かないよな。後は、冬に向かって寝具の確保だ。
毛皮を包んでいた紙はキチンと畳んで取っておく。壁の隙間を塞ぐのに、他の紙も取っておいて壁に貼り付けるつもりだ。
「そういえば、森はどうなってるんだろうな?」
「まぁ、レベルが上の連中がいるんだから任せておけばいいんだろうが、確かに気にはなるよな」
レイナスは俺の問いにそう応えると、囲炉裏でパイプに火を点けた。
俺も、付き合ってバッグからパイプを取り出す。
シグちゃん達は女の子同士で囲炉裏の片方で会話中だ。話しながら編み物してるんだから凄いよな。
「それにしても、森への入域禁止が長いな。ギルドのハンターも減ってきたみたいだし……」
「あぁ、白レベルの連中が町へ向かったと聞いたぞ。薬草採取を下に見てたからな。俺達の真似は出来ないようだ」
ある意味、心が狭いと思う。自負もあるんだろうが、そんなに長く禁止令が続くとも思えないんだよな。
ローエルさん達も他のパーティを交えて色々と相談しているみたいだから、案外早く森に入れるんじゃないかな。
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次の日、ギルドの扉を開けると、カウンターに向かう前にローエルさんに呼び止められた。
「待っていたぞ。こっちに来てくれ!」
声の方に顔を向けると数十人のハンターがズラリと集まっていた。
何だろう? そんな事を考えながら皆でそちらに向かう。
そんな俺達全員を見回しながらローエルさんが話を始めた。
「どうやら、この村のハンターが全員揃ったようだ。だいぶ村から離れたが、それでも25人のハンターが残っている。
いいか。ギルドからの緊急依頼だ。ハンターならば、これを断ることが出来ない。その時そのギルドに登録していたハンター全てが協力してその依頼をこなす。
今回の緊急依頼は森のフェルトンの狩りだ。フェルトンの触角の短い方が討伐証になる。全員で狩るから報酬は頭割りになる。
年齢特例は40歳以上それに15歳以下となる。集合は明日の朝。各自3日分の食料持参だ。以上だ!」
俺とレイナスは顔を見合わせて互いに頷くと、シグちゃん達を連れてギルドを出ると直ぐに雑貨屋に向かった。
食料等はシグちゃん達に任せて、俺とレイナスは雑貨屋の中を物色する。
そして見つけたものは……釘だった。
結構太くて長い。5寸釘に近いな。これは使えそうだぞ。
矢と釘を20本買い込んで、釘の頭を落として貰う。そしてヤスリと砥石を買い込んだ。緊急依頼が発令されている状態での武器と食料の値段は半値になるらしい。もっとも限度があるみたいで、俺達の購入品は十分ンその範囲になるそうだ。
酒やタバコまでもが対象なのがちょっと嬉しいぞ。
「でも、釘なんてどうするんですか?」
「鏃にするんだ。普通の鏃だと短いからね」
品物を受取って早速、番屋へと帰る。
シグちゃん達は隣の番屋に酒を届けに行ったようだ。
「だいぶ買い込んだが、そんなにいるのか?」
「ファーちゃんとシグちゃんで10本ずつだ。矢筒に余裕があれば今使ってる矢を入れておけばいい。面倒だから手伝ってくれよ」
矢の先端に付いている鏃を止めてある糸をナイフで切り取って丁寧に取外す。
その間にレイナスに釘の先端を鋭く研いでくれるように頼んでおいた。
レイナスは釘の先端を鋭角にヤスリで削り始める。
矢から鏃を外し終えた俺はレイナスの削り終えた釘を囲炉裏の火で真っ赤に焼き始めた。
オケに水を汲んできて囲炉裏の傍に用意する。
そんな俺達を尻目に、戻って来たシグちゃん達は狩りに持っていく薄いパンを焼こうと準備を始めた。
やがて、20本の釘が囲炉裏の火で真っ赤になってきた。
「釘は丈夫なんだが、簡単に削れるだろう。それをもっと硬くする。一度火で焼いて、水に入れると表面の硬さが増すんだ」
太い薪で釘を取り出して水桶に入れるとジュッと音を立てて湯気が出る。
次々と水桶に入れて、今度は砥ぎの準備だ。
「今度はこの釘の先端を研ぐんだ。ヤスリではなく砥石を使って、こんな感じだ」
オケから釘を1本取り出すと砥石で丁寧に研いで行く。
やがて鋭い先端の鏃が出来た。
「こんな感じだな。矢の取り付けは俺がやる。レイナスは砥ぎを頼む」
「あぁ、良いぞ。しかし変った鏃だな」
「鎧通しって言うんだ。鏃が長くて棒状だから、普通の矢よりも深く刺さる。昆虫って言ってたから、表面は硬いぞ。普通の矢は効かないと思うんだ」
「聞いた事がある。タグの表皮は矢を跳ね返すってな。だがこれなら、上手く行くかも知れないな」
出来上がった矢は10本ずつシグちゃん達の矢筒に入れると、今使っている矢が更に数本入った。
「食料は俺達が持って行ける。魔法の袋を2人とも持ってるからな。リュウイは持って無いだろう?」
「そんなのは聞いた事も無いぞ!」
「私が持ってます。大型の3倍ですから、リュウイさんの分は私が持ってきます」
詳しく聞いてみると、魔道具と呼ばれる道具の1つでハンターには広く使われてるみたいだ。
シグちゃんの持っているのはナップザック位の大きさで3倍の収納が出来るらしい。
道理で色々と小さなバッグに入れることが出来た訳だ。
「俺達は小型だからそれ程入らないが、少しは余裕があるぞ。リュウイも早く購入するんだな」
そうは言っても、現在の手持ち金は布団を買うために使いたい。布団の次の目標だな。
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次の日は簡単に朝食を済ませると、水筒に水を汲んで番屋を後にする。
シグちゃん達は弓を背負って杖をついていく。背中には片手剣を背負ってるのもお揃いだな。そしてバッグの上にはマントをクルクルと丸めて結んであった。
レイナスも俺も似たような格好だ。腰には横に片手剣を取り付けて、太い杖を携えてる。俺は先が短刀だから槍になるのかな?
ギルドの扉を開くと、全員が武装してパーティごとに集まっている。
カウンターに向かってパーティ名を告げて、俺達も今回の狩りの一員となった登録を済ませておく。
「集まったな。……残念ながら、昨日よりも1パーティ少なくなって総勢34名だ。
この人数を3つに分ける。
ゾルトネン、ハイレルそれに俺が、パーティを1つずつ選んでいく。それでは始めるぞ……」
要するに、狩りをする集団の力が均一になるようにするって事だな。
さっきの3人が高レベルのハンター達なんだろう。
彼等が狩りの指揮を執るわけだ。
「……では、最後に残ったパンドラは俺の組みだ。初めてだろうが頑張れよ!」
どうやら、ローエルさんの組になったらしい。
早速、ハンター達が3つの組に分かれて移動する。
俺達の組みはサドミスと言う男女4人組みのパーティとローエルさんに女性のレビトさんの10人になる。
「さて、直ぐに出掛けるぞ。俺達は真中だ。北はゾルトレン、南がハイレルが率いる組だ」
ローエルさんが先頭になってギルドを出て行く。俺達はその後を遅れないように付いて行った。
村の北門を出て東へと歩みを進める。
そして、森の手前で小さな焚火を作ると、ローエルさんが各自の武器を確認する。
前衛が4人に魔道師が4人、そしてシグちゃん達中衛が2人という構成だ。
「前衛が4人は贅沢だな。魔道師も4人いるのは心強い。中衛は魔法も使えるってことだな。中々良い連中が集まってくれた」
そう言って、パイプを手にする。男は前衛の4人と魔道師の1人だ。どうやら全員が喫煙するらしい。
俺達5人で役割を分担する。俺は左の警戒でレイナスが中央、そしてローエルさんが右を行く。ネコ族が一緒とはありがたいってローエルさんが言ってたぞ。ネコ族は勘が良いとは広く世間に伝わっているようだ。
魔道師の男は殿を仰せつかった。少しは槍を使えると言っていたから、魔道師達を守る事も出来るだろう。
シグちゃん達は、可能な限りフェルトンの目を狙えと言われてた。
『即死する事は無いが、目がやられれば攻撃を加える隙が出来るだろう』って言っていたが、希望的な感想に聞こえたぞ。
それでも、昨夜作った鏃を見て驚いてたな。
確かに長さ10cmを越える針のような鏃だ。それを見て期待してたのかも知れないけどね。
「さて、出発するぞ。出来れば広場まではフェルトンに会いたく無いがな」
ローエルさんが立ち上がる。
今度は、役割に従って俺は左手に進んだ。杖の先に付けた短剣のケースを外して
ベルトに挟んでおく。ケースの革紐を数回ベルトに巻き付けておいたから、無くすことはないだろう。