表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
118/128

P-118 クモの巣で狩りをする


 春の芽吹きが終わり、森は新緑に覆われてきた。春も終わって初夏に近づいているのだろう。

 この季節は、王国の初心者ハンターの良い稼ぎ時でもある。サンガの繭があちこちの森で採れるからだ。

 繭からどうやって糸を紡ぐか、試行錯誤で行う者もいるようだが生憎と成功したという話は聞こえてこない。

 この村の秘密は長く守られるんじゃないかな。

 それに、サンガの繭が採れる村のギルドに対して、採取する数を厳しく制限しているようだ。

 乱獲することで王国の産業を潰すことを、王国が何より恐れているに違いない。

 おかげで、生産量は。織機を増やしたにも関わらず、年間で20反という数になってしまったが、村の女性達がその仕事に広くかかわることで、村全体の収入を上げることができたようだ。


「昔は王都に出稼ぎに行く若者が多かったんだが……」

 漁師達と囲炉裏を囲んで酒を飲んでいるときに、サルマンさんがそんな話をたまにするんだよな。


 村の漁師達も、10年前と比べると収入が3割以上増えたと喜んでいる。大型の船を使って冬のチリ漁も盛んになったし、カゴ漁は季節ごとに異なる獲物が獲れるようだ。


「ジラフィン漁は、毎年あるとは限らねえが、サラドがそろそろやってきそうだ。リュウイにおもしろい漁を教えてもらったからなぁ。釣りと銛の両方を試してみるつもりだ」


 たまたま番屋の前を通りかかったら、中に引き込まれて酒盛りに加えられてしまった。

 どうやら、サラド漁の相談をしていたらしい。サルマンさんの隣の壮年の男性は、ミーメさんのお父さんのハリネイさんだ。いよいよサルマンさんの後継者として漁に参加するということになるんだろう。

 だが、しばらくすると漁師のおじさん達に漁の話をしているのがハリネイさんだと分かってきた。ハリネイさんの話をサルマンさんが頷きながら聞いているんだが、息子さんの手筈を聞いて嬉しそうな表情をしている。


「……まぁ、このような漁で行きましょう。ジラフィン用の浮きは使えそうですし、銛はリュウイさんが作ったものがありますからね」

「近寄れば銛を使うし、姿が見えただけなら釣り上げるということだな?」


「そうです。西の漁師町でも釣ろうと考える漁師はいませんでしたし、専用の銛もありませんでした。ですがこの村にはリュウイさんがいますからね。西の漁師町の連中に負けないくらいのサラドを獲れるんじゃないかと思ってます」

「ハリーさんよ。そうなると釣りは大型を使って、銛は小型ということかい?」


 自分より年上の漁師のおじさんに、ハリーさんが顔を向けてしっかりと頷いた。

 サルマンさんとは違った形で漁師達を束ねるのだろうな。隣でサルマンさんが苦笑いをしているのは、頼もしくなった息子と、今までとは漁の指揮の違いに気が付いたからに違いない。


「とはいえ、サラドを釣り上げるのは私も初めてですから、皆さんの銛の腕を見せてもらいますよ」

 

 ハリーさんの言葉に漁師のおじさん達が野太い声で答えている。

 案外うまくいくんじゃないかな。サメは泳げなければ呼吸ができなくなると聞いたことがある。釣り糸代わりのロープにジラフィン用の浮きを付けてしばらく待てばかなり弱ってしまうはずだ。


 翌日。朝食前に外でパイプを咥えて一服をしてると、沖に数隻の船が出ているのが見えた。さっそく始めたんだろうか? 結果が気になるところだが、俺達も猟に出ないといけないんだよな。


「ハリーさん達が漁をしてるって? 漁師だからなぁ、俺達も森に行かないとサンガの繭が集まらないぞ」

「近場は少なくなったから、4番広場の南辺りが狙い目だと思ってるんだけどな」

「あの辺りだと、ピグレスかな? 上手く依頼があればいいんだが」


 会話だけなら俺達も一人前なんだろうな。

 ギルドに向かうと、ミーメさんに挨拶して掲示板の依頼書を眺める。

 掲示板の上に大きく、『サンガの繭引き取ります』と書いてある。その隣に、必要数が書かれているんだけど、買い取り数の数は500個近くまで減ってはいるようだ。ザル1つで100個以上は確実だから、この依頼も残り3日はないんじゃないかな。


「レイナス。アルバスって聞いたことがあるか?」

「なんだそれ? 薬草なのか」


 テーブルに行くと図鑑を広げてアルバスを探す。俺も薬草だと思っていたんだがどうやら違うようだ。

 獣の欄にも無かったし、次は虫かな? と頁を捲っていると、アルバスと書かれた頁を見付けた。


「虫なのか? 初めて聞く名前だけど」

「だが、綺麗な羽根をしてるな。さぞかし王都の職人が欲しがるだろう」

 

 どうやら昆虫の採取ということになるが、、この世界の昆虫の大きさは俺の住んでいた昆虫とはかなり異なるからな。よく内容を読んでみないととんだことになりそうだ。


「体長が半D(15cm)だが、空を飛べるようだ。問題はこれだな。傷ついた翅は購入対象外とある」

「そ~っと、近づいて、手で摑まえるってことか?」

「それもダメだろうな。人が近づくと逃げてしまうとあるぞ」


 1つ10Lというのは、それだけ捕らえるのが難しいということなんだろう。10個以上であればいくらでも買い取ると書かれているのだが、誰もこれには手を付けていない。やはり、無理だということなんだろうな。


「ほう、アルバスに目を付けたか」

 思わぬ声に顔を上げると、ローエルさんとヒルダさんが俺達をずっと見ていたようだ。


「たまにその依頼に飛びつくハンターがいるんだけど、かなり手ごわい相手よ。私達がそれを受けた時には竿の先に網を付けたんだけど、上手く入らなかったわね。それでも目標には達したけど」

「図鑑をよく読めば、どんな場所にいるかが書かれてるはずだ。木の樹液を飲みに来るんだが、意外とその木の太さが無いんだよな。網の隙間からだいぶ逃げられたよ」


 なるほど、良いことを聞かせてもらった。要するに昆虫採取と同じと考えればいいということだな。

 ローエルさん達は虫取り網を自作したらしいが、確かに細い木では逃げられてしまうのがおちだ。

 となれば、あの方法が使えるかもしれないな。


「レイナス、この辺りでクモの巣を見たことがあるか?」

「クモの巣なら、番屋の裏手にいくらでもあるぞ。ファーが始末してくれってうるさいんだよな」

 レイナスの言葉に、にこりと微笑んだ。


「なら、この依頼は受けられるぞ。たっぷりと捕まえようぜ」

「できるのか? また変わった方法を使うんじゃないだろうな?」


 にやりと笑いながらレイナスが言った。そんな彼の肩をポン! と叩いて壁の依頼書を外すとミーメさんのところに持って行く。

 トンと印を押してもらい、レイナスを連れて砂浜沿いに東に歩いていく。


「やはり必要な物があるってことだな? だが、こっちは藪ばかりだぞ。ファー達のボルトの柄に丁度いい雑木はあるんだが」

「雑木が欲しいんだ。そうだな、俺達の槍より細くて長い棒になる奴だ」


 話をしながら歩いていると、ちょうどいい棒になる雑木がいくつも生えていた。

 レイナスが3本切り取ったところで、太さと長さを確認する。なるべく真っ直ぐな2本を選んだところで番屋へと戻ったんだが、まだレイナスのはこれをどうやって使うかは判断できないようだ。

 

 番屋に着くと、どんな依頼を俺達が持ってきたのか知りたくて2人が直ぐに暖炉の傍にやって来た。


「今度はアルバスという昆虫だ。こんな昆虫なんだけどね」

 図鑑を開いてアルバスの絵を見せてあげた。

 途端に2人の目が輝いたのは、甲虫の羽根の色がきれいなためなんだろう。


「こんな甲虫がいたんですね。どの辺りにいるんでしょう?」

「第4広場の南らしい。この季節にはあまり行ったことが無いけど、こんな木がたくさんあるそうだ。この樹液を好むとローエルさんが言ってたよ」


「だけど、ローエルさん達もかなり難しかったらしいぞ。網で獲ろうとしても、木が細いから逃げられてしまうと言ってたな」

「だから、俺達はちょっと方法を変えてみる。と言っても、手掴みに売るわけじゃないんだけどね。道具はさっきレイナスと探してきた。あの棒をどうやって使うかということだが……」


 虫には虫を使うと先ずは教えておく。

 その虫とはクモの事だ。クモの張り巡らした網はかなりの粘着力を持っている。蝉取りにだって使えるくらいだからね。

 棒の先にたっぷりとクモの巣を絡めればかなりの粘着力になるはずだ。

 樹液を飲んでいるアルバスに近づき、背中をネバ着いた棒の先で押し付ければアルバスは逃げることも出来ないだろう。


「おもしろそうな狩りだな。それでダメな時には俺達も網を使えばいいんじゃないか? 先ずはやってみようぜ。ついでにサンガの繭も集めれば一石二鳥だからな」

「そういうことだ。先ずはやってみよう。幸い依頼期間は5日もあるんだからな」


 昼食を終えたところで、レイナスと家々を回ってクモの巣を棒に絡めていく。結構、クモの巣を嫌う人は多いんだが、それを掃う人は少ないようだ。こことここをお願いと、場所まで教えてくれるんだからありがたい話だよな。


 夕暮れが迫ったころには、まるで先端にお餅を付けたようにふっくらとしたクモの巣を絡めとることができた。

 軒下に竿を置いて、夕食を頂きながら明日の狩りの説明を始めた。


「すると、あの粘ついたところをアルバスの背にピタっとくっつけるのか?」

「それで逃げられないはずだ。後は手で取れるはずだよ。アルバスは羽根を広げない限り飛べないし、木から離せば足をもがくぐらいしかできないはずだ」

「あとは革袋に入れればいいにゃ!」


 ファーちゃんは理解してくれたのかな? シグちゃんは少し胡散臭い目で俺を見てるんだけどね。


「あまりに簡単すぎるけど、上手く行くんだろうか? まぁ、ダメなときはサンガの繭を集めれば少しは収入になりそうだな」

「とりあえずやってみようよ。案外上手く行くんじゃないかと思うんだけどね」


 翌日は、宿屋でお弁当を2食ずつ手に入れて森に向かう。

 森の手前で昼食を取り、夕食は第4広場近くで取る。焚き木を集めて焚き火を作り、交代で焚き火の番をするのもだいぶ慣れたな。


 翌日。朝食を終えると、森の中アルバスを探す。細い木にいるんだろうが、どれがその木なのか俺にはよくわからないな。


 探し始めて1時間ほど過ぎた時、右端を歩いていたレイナスの足が止まった。直ぐに俺達に獲物がいたと合図を送ってくる。


「どこだ?」

「あの細い木が見えるな。俺の肩位の場所にいるぞ」


 レイナスの教えてくれた場所を見ると、確かに甲虫がいた。綺麗な羽根が森の木漏れ日に反射してキラキラしている。あれなら俺にも見付けられるんじゃないか?


「やり方は教えた通りだ」

「先ずはやってみろ! ってことだな。了解だ」


 クモの巣がたっぷり付いた棒の先を前にして、ゆっくりとレイナスが近づいていく。もう少し大胆に行動しても逃げられないと思うんだけど、レイナスは慎重派だからなぁ。


 するすると棒を伸ばして、距離を測っている。

 納得したところで、甲虫の背中にクモの巣をぺたりとくっ付けた。そのまま棒を手元に戻すと、甲虫はもがいているが逃げることはできないようだ。

 ファーちゃんが飛び出していくと、皮手袋を着けた手で甲虫をクモの巣から引き離して革袋に納めた。


「確かに獲れたぞ。簡単だな」

「棒の先から取るのも簡単だったにゃ。今度はシグちゃんがやってみるにゃ」

 ファーちゃんの言葉にシグちゃんが頷いてるけど、まだ大きく目を開いたままだ。


 問題があるとすれば、甲虫のキラキラした背中の輝きが森の木漏れ日の中では保護色と同じような効果を持つことだ。

 昼食時までに俺が取れたアルバスは2匹でレイナスが4匹だったのは、それだけレイナスの目が良いに違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ