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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
117/128

P-117 イカ釣りの方法


 芽吹きの春は薬草採取の始まりでもある。

 王都や町から新米ハンターが、まとまった金額を稼げる季節でもあるのだ。この村にも何組かのパーティがやってきて村人たちと一緒になって薬草を採取している。


 シグちゃん達も機織り場から離れて俺達と一緒に働けるのが嬉しそうだ。

 1日薬草を集めて、次の日には薬草を選別したり、熱湯で処理したりと忙しく働く。その上、春にはもう1つの仕事もあるんだよな。


「手伝ってくれ!」

 扉をドンドンと叩く音に起こされて、どうにか日が昇ったところで始まるのが地引網だ。朝の内だけ網を引けば、たっぷりと魚を分けてもらえるから、レイナス達は大喜びなんだよな。

 薬草の選別をしながら魚の干物も作るんだから本当に忙しい。


「この村ならではなんだろうな。だけど、俺達まで誘ってくれるのが一番嬉しいんだ」

「そうはいっても、まだまだ続くんだぞ。明日は1日のんびりと体を休めたいところだ」

「ダメですよ。そろそろ薬草も終わりなんですから、頑張ってください!」


 俺の嘆きに、やんわりと注意したシグちゃんが、俺のカップにワインを注いでくれた。

 確かに、薬草の数が一時よりは減って来た。もう数日というところだろう。それまでは頑張らねばなるまい。


「ところでイリスさん達は上手くグライザムを倒せたんだろうか?」

「知らせが来ないのも気にはなるけど、ダメだったならさらに注文してくるんじゃないかな」

「そうだな。となると上手く行ったってことなんだろうな」


 レイナスがカップを傾けながら遠くに目を向けている。グライザムを狩りたいという気があるんだろうか?

 だけど俺達はどうにか青の5つだからな。黒の連中だってグライザムに返り討ちに合うらしいから、無理をしないでハンターとして暮らしていきたいものだ。


「王国の辺境の村々を守っているんだろうな。ここも辺境なんだから、たまには顔を出してもらいたいな」

「へんきょうなのか?」


「一応、辺境ですよ。この村から南東にハリル村がありますけど、海沿いではそうなります」


 俺の疑問に答えてくれたのはシグちゃんだ。

 確かエステラモンを狩った村だったな。あそこは確かに辺境の村だったけど、さらに南東に続く深い森があったからね。海沿いでは、と注釈が入るとここが辺境になるんだろうな。

 となれば、王国の版図の境界に近い村は全て辺境になるんだろう。イリスさん達が忙しいわけだ。


 翌日は薬草採取に出掛ける。朝早くに出掛けたから背負いカゴに溢れるほどだ。これを明日は王都からやって来た商人に渡さねばならない。

 お湯に浸したり、球根を切り取ったりと忙しく働き、夜は食堂で夕食を取ると、その足で共同風呂に向かう。

 クリーネで汚れは落ちても、疲れを取るならお風呂が一番だ。

 

 風呂に入ると数人の先客がいた。筋肉質の体をしているのはハンターだろうし、ふくよかな体をしてるのは王都から来た商人だろう。

 噂を聞いて入りに来たのかな?


「賑わってるな。サルマンさん達は最初に入ってるんだろうな」

「たぶんね。その後に酒盛りに違いない」


 互いに顔見合わせて笑顔を作る。

 なんとなく、容易にその光景が脳裏に浮かぶんだよな。それだけ俺達と漁師のおじさん連中との付き合いが深いということなんだろう。


「さすがに明日は休めるな」

「だけど1日だけだぞ。薬草も近場は無くなって来たからな。明後日は少し森の奥に行かなくちゃならない」

「一泊か……」


 まだまだ森の奥に行けば薬草は採れる。だけど、それだけ動きが活発になった獣と遭遇することにもなるのだ。


「大型のガトルは去っただろうし、群れも小さくなってるはずだ。それほど危険とは思えないんだけどなぁ」

「レイナス達がいるからな。そこは頼らせてもらうよ」

「あぁ、任せとけ!」


 ネコ族の第六感に頼らせてもらうのはいつもの事だ。俺だと後ろにいても分からないんじゃないかな。

 シグちゃんも俺と同じような感じだから、レイナスとの出会いが俺達にとって一番幸いなことに違いない。


 さて俺達も飲もうか!

 レイナスと共同風呂を後にして番屋へと帰った。

 まだシグちゃん達は戻っていないようだ。お風呂でおばさん達とおしゃべりに興じてるのかな?

 村の噂は全て聞けるし、料理や編み物の流行まで教えて貰えると言ってたからね。


 レイナスと暖炉の前に陣取り互いのカップにワインを注ぐ。暖炉の火でパイプに火を点けると先ずは一服を楽しむ。


「これで何度目の春なんだろう? 4回目かな」

「5回目かもしれないぞ。だいぶこの村に長く住んでる気がしてきたな」


 昔から比べると、村人の暮らしも良くなったとサルマンさんがこの頃呟くようになった。そんなに変わったんだろうか?


「今では冬の猟も近場だけだからな。それで冬を越せるんだからありがたいといつもファーと言ってるんだ」

「最初の村では苦労したからなぁ。あそこにいたら、たとえ虐めにあっていなくても冬は厳しいものになってたろう。早めにこの村に移動してよかったと思うよ。でないと、レイナスに合うことも無かったはずだ」


「そうなると、ファーを連れて厳しい暮らしをしていたはずだ。ひもじいのは辛いものなんだぞ」


 食うや食わずのハンター暮らしということか。ファーちゃんと2人だけならということなんだろう。だけどレイナスの人柄ならすぐにハンター仲間ができたと思うんだけどね。


 ガタン! と扉が開いてシグちゃん達が帰って来た。ファーちゃんが暖炉の火に炙りだしたのはイカじゃないのか!

 この季節にイカが獲れるんだ。これは直ぐに確認する必要があるな。


「シグちゃん、隣の番屋に寄って来たの?」

「お酒を届けに行ったんです。そしたらこれを貰いました。炙って食べると美味しいと言ってましたよ」


 確かに美味いに違いない。あまり大きくはないがコウイカそのものだ。季節的には疑問が残るがこれは網に掛かったに違いないな。


「ちょっと出かけてくる!」

 まだカップにワインが残ってるけど、それほど長居はしないつもりだ。


 風呂に向かう時に使うサンダルを履いて外に出た。隣の番屋の扉を叩くと直ぐに中に招きいれてくれた。


「リュウイじゃないか? そんなところに立ってないでこっちにこい」

 サルマンさんの招きで隣に腰を下ろすと、直ぐに酒のカップが渡された。とりあえず一口飲んだところで、やって来たわけを話す。


「カラムがそんなに珍しかったか? たまに獲れるんだが数が獲れん。酒のお礼にたまたま取れた奴を分けてやったんだが……」

「網で獲るんですよね?」


「ああ、2艘の船で引く網に入るんだ。網が大きいと引けんから、地引網より小さい網になってしまうのが問題ではるな」


 引き網なのか。動力船ではないのが最大の課題だな。帆掛け船でもいいかもしれないが、そうなると網を引く方向が難しそうだ。

 だが、コウイカならば別の方法もある。


「釣りをすることもできますよ。やり方は……」


 俺の話を集まった漁師のおじさん達が真剣な表情で聞いている。手に持った酒のカップを飲もうともしないでだ。


「要するにエビに似せるんだな? 重りの位置も腹に仕込むならエビが泳ぐように常に体の向きが同じになるな。針は少し変わってるが武器屋で作れんことはないだろう。明日の夜はこの仕掛けを作るぞ。明後日にはこれで漁ができるだろう」

「まったく、それだけの知識があって漁師じゃねえのが不思議な話だ」

「いやいや、この番屋の住人に違いねぇ。上手く釣れたらその見返りは忘れんぞ!」

 

 サルマンさんが俺の肩をバチン! と叩くと、周囲のおじさん達が頷いている。ひょっとしてハンターを廃業しても漁師で食っていけるんだろうか?


「知ってても、腕が無ければどうしようもないですよ。俺は陸の猟で満足してます」

「まったくもったいねえ話だな。だが、上手く行けば俺達の収入も増えるってことに違いねえ」


 隣のおじさんが俺の膝を叩きながら話してくれたんだけど、すでに全員が酔っ払ってるんだろうか?

 ここは早めに引き上げた方が良さそうだ。


「今日の薬草採取の処置がまだなんです。俺はこの辺りで失礼します」

「まったく、少しも飲んでねえじゃねえか」


 ここで、「そうですか?」なんて言おうものなら明日は1日寝てなければならなくなる。苦笑いをしながら頭を下げて早々に引き上げることにした。


 俺達の番屋では焼きイカを肴に皆がワインを飲んでいる。

 俺もシグちゃんの隣に腰を下ろして、ファーちゃんが渡してくれた熱々の焼きイカを味わうことにした。

 故郷を思い出す味だな。今では帰ることなど諦めているけど、たまに故郷を思い出すのもいいものだな。


「何か番屋であったんですか?」

「いや、どちらかというと漁の仕方を教えてたんだ。このイカを釣るための方法をね。かなり高値で売れるらしいんだが、数が揃わないのが問題だったらしい」

「これも売り物だったのか? 確かに美味いと皆で言ってたんだ」


「高くとも数が揃わなければ売れないみたいだよ。漁師達で食べてたらしいけど、たまたま酒を届けに来たからお礼に上げたと言ってたな」


 食べかけの焼きイカをレイナスがまじまじと見ている。

 高価な物を俺達にお礼と言って渡してくれたのが嬉しいんだろうな。


「その礼の礼が、このイカの獲りかたということなんだな。益々お礼が届きそうな気がするな」

「向こうも嬉しいからお礼をしてくれるんだと思うよ。俺としてはそれに応えられるなら応えたいと思う。俺にできる範囲でね」


 俺の話にシグちゃん達も頷いている。

 一緒に村に住む仲間だからね。困ってるなら教えるべきだろう。


 翌日は久しぶりの休日だ。庭先に作った小さな畑に豆の種を播くと、レイナスとにんまりしながらベンチでパイプを楽しむ。


「最初はあまり実が入らなかったが、肥料が効いてきたんだろうな。去年は良く実ったぞ」

「今年も、魚のはらわたをたっぷりとすき込んだからね。きっと良く実るんじゃないかな」


 豆は大豆よりも少し大きかった。たくさん取れたら今年の冬は豆腐を作ってみよう。チリ鍋に合いそうな気もするんだよな。



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