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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
113/128

P-113 レイナス達の変化


 結局、午後から寝正月になってしまった。

 まあ、これもこの村に住む以上仕方のないことなんだろう。サルマンさんだって悪気があったわけではない。それは2人とも重々承知してるんだけど、頭を冷やしながらファーちゃん特性のお茶を飲むことになってしまった。

 少しずつ、気分は良くなっているんだけど、明日は動かない方がいいだろう。シグちゃんからの、ほどほどにするようにとの小言が耳に痛い。


 翌日は、チリ鍋の残りに練った小麦粉を入れた鍋になる。

 朝から少しお腹に重い料理だが、シグちゃん達が美味しそうに食べているから、俺達も調子が良ければ美味しく頂けるんだろう。


「まだ頭がガンガンするぞ。今日は何もできないな」

「出掛けるとしたら明日なのかな? シグちゃん、ギルドでローエルさんに確認してくれないか?」


 俺達の姿を見ていたシグちゃん達が、顔を見合わせて溜息をついている。だらしないと思ってるんだろうな。


「しょうがありませんね。2人で行ってきますけど、何か欲しいものがありますか?」

「武器屋に寄って、銛先を受けとってくれ。代金は支払い済みだ。それと、丈夫なロープが欲しいな。長さは、1M(150m)以上欲しい」


 銛の柄は森でいくらでも手に入る。後は、ウーメラを忘れなければ十分だろう。


「例の銛だな。俺達の装備はどうなるんだ?」

「シグちゃん達はクロスボウで十分だ。俺とレイナスはウーメラで銛を投げるんだが、槍も持って行った方がいいだろう」

「投げ槍ではなくて、手槍ってことか。確かにあの姿だからな。近づかないに越したことはないよな」


 しばらく手槍は使っていなかったけど、今回は少し長めの方がいいかもしれない。いつもは杖代わりだからね。

 昼を過ぎると、少しは体が動くようになる。

 レイナスと一緒に、森で手に入れた焚き木を物色して、使えそうな棒を2本選び出した。


「やり方はいつも通りでいいのか?」

「そうだな……。数打ちの片手剣を先に付けるか。グリストが俺の知ってる奴に似てるなら、表皮はフェルトンよりもかなり柔らかいはずだ」

「刺してえぐるんだな? 確かにそれなら片手剣の方がいい」


 昔使っていた片手剣の柄をレイナスが器用に外し始めた。俺の分も合わせてお願いしたところで、棒の先に片手剣を取り付ける切れ目を慎重にノコギリで挽く。できれば針金が欲しいところだが、目釘と革紐でしっかり取り付ければ十分だろう。

 出来上がった柄を持って、さて組み立てようかとレイナスを探すとさっきまで近くにいたんだが見つからない。

 遠くには行っていないはずだから、パイプを楽しんでいると、レイナスが片手剣をもってやって来た。


「しばらく使ってないから、錆びだらけだったぞ。いくら何でも錆びた槍を使ったら笑いものだ。軽く研いできたから、これで十分だろう」

「そうだったな。たまには古い武器も手入れは必要だ。ありがとう」


 俺の隣に腰を下ろしてパイプの火を俺のパイプから点ける。

 同じ年頃の仲間がいるのが嬉しくなるな。それに狩を良く知ってるし、危機管理もレイナス達がいればバッチリだ。俺とシグちゃんだけではここで暮らすにしても苦労しただろう。


「どうしたんだ? 俺の顔に何かついてるのか」

「いや、レイナスと一緒で良かったと考えてたんだ」

「俺達こそ、感謝しなくちゃな。イリスさんに教えてもらったとはいえ、村の仇を討てたんだ。ファーと2人だけでは今でも辺境の村を巡ってたかもしれない」


 だけど、俺の目の前にいるレイナスは昔のレイナスとは違うんだよな。いつの間にか男らしくなってきたし、心の片隅に置いていたであろう村の仇である盗賊団の首領を倒したことで自信にあふれた表情をしている。

 ん? 待てよ。ひょっとしてそれなりの年を取ったということか?

 俺は金のリンゴの加護で長命化したらしいからいつまでも前と同じに考えてたんだよな。シグちゃんもハーフエルフの特徴で今でも少女のままだが、ファーちゃんはシグちゃんと並ぶと今では姉のように見える時もある。

 この先、いつまでもパーティを組んでいられるんだろうか? 少し心配になってしまう。


「これが柄になるんだな? 後は俺がやる。それにしてもいつもよりは長いんだな」

「相手の動きを制限したところでこれを使う。あのハサミだからな。あまり近寄りたくはないよ」


 柄をレイナスに渡して村の方を眺めていると、シグちゃん達が帰って来た。やはりファーちゃんの方が背が高くなっている。一緒に暮らし始めて数年が経ってるからな。

 ん! となるとミーメさんはいくつになったんだろう?

 どう考えても20台後半になってるんじゃないかな? だけど嫁に行くような話はサルマンさんからも聞いたことがないし、本人だって花嫁修業らしきものさえやっていないようだ。サルマンさんの奥さんが台所を手伝わないと俺達にも言ってたぐらいだからね。

 なんとなく気にはなるけど、本人に聞くのは恐ろしくもある。

 

「凄いやりですねぇ。今度はそれを使うんですか?」

「俺達は前衛だからな。ファー達は後ろでクロスボウを使ってくれれば十分だ」


 シグちゃんの質問にレイナスが答えながらファーちゃんが担いできた背負いカゴの中身を確認している。

 ファーちゃん達はカゴから酒のビンを2本取り出すと、漁師達の番屋へと出かけて行った。今でも5日おきに1本の酒は届けてるみたいだな。

 いつもお返しを頂いてるからというのもあるんだろうが、俺達の近所付き合いと思えば長く続けられるだろう。


「少しロープが細いようだが、これでだいじょうぶなのか?」

「どれどれ……。これぐらいで丁度いい。ウーメラで銛を投げるんだが、ロープの重さであまり届かないかもしれないからな。狙うとき目標よりも少し上を狙ってくれよ」

「それぐらいは分かるぞ。それで、これが銛なんだな。後ろが筒になってるからこれに柄を差し込めばいいのか」


 紙に包まれた銛先を見ながらレイナスが呟いた。

 ホイっと手渡された銛先を見ると、さすがは職人の作だけある。俺の意図をきちんと形にしてくれた。長さは30cmに満たないが、三分の一程のところにロープを結ぶ穴が開いている。これでロープが引かれれば銛が体内で回転することになるはずだ。


 夕食はさすがにちり鍋ではなくなった。野菜スープに黒パン、そして番屋から頂いた岩ガキが暖炉で焼かれている。


「それで、出発はいつに?」

「明後日の朝にギルドで待ち合わせにゃ。ギルドに向かう前に宿屋でお弁当を受けとればいいにゃ」

 熱々の岩ガキをスプーンとナイフで格闘しているファーちゃんが教えてくれた。

 ネコ族なんだが、猫舌の時とそうでない時があるんだよな。


「槍を忘れるなと言ってましたが、あの槍があれば十分ですね。私達は矢で十分だとも言ってくれました」

「考えることはリュウイと同じってことだな。なら準備は完了だ」

「いや、もう1つあるぞ。毒消しだ。ちゃんと持ってるよな?」

「セット物がそのまま手付かずです。ファーちゃん達も同じでしょう?」


 シグちゃんの問いに頷いてるのは、どうにか外したカキを口いっぱいにしているからなんだろう。

 この季節の岩ガキは貴重らしい。自分の分はとっくに食べ終えてしまったけど、焼いた岩ガキはこの村の名物料理なんじゃないかな。


 狩に向かう当日、朝早くに家を出る。

 冬の朝だから防寒対策はばっちりだ。ちょっとシグちゃん達が丸くなったようにも見えるけど、汗をかくようなら少しずつ脱いでいけば良いだろう。

 俺が背負いカゴを持つと、レイナスが投げ槍を束ねて担いだ。昨日作った槍は杖代わりにすればいい。シグちゃん達も杖を持ったから、今日は少し長く歩いてもだいじょうぶだろう。


「私達は宿屋に向かいます。リュウイさん達は先にギルドに向かってください」

 槍を上げて了解を告げると、直ぐに2人が村に歩いていく。

 どれ俺達も出発するか。


「まさか冬のさ中に、虫が出るとはなぁ」

「あの大きさだからね。虫と侮っちゃダメなんだろうが、それにしてもおかしな話だな」


 だいたいサソリって熱帯や砂漠にいるんじゃなかったか?

 海辺で寒さがそれほどでもない村だけど、たまに氷が張るときもある。秋にはあれほどやかましく鳴いていた虫達も今は静かなんだよな。

 どう考えても、レイナスの言う通りなんだが、森の奥で見たことは確からしい。

 

 ギルドの扉を開けると、まだミーメさんは来ていないようだ。それでも暖炉に火があるから近くの人が焚いてくれたんだろう。

 とりあえず暖炉近くに座って皆が集まるのを待つことにした。

 よいしょとレイナスが下ろした投げ槍の傍に俺達の槍を立て掛けるとその異質さが際立つな。

「今回はあの槍を使うんだな」

「ああ、かなり厄介な相手だと思うよ。だけど表皮はそれほど固くない。そこが付け目だ」

 俺の言葉に頷きながらレイナスが頷いている。

 いつの間にか立派なハンターになった気がするな。


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