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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
109/128

P-109 来るなら来い


 東の浜の騒ぎがここまで聞こえてくる。

 たまにサルマンさんの大声まで聞こえてくるから、善戦しているみたいだな。襲ってきた盗賊も強盗団が率いた盗賊というところだろう。意外とこれが相手を襲う最初になる連中もかなり混じっているに違いない。

 要するに、大声で罵り合いができることが大事だからね。

 それでも、たまに村の中に向かって火矢が飛んでいくが、あれほどまばらな攻撃では、自警団や村の有志の連中がさっさと消し止めているに違いない。


「それにしても賑やかだな」

「目的ではありますが、迎え撃つ漁師のおじさん達は酒も入ってるでしょうからね」

 槍や銛を突き出して騒いでいるに違いない。だが、数人の弓使いが向かったから盗賊の方はかなり被害が出てるかもしれないな。

 逃げたいが、今逃げたなら盗賊団の計画がおじゃんになってしまう。それに、仲間内の制裁はかなり厳しいのかもしれない。

 大声の罵り合いがやけに大きく聞こえてきた。


「北にもやって来たぞ!」

 自警団の1人が槍を持って知らせに来た。

「俺達はここを守る。北は任せたぞ!」

「分かってらい。じゃあ、頼んだぞ!」


 俺の言葉に大声で答えると、今度は東に向かって走って行った。


「これで、東と北に盗賊団がやって来た。東はもうしばらくしたら逃げ去るかもしれんな」

「たぶん。村を守る連中が、北に向かえば東の盗賊達は下がるでしょう。ですがそこで踏み留まるはずです」

「姿を見せておけば、全員を北には動かせんからな。トーレル殿達も踏ん張りどころだ」

「とはいえ、こちらももうすぐですよ。レイナス達がいますから不意打ちを受けることにはならないでしょうけどね」


 隣のレイナスは俺の言葉にパイプを咥えながら頷いている。ネコ族の連中が何人か混じっているのも心強い限りだ。

 俺ものんびりと待つことにするか。やってくればレイナス達が教えてくれるだろう。


 しばらくして、弓を持った2人が焚き火に戻って来た。腰を下ろしたところで、レイナスからお茶のカップを受けとり、美味しそうに飲んでいる。


「2人は倒しましたよ。大声を上げるだけであまり近づかないんです。人数は、光球の明かりに少なくとも30というところです」

「ごくろうさん。まだ、騒いでるみたいだけど?」

「数人ずつ出てきて喚いてるんです。サルマンさんがこっちを手伝ってやれと言うんで戻ってきました」


 そういうことか。やはり陽動ということなんだろう。となると北の門は今頃激戦になっていそうだな。

 イリスさんも俺と視線を合わせると頷いているから、やはり考えることは同じということになる。


「ところで、あの大きなクロスボウを撃ったんだろう? 驚いてたんじゃないか」

「驚くどころか、1人があれをまともに受けてひっくり返ったもんですから、それ以来、遠くに離れて数人ずつ出てくるんです」


 若い男の言葉に皆がにんまりと表情を崩す。

 さぞかしサルマンさんが得意になって銛を振るってるんじゃないか? だが、そうなると、東に現れた盗賊達は裏家業を始めたばかりってことになりそうだ。退くわけにも行かないから互いに罵り合って騒いでるに違いない。ひょっとして、漁師のおじさん連中は一足先に酒盛りでもやってるのかもしれないな。でないと、あんなに大声で騒げないんじゃないか?


「問題は北の行方だ。まだ、続いているようだが……」

「とはいえ、そろそろ来ないと北の攻撃が中断すると、北の守り手が移動することになりますよ」

 イリスさんの呟きに俺が答えたその時だ。


「やって来たぞ、身を屈めてるが俺の目は誤魔化されないぞ!」

 レイナスの言葉に、ネコ族の連中がレイナスが伸ばした指先を凝視している。

「かなりの数だ。そろそろ焚き火を作るか?」

「そうだな。光球も、あそこと、あそこに転がしてくれ。それで西がだいぶ見通せる」

イリスさんの言葉に数人が焚き火の傍を離れて、焚き火の火を積み上げた粗朶木に移し始めた。

 乾いた粗朶がすぐにメラメラと燃え上がり、俺の目にも地を這うように進んできた盗賊の姿が見えた。

 かなりの数だ。どう見ても100人を超えている。


「先ずは、矢を射かける。2つ目の柵に取ついたなら、弓使い以外は剣と槍だ。構えろ!」

 一斉に弓を引き絞る。

 俺の持つ弓は武器屋から購入した奴だから少し強めなんだよな。あまり長くはつがえたままではいられないぞ。

「放て!」

 イリスさんの合図で20本以上の矢が盗賊目がけて飛んで行った。

 

 俺達が気が付いたとみえて、砂浜を駆けるように進んでくるが、砂地は走りずらいのが難点だ。

 数人が矢を受けてその場に倒れたが、そんなことにお構いなしにやってくる。

 蛮声を上げて長剣や槍を振り回しているが、矢を持つ者はそれほどいない。持っていても走りながらでは当たるもんじゃないからね。最初から用意しなかったのかもしれないな。


 矢継早やに、矢筒に入った矢を全て撃ちつくすと、3節棍を片手に焚き火の左手に出る。俺の左には誰もいない。渚から15mほどの場所だ。

 俺の隣には短槍を持った男がやって来たので、少し後ろに下がってもらう。


「俺の武器は間合いがかなり広いんですよ。少し下がって取り逃がした盗賊をお願いします」

「イリス殿から、変わった武器を使うとは聞いていたが、そんなもので盗賊に向かうってんだから、後ろで拝ませてもらうよ。おこぼれは任せとけ。俺を抜けてもさらに後ろに2人がいるからな」


 少ない人数だが、3重に備えていれば安心だ。レイナスはシグちゃん達の近くで奮戦してくれるだろう。そういえばイリスさんのパーティにもヌンチャク使いがいるんだったな。案外、レイナスと張り合うのかもしれないぞ。


「来るぞ!」

 イリスさんの甲高い声に前方を見据える。

 俺の前には柵がない。柵に行く手を阻まれた盗賊達がぞくぞくと俺目がけて長剣を振り上げて走り寄る。


 真ん中の棒を両手に持ち、体を左右に回すように動けば、遠心力で左右に鎖でつながれた棒が勢いよく振り回される。先端部分は鉄の筒が被せてあるから、当たればただでは済まないだろう。

 ボグ! と骨を砕くような音が聞こえるんだが、あいにくと手には感触が伝わらないんだよな。

 相手の位置を確認しながら左右の手で水車のように回しながら次々と盗賊達に3節棍を叩きこむ。


「なるほど、そうやって使うのか。 ヌンチャクとは違うんだな」

「相手が多い時には役に立ちます。ガトルには結構役立ちましたが、盗賊相手にも使えるもんですね」


 後ろの槍使いとそんな会話ができるほどだ。何度か使っている内に少し使い方が分かってきたな。最初はがっしりと握ってたから後で手が開かなくなったけど、軽く握っていても相手に一撃した感触が伝わらないから問題は無いようだ。それに、棒の真ん中付近を握れば遠心力で手からすっぽ抜ける心配もない。


「とう!」

 気合のこもった一撃を盗賊の首筋に与えたところで、次の相手を探す。

「どうやら、あんたを強敵と見たようだ。あそこで団子になっているぞ」

 辺りをきょろきょろを見渡している俺に、後ろから笑い声とともに男が話しかけてきた。

「だけど、団子になったら……」

 足を踏み出しかけた盗賊達の中に【メルト】の火炎弾が炸裂する。たちまちあちこちに逃げたんだが、運悪く俺達の方にやってきた盗賊に3節棍をお見舞いする。


「レイナス! レイナスはどこだ!」

 イリスさんの声がやけにはっきりと聞こえるけど、レイナスに何かあったわけじゃないよな? ちょっと心配になって俺達の小屋の方に目を向けると、レイナスがウーメラを使って投げ槍を放とうとしていた。

 あんなもので盗賊を狙うってことは、盗賊の頭でも見つけたのかな?


 突然、盗賊達の動きが緩慢になる。逃げ出す者まで出てくる始末だ。逃げても砂に足を取られるから、背中に矢やボルトが突き立つ、その場に倒れる者が続出している。

 イリスさん達が柵を飛び越えるようにして盗賊の中に入って行き、浮足立った盗賊を次々に血祭りにあげている。腕に自信があるんだろう。数人のハンターがその後に続いていった。


「イリス殿がいるのであれば、我等は足手まとい。ここで成り行きを見守ろう」

「そうだね。それにしてもトラ族の振るう長剣はきれいだな」

 

 一振りごとに盗賊が倒れていく。イリスさんのパーティだけでもここは十分だったかもしれないな。

 やがて西に顔を向けて立ち尽くしていたイリスさんが体をこちらに向けた。どうにか終わったということなんだろうか? あちこちに盗賊が倒れているが、数人のハンターが槍で突きながら絶命していることを確かめている。もし生き残っていたなら、どうするんだろう? その場で突き殺すんだろうか。


「こいつは生きてるぞ! はやいとこ縛ってくれ」

 捕縛した盗賊は王都で公開処刑と聞いたけど、今回の襲撃の裏を取る上では必要なんだろうな。場合によっては減刑をちらつかせて情報を得るのかもしれない。


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