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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
106/128

P-106 村が豊かになると


 番屋に戻った俺達は、近くで狩に勤しむ。

 結構蓄えもあるし、無理な依頼をすることもないだろう。日々平穏とは言えないが自分達の背丈にあった依頼をこなしていけば良いはずだ。

 織り場の織機は朝から晩まで動いているらしい。2交代制を敷いているとのことだから、シグちゃん達も2人で出掛けて行く。

 俺とロクス達2人の4人で行う狩だから、ラビーに野犬が良いところだ。

 たまに中級ハンターが逃したガトルが初心者ハンターの縄張りに紛れ込むから、これも俺達が始末することになる。

 小さな群れになったガトルの行動は狡猾だから、いろいろと罠を組み合わせることになるので、ロクス達はこっちの方がおもしろいと言ってはくれるけど、ロクス達は中級ハンターなんだよな。少しもったいないようにも感じる毎日だ。


 夕暮れになって番屋に戻っても俺達4人だけだから、隣の漁師達の番屋でシグちゃん達の仕事が終わるのを待つことが多くなる。

 なんとなく、甲斐性のない親父のようにも見えるけど、漁だって大事な村の産業だ。俺達が協力できることがあれば協力することにやぶさかではない。


「リュウイに教えてもらったカゴ漁で、これが取れるんだからなぁ」

「まだまだ、俺達の知らない漁を知ってるんじゃないのか?

「もう何もありませんよ。でも、これが獲れたんなら教えて良かったと思います」


 小屋の大きな囲炉裏にはたくさんのエビが串に刺されて炙られている。最初の漁で手に入れた時と比べて二回りは大きなエビだ。


「地引網にも入るんだが、これほどは獲れん。それにこっちの方が遥かに大きいからな。魚目当てにやってくる商人達も大喜びで買ってくれたぞ」

「嫁達よりも稼ぎが少ないと馬鹿にされそうだが、これなら文句は言われめぇ。まったくありがてぇこった」


 それは肩身が狭くなるな。少しは俺にも責任がありそうだけど、夫婦での稼ぎは昔から比べればはるかに大きなものになったかもしれない。

 だけど、それは村全体に言えることなんだろうか? 村のごく少数の者だけが裕福になっただけなら、小さな村の中に波風を起こすことにもなりそうな気もするな。


「あまり喜んでおらんな。どうしたんだ?」

 サルマンさんの言葉に、俺の危惧を話すことになったのだが……。

「ワッハハハ、そんなことを考えてたのか! だいじょうぶだ。それは嫁さん連中が考えてるよ。俺達は今の仕事を頑張れば良い。俺達に金が回れば、それは村にも回るってもんだ」


 小屋中に大きな笑いが広がったが、それって稼いだ金を飲んでしまってるわけじゃないだろうな。いくら気風の良い漁師でも少しは貯金をしといた方が良いと思うんだけどね。

 だけど、サルマンさんの話にも賛同できるところがある。稼いだ金を村で消費すれば、村全体が活性化することは確かだ。それを目当てに行商人だってやってくるに違いないが……。待てよ、そうなると盗賊だってやってきそうな気もするな。


「ん? 気が付いたか。村の周囲の柵は修理してあるし、浜にも柵を新たに作った。自警団の数も倍にしてある。それに何といっても俺達がいる」

「「おう!」」

 すでに考えていたのか。さすがはサルマンさんだな。

 俺の裾を引いて、レイナスがどういうことだと聞いてきたから、簡単に説明してあげた。

 他の村から1歩頭を出せば、それだけ盗賊の目がこの村に向くと教えると、目を大きく見開いている。

 レイナスは盗賊に襲撃された村の生き残りだったな。さぞかし悲惨な状況を目にしたに違いない。


「今度は俺も戦える。両親の仇はここで討てるってもんだ!」

「だが、せっかく生き残ったんだ。お前に何かあればファーちゃんが悲しむぞ」

「ファーだって戦える。あの村で泣くことしかできなかった。だが、今は違う!」


「レイナス達は村を焼かれたのか。盗賊達は後を残さんようにすると聞いたが、良く助かったな。リュウイの言う通りだ。せっかく助かった命を大切にするんだぞ」

「だが、今ではローエル達が一目置くハンターだからな。俺達も頼りにしたいところだ」

 レイナスが目を輝かせて頷いている。

 そんな事態になったら、物陰から弓で応戦したいところだが、レイナスの気性だからな。ヌンチャクを振り回して飛び出しかねない。後で十分に言い聞かせとくか。


 長居をすると、どこまで飲まされるか分からないので、ギルドに向かうと口実を作って俺達は小屋を抜け出した。

 足元をふらふらさせながらギルドの扉を開けると、暖炉近くのテーブルでローエルさんが手招きしている。

 俺達がテーブルに着いた途端に、ミーメさんが濃いお茶を持ってきてくれた。


「酔ってるところを見ると、おじいちゃんに飲まされたようね。このところ豊漁が続いてるから皆機嫌が良いのよ。あの番屋に住む以上避けて通れないのが残念ね」

 他人事だが、ミーメさんのおじいちゃんであるサルマンさんのせいなんだよな。お茶を飲むとすぐに新しいお茶を注いでくれたから少しは済まないと思っているのかもしれないけどね。


「相変わらずだな。ところで、少しここで付き合ってくれないか? もうすぐ警邏がやってくる」

「その話を番屋でも聞きました。やはりやってくるんでしょうか?」

「可能性は高いということだろうな。盗賊仲間の噂になっているようだ」


 やがてギルドにやって来たのは、革ヨロイに長剣を下げた2人だった。年齢は壮年を過ぎているから、軍の除隊組ということになるんだろう。それなりに信用のある人物を村々に配してお巡りさんのような仕事をしてるんだろうな。


「ローエル殿、この2人は?」

「紹介しよう。先ずは座ってくれ。話は聞いたこともあるはずだ。リュウイとレイナス、それに王都からやって来たロクス達だ。4人組のハンターなんだが、ハンターで暮らすには惜しいとガイエン殿にも言われる始末だ。この村の暮らしが良くなってきたのも、こいつらのおかげだろうな」

「元近衛のネーデルとヨハンだ。話は聞いたがだいぶ若いんだな。ガイエン殿が一目置くなら頼りにさせてもらうぞ」


 とりあえず、頭を下げておく。

 新たなお茶が運ばれたところで、盗賊退治の話が始まった。やはり、盗賊団がこの村を襲う計画を持っているのは間違いなさそうだ。


「王都に応援を要請したのだが、軍は派遣できぬとの事。気鋭のハンターを送ると言っては来たのだが、誰がやってくるかは分からん始末だ」

「それでも数人が増えるのはありがたい。王都のギルドなら黒レベルを派遣してくるはずだ。この村で狩をしているハンターは6組で総勢28人。合わせれば1個小隊ほどの戦力になるだろう」


 王都のギルドでは、盗賊狩の依頼もあるってことなんだろう。やはりこの村でのんびりと薬草やラビーを狩っていた方が俺には合っている。


「村の若者の自警団は20人。それなりに武器を扱えるし、俺もたまに訓練をしている。それに漁師達も使えるはずだ。サルマン殿が30人は用意できると言っていた」

「総勢、80人近くになるな。ところで相手は?」

「グラーフ一家だ。隣国と行き来している厄介な相手になる。グラーフ一家だけで100人はいるが、たぶん他の盗賊団も一緒にやってくるに違いない」

 およそ3倍ということになるんだろうか? これはかなり問題だぞ。

「それで、対策は?」

 思わず問いかけてしまったが、俺に顔を向けると腰のバッグから取り出した紙をテーブルに広げて状況を教えてくれた。


 南方向以外は丸太のような杭で村の周囲を囲んでいる。その中に100軒以上の家が碁盤の目のように区切られた小道の両側に建てられている。大きくは中央の道と、なん中から東西に延びた道があるんだが、このような配置は火事対策ということになるんだろうな。延焼をこの大きな道で食い止めれば、被害は村の四分の一で済むからね。


「村の入り口は北にある門だけだが、南の砂浜は通行自由だ。砂で足場が悪いとはいえ大きく開いている。ここに2段の柵を急遽作ったが安心はできないな」

「族は浜からということか?」

「俺なら、そうする。波打ち際から丸太の柵まで200D(60m)以上も障害が無いんだからな。柵は作ったがそれほど堅固ではない。少し足止めができれば良いところだ」


 そうなると俺達の番屋が一番先に襲撃を受けそうだ。さて、どうやって防ぐかを考えないと大変なことになりそうだ。


「東は森が近い。獣も多いだろうから、方向としては西ということか」

「荒れ地を横切るだけだからな。西に広がる荒れ地は無人地帯だ。十分に盗賊を隠すこともできよう」

「ということだ。リュウイ、良い案はあるか?」


 急に話を振られても、まして酒をたんまりと飲まされたところだからな。

 俺達の戦力が80人と言っても、人を相手に戦ったことがある者はそれほど多くはない。それに人を相手に武器を振るうのは本能的に避けようとすることも確かだ。使える人数は半数というところだろう。


「主力はハンターということになりそうですね。自警団の中で弓が使える者はいるのでしょうか? 盗賊団の放つ火矢も厄介ですから、弓を持たぬ自警団は火消しを専門にしてもらいたいです。先ほどの話では東の浜も侵入口としては使えそうですから、そこは漁師達に任せたいところです。ハンターの三分の一を北の門に、残りを浜の西に配置すれば弓を持つ自警団を遊撃隊として使用できそうです」


 地図に粗末な鉛筆で配置を記入している。頷きながら書き込んでいるところを見ると納得してくれたんだろうか?


「自警団の半数が弓を使える。確かに南北の状況次第で動かすのは良い案だ。血気に高い漁師達に東を任せるのも頷けるな。彼らの銛を果たして掻い潜れるだろうか? 来るとなれば陽動部隊だろうから漁師達よりも少人数だろう。となると、この西は激戦になるぞ!」

「この端にある番屋が俺達の住処です。俺達も頑張るしかありません」


 さて、そうなると盗賊団はいつ頃やってくるんだろう?

 その辺りを聞いてみると、少なくとも半月は余裕があるとのことだった。俺達が油断するのを待ってからが常套手段らしい。何とものんびりした襲撃に思えてきたな。


「何を笑ってるんだ?」

「いやぁ、何とものんびりした襲撃だと思って。俺なら人数が集まり次第襲撃しますよ。俺達が油断すると言っても、その前に迎撃の準備が揃いますからね」

「準備することがあるのか?」

「色々とありますよ。何といっても桶に水をたっぷりと準備しないといけません。村に何カ所か火事を起こして、そこに皆が集まったところを襲うという方法をなんとか回避しませんと」

 

 俺の言葉に、皆が驚いている。

 意外とそんな襲い方をするのが一般的だということなんだろうか? この際だから、盗賊団の襲撃方法を知る限りの範囲で教えてもらおう。


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