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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
105/128

P-105 最後は目を狙って


 エラステモンの大きさは問題だけど、それよりもあの大きさに足の太さが見合ってないように思える。歩き方もなんとなくヨチヨチしたものだ。だけど足が細い方が駆け足は早いと聞いたことがあるから、意外と骨太なのかもしれない。少なくとも象の足という感じではないな。


 ゆっくりと罠の方に歩いていく。ローエルさん達が悠然と立っているのを見ると、さすがに高レベルのハンターだと思わざるを得ない感じだ。俺なら足がガクガクだろう。

「投げ槍を使うようだぞ!」

「ああ、上手く怒らせてくれれば良いんだが」

 一応、シグちゃん達が【アクセル】を掛けてくれたから、少しは身体機能が上昇しているはずだ。

 たとえ突き通すことができなくとも、相手が敵だと思わせれば十分だ。すでに罠の中に入っているから、前、左右に動けばどれかの落とし穴に嵌まってしまうだろう。


 ローエルさんがウーメラを使って投げた投げ槍と、ガイエンさんの投げた槍が同時にエラステモンに当たった。

 ガツン! 当たった音がここまで聞こえてきた。

「やったか!」

「いや、当たっただけだ。槍は2本とも落ちてるだろう」

 頭蓋骨は一番固くできているはずだ。2本とも頭に当たったんだから突き通ることはないだろうが、作戦通りの展開になって来たぞ。

 さっきよりも足早に槍を構えて2人の方に動いていった。

 怒ってるんだろうな。あの前にだけは立ちたくない。頭を下げて走るから一角が前方にまっすぐに向いている。走りによって左右に振れるから威圧感は相当なものに違いない。

 

 突然、エラステモンが前に崩れ落ちた。

 落とし穴に前足を踏み入れたんだろう。あれだと体重が前に掛かるから抜け出すのは困難に違いない。

「出番だ!」

「おう!」

 立ち上がりながら投げ槍にウーメラをセットする。シグちゃん達の潜んでいるところからも3人が投げ槍を掲げて飛び出してきた。

 力いっぱいウーメラを振り下ろす。至近距離からならそれなりに効果があるだろうと思っていたのだが、やはりエラステモンの表皮の固さは半端じゃないな。

 レイナスの投げ槍は跳ね返ったし、俺の投げ槍は先端の半分ほどが食い込んだだけだった。

 反対側はどうなんだろう?

 次の投げ槍をウーメラにセットしながら表皮の薄い場所を探した。

「レイナス、ちょっと卑怯な気もするがお尻を狙ってみるか?」

「尻だと? 確かに皮が薄そうだな」


 エラステモンの後ろに回ると、反対側には3本の投げ槍が刺さっていた。やはりトラ族とイノシシ族の腕力は半端じゃなさそうだ。

 まぁ俺達は力技はそもそも無理なんだけどね。

 俺とレイナスで力いっぱいウーメラを振り下ろす。

 ブルッと巨体が震える。やはりお尻の皮は薄かったようだ。2人の投げ槍が深々と突き立った。


 次の瞬間、ドカン! という音と共にエラステモンの巨体が横に動いた。

 大型クロスボウに数人が集まっているところを見ると、2の矢の準備をしてるんだろう。状況を確かめるように横に向かうと、俺の身長近いボルトが三分の一ほど巨体に食い込んでいる。傷の周囲から血が噴き出しているのを見ると内臓にもかなりのダメージを与えたに違いない。

 どうにか準備ができたらしく、大型クロスボウからロクス達が離れていく。

 再び胴体にボルトが突き刺さると、牛のような鳴き声を長く伸ばしながらエラステモンが横倒しになった。


「やったか!」

「まだだ。致命傷にはなったろうが、まだ息がある」


 さて、どうやって止めを刺そうかと考えていた時だ。

「皆隠れろ! もう1頭やって来たぞ」

 レイナスの声に、慌てて最初の位置に戻ろうとした時だ。

「間に合わん! ここで迎撃するぞ」

 何が出たんだろうと、後ろを振り返ると、すぐ目の前にイネガルが現れた。

 とっさに背中の長剣を抜いてイネガルの突進を避けながら首筋に振るった。そのまま後ろに走って行ったイネガルが横に倒れる。

 ほっと一息つきながら長剣を戻した。

「まったく、実力は黒レベルと言っても良さそうだ。後でレベルを確認しとけよ。白というのがどうしても信じられねぇ」

 俺の肩をポンと叩いてイネガルの始末をしに、サドミスさんが短剣を取り出した。

 そっちはサドミスさんに任せるとして、まだ問題が残ってるんだよな。


「やはり、それを使う外に手はないだろうな。とりあえず試してくれ」

 頭の方に皆が集まっている。その中心にいるのはシグちゃんとファーちゃんだった。どうやらクロスボウを使って目にボルトを射込もうとしているらしい。

 ガイエンさんとローエルさんはすでにパイプを咥えて観戦モードだ。周囲をレイナスとロクスの2人で監視しているから、それでも良いのかもしれないな。


「やりました!」

 シグちゃんの歓声が上がる。ファーちゃんはちょっと残念そうだけど、目の周りに数本のボルトが深く刺さっているから、2人の内どちらが命中させるかは時間の問題だったようにも思えるな。


「これで依頼はなんとかなったな。イネガルは持ち帰った方が良いだろうが、こいつはどうしようもない。討伐の証である角を取ればそれで十分だろう」

 角はガイエンさん達に任せて、俺達は落とし穴に土を戻す。

 さすがに全部埋め戻すことはこの人数では無理だから、三分の一程埋めておくことにした。これなら落ちてもすぐに這い出せるだろうし、あらかじめ森の広場に落とし穴があると教えておけば十分だろう。

 だけど、このマイクロバスほどの巨体はどうしようもないな。


「今夜は森で夜を明かすことになるが、さすがにこの広場は止めといた方が良いな。肉食獣が集まりそうだ」

「何とか森の外に出られないか?」

「もうすぐ日が暮れそうだ。森から出るのは難しそうだ。この場所からできる限り離れることで何とかしたい」


 荷物をまとめるとすぐに広場を後にする。

 突然予想外のイネガルが飛び出してくるような森だ。あまり長くいると次に何がやってくるかわからない。


 立木が密集して下草が少ない場所を見付けたところで、野営の準備を始める。

 難しい狩を終えたこともあるから、皆の機嫌は良い。途中でファーちゃん達がし止めたラビーをロクスが解体してスープの中に入れてるから夕食は期待できそうだ。


「やはりリュウイ達を交えた狩で良かったと思う。投げ槍で倒せなければ軍隊を呼ぼうと考えていたのだ」

「あの大きさだからな。やはり、俺達で考え付かん時には頼りにできる存在に違いない」

 評価は良いんだけど、あまり頼りにされてもなぁ……。

 責任を果たせて安心しているんだろう。スキットルの酒をガイエンさん達が廻し飲みしている。

「たまたま上手く行っただけですよ。それに俺1人ではどうしようもない狩です。ここに皆さんがいたことが一番大事なことだと思います」

 俺の言葉に頷いているから、少しは納得しているんじゃないかな。

「とりあえずは、イネガルの分配で我慢してくれ。王都でギルド長を交えた裁可が行われるはずだ」

「気長に待つさ。それとロクス達はこのままで良いのか?」

「中々に育っているようだな。あと半年もリュウイ達と過せば王都で仲間を募れるだろう。イリスだけで辺境を回るには無理がある」


 スープ鍋を掻き回していたロクス達が少し残念そうな表情をしてるけど、嬉しそうに目を細めてもいる。憧れのイリス姉さんと同じような仕事ができることが嬉しいのかもしれないな。

 久しぶりのラビー入りのスープを楽しみ、交代で焚き火の番をする。

 人数が多いから1回番をすれば十分だ。

 翌日は、朝食もそこそこに森を離れることになった。昼食は村の宿でゆっくり取れるだろう。


「さて、これが今回の報酬だ。イネガルをし止めたのはリュウイだが、ここは皆で分配させてもらう。エラステモンの報酬は金貨1枚を超えるだろう。1枚分を皆に合わせて分配する。差額は村のギルドに届けるから安心してくれ」

 昼食を終えたところで、ガイエンさんが俺達に報酬を手渡してくれた。1人当たり銀貨10枚に銅貨が数枚だ。銅貨がイネガルの報酬になるんだろう。

 

「ここから王都に向かうのか?」

「早く報告したい。軍が動こうとしているんでな」

 ローエルさんにそう答えると、席を立って宿を出て行った。

 俺達は明日のんびり村に戻れば良い。


 俺達が、海辺の村に戻ったのは2日後の事だった。

 途中でお土産用のラビーを数匹狩ったから、1匹は漁師のおじさん達に届けられるだろう。


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