ピクニックの始まり(融サイド11話)
バスが休憩から40分ほどで目的地に到着した。
バスを降りるとクラスごとに整列したあとガイドさんの紹介や注意事項の説明があった。
こんな山を登るのに山岳ガイドなんて必要ないような気がするが、山は何があるかわからないからなのだろう。
トイレ休憩の後、とうとうピクニックが始まった。
山頂までは2時間ほど。
歩く道は整備されている。
最初はクラスごとに整列したまま歩いていく。
登山道の入り口付近は道が狭いからだそうだ。
歩き始めて10分ほどすると道は広がった。
こうなると一機に列は乱れ、仲良しグループが形成される。
俺も貴樹や他数人の男子で歩いていた。
彼女も前の方でグループであるいているようだ。
「なあ。融」
いきなり貴樹が今までの話題を無視して、俺限定で話しかけてきた。
「なんだよ」
貴樹が妙にまじめな顔なので、警戒しながら返事をした。
「お前、渡邊さんのこと好きだろ」
「え?」
あまりの不意打ちに、このときの俺の顔はまさしく鳩が豆鉄砲食らったような顔だっただろう。
「マジか融」「いや~怪しいとは思ってたんだけどさ」
周りにいた奴等もそんなことをいい始めた。
「違うって」
俺はあわてて否定する。
「嘘だ。お前いっつも渡邊さんのことみてるじゃん」
やはり貴樹は変なところが鋭い。
「だから違うんだって」
「まあそこまで言うならいいけどさ」
いきなりこんな話を持ち出したクセにあっさりと引き下がる貴樹。
やはりこいつは変っている。
だからこそ俺はこいつといるのが好きなのかもしれない。
これでこの話はひと段落した。
俺がホッとしていると、後ろの女の子のグループが前に走っていった。
まだみんな元気だ。
これからまだ4時間近く歩かなくてはいけないのに、よく走れるものだと感心した。