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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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不完全なゲーム世界

作者: モンモコ
掲載日:2026/07/10

短編にはオチがあった方がイイと思う。

ふと目覚めるとそこは牢獄だった。

比喩的なものではなくて、本当の牢獄。鉄格子の中だ。

オレはベッドという名の硬く冷たい板からゆっくりと起き上がった。

本来ならば「うーん痛たた」とでも声を上げるところなのだろうが、身体が慣れてしまったのか特に痛いわけでもない。

しかし、あまり気分は良くないようだ。なんか、そう気力が湧かない、そんな感じだ。

何でオレは牢獄に居るのか、そもそもここはどこなのか。さっぱり思い出せない。


それはそうと、この視界の隅に見えている数字やアイコンは何だ。

目をつぶっても消えないし・・・。

もしや、ゲーム世界に転生してしまったのか。

いや、赤子の体じゃないから転移か。

視界の隅にあるアイコンをクリック、というか意識すれば何もせずとも操作可能のようだ。

うーむ、ゲーム世界と考えて良いようだな。確信を深める。オレはそれらアイコンの意味を知っているからな。

「ステータスオープン」なんて叫んでみたりしないでも意識したらウィンドウが開いた。


ステータスを確認しようか。


ふむふむ、見事にレベル1の雑魚ステータス。

魔法なんて覚えていないし、装備もカラだ。

アイテムボックスも見事にカラ。だがスロット数は初めからすごい数だ。

こいつだけでも「俺Tueeeeee」ができそうな予感。

いや、数の制限は不明だが、重さの表示があるな。ふむ、重量制限があるようだ、残念。

HPが1/4程になってしまっているが、気分がよくないのはこいつが原因だな。

ステータス表示の隣には装備画面があり、ゆっくりと回転する自分らしきムサイ中年男のキャラが表示されている。

腰に巻いた汚い布切れ以外何も身に着けていない傷らだけの汚れた身体。

画面からは分からないが、腰巻の下はフルチンだ。

アイテムボックスに表示されないから、たぶんこの腰巻きがデフォルト装備ってことだろう。

キャラはやや屈強そうな成人の男でそれなりに発達した筋肉。

オレってこんなんだっけ? この顔はどこかで見たような気がしないでもない。

まぁよくある洋ゲーの主人公の特徴だな。バタ臭い顔だ。

これがJRPGなら清潔感のあるハンサムな若者なんだけどなぁ・・・。

まぁ、ケツ顎じゃないだけましか。


ウィンドウを閉じ、周りを確認する。

石造りの狭い牢獄の部屋にはベッドの他は、蓋のあるツボが隅に置いてある。

たぶん、おそらく、まぁひとつの排泄物入れだろう。

とはいえ、こいつからは何も匂ってこない。

というより、鼻がいかれてるのかもしれない。何の匂いも感じない。

それ以外は何もない。


ここで手に入れられるアイテムは何も無いと考えて良いだろう。

と、そんなことを考えていたら、おっと誰か来たようだ。


「おい、おまえ、出ろ。」


二人づれの兵士がやってきて牢の錠を開け、声をかけられた。

兵士だと思ったのはローマ兵のような金属と皮でできたおそろいの鎧を着ていたからだ。


ローマ兵? そんなもんどこで見たんだろ? うーん、思い出せない。———まぁいいか。


オレはこいつ等の敵勢力の捕虜ってことだろうか。

それとも討伐された蛮族の村人?

後者の方が近しい気がするが、ウーム、考えてもさっぱり分からん。

抗う理由もないし、というか訳も分からず反射的にその指示に従う。

だって、しょうがないだろう、剣で威嚇してくるからね。

抵抗することもできず、両手に木の枷をはめられ、外に連れ出される。


半地下だった牢の間から階段を上り、石の回廊を抜けると殺風景な広い中庭。石の壁に囲まれている場所のようだ。

そこにはオレと同じように枷をはめられた十数人の男たちが順番に並ばされていた。

皆の服装もだいたい腰巻一丁だが、全員が屈強な戦士っぽい。

列の先には数人の兵士と、段の上で椅子に腰かけているちょっと偉そうな男。

兵士たちも全員が屈強な男たちで、いち様に無個性。というか全員同じ体格で同じ顔に見える。

いわゆるモブキャラってこと?

いいのかこのリアル系グラで? ゲーム世界とはいっても、最新のゲームだぞ、さすがにそれはないだろう。

ライセンス料ケチらずフェイスジェネレーターぐらい使えよ。


列の先頭にいたものから声が聞こえてくる。内容までは聞こえないがどうやら何か問答してるっぽい。

何回かやり取りがあった後、最初の男は地面に押さえつけられる。

何をしているのかなと見ていると、おもむろに隣に立った兵士が斧を振り下ろした。

ドゴン、と音がしたと思ったら、悲鳴を上げる間もなく男の首が落ちていた。

見ると、首を置くための台から首がごろごろと転がり、くぼみに落ちて止まる。

切断された首から血がドバーっと吹き出して石でできたシンクに流れ落ちるの見て、オレは唖然とする。

並ばされている男たちがどよめき暴れようとするが、すべて押さえつけられる。

なんと、ここは処刑の施設だった。

やべーよ、始まってすぐにいきなり処刑かよ。

この世界に来たばかりで処刑とか、ありえねぇ。勘弁してくれ。


いや待てよ、このシーンって有名なあのゲームのパクリじゃないのか?

ということは、ここから逃げられるような気がする。

とはいえ、この先どうなるんだったかな、——— うーん、思い出せない。

そういえば話術というパラメータがあったな。

巧みな話術でなんとか逃れられないだろうか?

しかし、何を聞かれるのか分からないから、前もって対策も考えられん。

んーと、話術のパラメータは、——— たったの2かよ。 オワタ。


そうこうしているうちに、つぎの男も首をはねられ、またそして次の男も。

誰ひとりとして逃れられないのかよ。

血みどろの首がどんどん溜まっていく。

レーティングZでも限界はあるぞ。こんなんで、発売できるんか?


ああぁ、とかなんとか考えている間もなく、自分の番が刻々と迫る。

どうする?どうする? 気が焦るが何も思いつかない。


だが、それはまさに目の前の男の首がはねられた直後に起こった。

カーン、カーン、カーン と半鐘が鳴らされると同時に


「魔物だー!」


遠くの兵士が叫ぶと、その場の兵士たちが一斉に剣を抜き、警戒態勢を敷く。

ドゴーンという石の壁が崩れる音とともに、巨大な魔物が顔を出す。

体長三メートルを超えるトロール数体がこの施設を襲ってきたのだ。

トロールは、すげぇ怪力の化け物だ。

オレの中でトロールといえば、温和なムーミソとかトト口なのだが、この世界では違う。恐ろしい二足歩行の青い化け物だ。

と、そんなことを考えていたら、いきなり視界のど真ん中に派手な飾り文字が。


<第一章:冒険の始まり>


んー、陳腐な章タイトルだな。

そして始まる短い音楽。

なんだこれ、そして何この音楽?どこから流れてくるの?

ふいに体の自由が利かなくなる。

といっても、その場に固まるといったことではない。

勝手に動いてしまうのだ。

視界の隅にあった数字やアイコンは消え、その代わり上下の視界が狭くなる。

いきなり視点はドーリーに乗ったキャメラのような感じで大迫力の演出とともに移動する。

トロールが降り下ろす巨大なこん棒に兵士が叩きつぶされる。


グシャー!


なすすべもなく、地面にたたきつけられ、上半身が潰され、内臓がドバーッと。

うわ、キモイ、キモ杉。

無理、無理、こんなん無理。


———って、これイベントシーン? と、いうことは・・・。


オレはパニックになった兵士を振り切って駆け出し、手かせのまま逃亡を図る。

目の前ではえらいことになっているのに、なぜかオレは足がすくむこともなく、いたって冷静だ。

自分自身のことなのに、すっかり傍観者って感じになっている。

まぁ、自分の意思に関係なく勝手に動いてるからな。

この世界は、ゲーム世界なんてもんじゃない、ゲームそのもののようだな。


イベントシーンが終わった時、オレは洞窟の中にいた。

どうやら、いつの間にか逃げ切れたようだ。

ここは軍が倉庫代わりに使っている洞窟っぽいな。

樽とか木箱とか適当に置かれている。

都合よくこんなところに潜める場所があるってのもゲームならではなのだろう。

と、後ろから声がかかる。


「助かったぜ。

あんたに付いてきて正解だったよ。」


誰?

ああ、オレの後ろに並んでいた奴かな。

だが、その顔を見て驚いた。

人間ではなかったのだ。

頭がネコ科だ。

獣人? いや、ネコミミとかそんなもんじゃない。

人間の体に獣の頭を取って付けたような感じだ。

あんたグイソかよ。いや、身体は貧素だから違う奴だろう。

全体的なシルエットは人間に近いが、細身で全身毛だらけだ。

オレと同じような腰巻から尻尾が垂れている。

いや、そもそも獣に腰巻は必要か?

まぁ、たしかにブラブラしているナニをみせつけられても困るがな。

それにしても、そんな頭でも普通に発音できるんだな。

ちょっとびっくりしたが、よかった、顔には出ていないようだな。

っていうか、勝手に会話モードかよ。


「たぶん、ここまでくれば、もう大丈夫だろう。

まずはこの手枷をなんとかしようぜ。」


ネコ科頭の提案に従い、都合よく置いてある手ごろなとがった石を拾って順番に互いの石枷を破壊した。

と、これもイベントシーンか、体が勝手に動く。

しかし、ラワン材でもないのに木がこんなに簡単にバラバラになるんかい。

———まぁ、ゲームだからな。


「俺はジョー、ジョー・ジャックだ。見た通り、ヒョウ柄族の戦士だ。あんたは?」


ジョウジャクって、情弱かよ?

そして、ヒョウ柄族?

「柄」ってなんだよ。

何なのこいつ。

いや、いまは余計なことは考えまい。


「オレも自己紹介したいところだが、

———すまん、俺は自分が誰なのか、思い出せないんだ。」


会話の選択肢はこれ以外なかった。


ヒョウ柄情弱は一瞬怪訝そうな顔をするが、

人じゃないので、本当に怪訝そうな表情なのかは分からない。


「そうか、あんたぁ、ずいぶんと傷だらけのようだが拷問でも受けて頭をやられたか、気の毒にな。

まぁ、そのうち思い出すさ。

だが、あんたを呼ぶとき困るから、思い出すまで仮の名でもいいから名乗ってくれ。

何と呼べばいい?」


ヒョウ柄情弱がそう言った途端、命名ウィンドウが視界の真ん中に現れた。


<名前を入力してください。>


おいおい、やっぱマジでゲームだよ。

しょうがねぇなぁ。

では、あの有名人の名前を入力っと。


"毛沢東" Enter


<その名前は使用できません。>


って、弾くか。マオさんはNGワードのようだな。

まぁ、そうだろう。

分かっていたけど、しょうがねぇなぁ。

そうだな、なら、著作権が切れたアレだ。


"クマプー" Enter


「そうか、じゃぁこれからあんたのことはクマプーって呼ぶぜ!よろしくな。

——— それはそうと、俺はヒョウ柄族の村に帰るが、あんたは、いやクマプーはどうする?

できれば、村のみんなに友を紹介したいんだが。」


おいおい、いつオレがお前の友になった。

情弱のくせになれなれしい奴だな。

というか、ヒョウ柄族の村に行くことは決定のようだ。

おそらく一本道だろうし。


オレは会話モードから解放され、あたりを見回す。

都合よく、<さびた片手剣>が落ちているのを見つけた。

もちろん、さびてボロボロだが、ないよりはましというレベル。

ゲーム序盤だから、こんなもんだろう。


鞘もなくむき出しだが、それを腰ひもに挟む。

刃が立っていないので、むき出しでもまぁ問題ないだろう。

って、いやいや、腰にさしたまま歩くと脚にめり込むんですけど。

かといって、血が出るわけでもなく、痛いわけでもないからプレイに支障はない。


おいおい、ちゃんと作れよ!

こんだけリアルなグラだとさすがにヒクぞ。

って思ったら、急にレポートウィンドウのポップアップが目の前に。


<カスタマーサポート報告シート>


ご利用ありがとうございます。

株式会社ベタゲームスでは、品質向上のため、お客様が発見した不具合報告等を承っております。

当ゲームプログラムに問題が発見されましたら、下記ガイドに従ってご報告をお願いいたします。

なお、ご報告いただいた内容が不具合と認められた場合であっても、すぐに対応されない場合がございます。

また、対応状況についてはお客様に直接ご連絡することはございません。運営サイトのアップデート情報をご確認ください。


内容について以下の種別を選択してください。

◎ 不具合の報告

◎ 不具合らしきものの報告

◎ 不具合かもしれないけど自信がないものの報告

◎ いやいやそれ不具合だよね、絶対そうだよねと思ってしまったものの報告

その内容を記入

 :

 :


ええい、めんどくせー。

オレはサポートへの報告画面を閉じた。


洞窟は狭くはなっているが奥のほうに続いているようだ。

奥のほうに進もうとすると、情弱がしゃべりだす。


「たぶん、この先から外に出れる。

———なぜかって?

俺のカンが言っているからさ。」


会話モードにはならないようなので、無視して進む。

おっと、弓矢が落ちてる。

速攻で拾う。都合よく20本の束になっていた。

一番弱い、<木の矢>ってやつだ。

弓矢があるってことは、弓もあるはずだと思ったら、すぐそばに立てかけてあった。

もちろん、速攻で拾う。


<壊れそうな木の弓>


う、壊れそうってことは、武器に耐久値のあるタイプか。ちょっと苦手なやつだな。修理するのが面倒な感じ。


あ、薬草みっけ。

そうやって落ちてるものを拾いつつ先に進むと、暗闇から鳴き声が聞こえてきた。


「チュー、チュー。」


ネズミか、と、思ったらネズミだった。でも普通のネズミより結構でかい。

カピバラクラスだな。まぁ、そのくらいないと剣とか当たらないしね。

とか何とか考えていたら、おもむろに襲ってきた。


痛ててて!


攻撃が当たらない。———っていうかオレ素手で殴ってるし。

武器屋のおやじに「武器は装備しろ」って、あれほど酸っぱく言われたのにオレって学習しない奴。

焦りに焦ってやっとのことでネズ公を倒したけど、HPがさらに半分の1/8程度に。

そして経験値はたったの5。もちろんレベルアップなんてない。

焦って武器屋のおやじを思い出しちゃったけど、あれは別のゲームだったよ。

このゲームは武器をちゃんと手に持たないといけないようだ。


さっき手に入れた薬草を食べる。


むしゃむしゃ、———まずい!


なんじゃこれ、青汁をさらに苦くしたような味。

青臭すぎて吐きそうになる気分を抑えて、無理やり飲み込む。

まぁ、生の草なんだからこんなもんか。

食べ終わったら、確かにHPが回復している。しかも満タンだ。

でも、口の中は苦い味が残ったままだ。

やっぱ、回復はポーションだね。きっとうまいに違いない。


「ダイジョブか?」


えっ! ああ、ヒョウ柄情弱か、居たのかよ。

コンビニに売っていた某ゲームの青い瓶のポーションを思い出していたら、急に声を掛けられてビクッとなった。

戦士なんだろ? お前も戦えや。なに付いてきてるんだよ。

お前の村に行くんだろ、オレが先導してどうすんだ。


<さびた片手剣>を構えつつ奥に進む。


「チュー、チュー」


またネズミだ。襲ってくる前に鳴くのはお約束だな。ありがたい。


「ぎゃーっ!」


って、なに?


ネズミは飛び上がると、ヒョウ柄情弱の喉笛にかみつく。ヒョウ柄情弱の首から血がどばーっと噴き出す。


ストン、とネズミが飛び降りた場所に向けてオレは剣を振る。

なんか、勝手に掛け声が出るぞ。


「えぃ! やぁ! とぅ!」


ふう、何とか倒せたようだ。ネズミはズタボロだ。

だいたい操作方法が分かってきた。


パパパァーーーン! レベルあぁーーぷ!

すわわわー Level 2


おお、やったね、レベルが上がったようだ。

よしよし、この調子でレベルを上げてゆくぞ。

あ、ヒョウ柄情弱はどうなった?


———う、死んでる。ピクリとも動かない。


ヒョウ柄でよくわからないはずの顔色だが、なぜか青くなっているのが分かる。

モデルがラグドールに切り替わったな。関節のめり込みは無し、と。

しかし、あっさりやられちまったなぁ。


<調べる>→ ジョー・ジャック

カテゴリ

>ヒョウ柄族の村人

持ち物

>すりきれた貧民の服

>銅のロザリオ

所持金

>55ペソタ

状態

>屍


お前、戦士って言ってたよなぁ、村人だったのかよ。どおりで弱いわけだ。

ん、なんか、死体から持ち物とか奪えるようだな。

あれ? 腰巻のはずが、なぜか<すりきれた貧民の服>になってるぞ。

バグだバグだ。報告は、———いや、めんどくさいからしない。

まぁ、いいや、こっちの方が腰巻よりマシっぽい。とりあえず貰っておこう。

ヒョウ柄情弱から持ち物とお金をオレのインベントリに移動させる。


服を奪ったら、当たり前だが情弱の奴は素っ裸になりやがった。

オレが装備すると確かに<すりきれた貧民の服>になった。

服を着ただけなのになぜか裸足からサンダルを履いているように変化した。

で、腰巻はどこに行った?

まぁ、こっちの方が少しはましだから細かいことは言わないでおこう。

ヒョウ柄情弱は獣人なので毛深いが首以外は人間なので、見るからに貧素な身体をさらけ出していた。

まぁ、恨むなよ、オレのゲームライフに役立てれば本望だろ。


じゃ、元気でな。———死んでるけど。


オレはヒョウ柄情弱の死体を残し、先に進んだ。


と、なんだあれ。


西洋ファンタジーに似つかわしくないお地蔵さんのようなものが奥の方に見えた。

サイズもそんな感じで、きらきら光るエフェクトが出ている。

近寄ってよく見ると、まぁ、あれだ女神像ってやつだな。

仏様のようなほほえみを湛えてらっしゃる。

ふむふむ分かった。たぶんこれは、いわゆるセーブポイントってやつだな。

オレは、手を合わせて祈る。ナムー。


<保存しました。>


ん、やけにあっさりだな。まぁいいか。ではゲームを先に進めようか。


◇◇◇


近代的なオフィスの一室で端末に向かって何やら作業している若者。

そこに現れた上司が近寄り、話しかけた。


「どうだ? 新しいダミークライアントは。」


「そうですね。なかなかよいレポートを吐きますね。———この中身のない軽薄な感じ、笑えます。」


「で、何か解ったことはあるかな?」


「はい、不具合報告機能がダメですね。このままだと報告する意欲が萎えるみたいです。改善が必要ですね。」


「そっか、じゃそれ、QAチームに打診よろしく~。」 ※QA=品質管理


ここは大手ゲーム会社のシステム研究開発部。

レポートに表示される<オレ>は、人ではなくAIによる疑似人格だ。その疑似人格を搭載したテスタープログラムをつかって開発中のゲームを試したのだ。これ自身も開発中だが、口語調のレポートは読みやすく、上司たちにも好評だ。このプロジェクトがうまくいけば、人海戦術でやっていたテスターたちが不要となる。


ちなみに世間ではテスターたちをデバッガーと誤った呼び方をする奴らもいる。デバッグとはバグを取り除くことであり、デバッガーとはそれを行う者の意味だ。デバッグはプログラマーでないとできないのでテスターはデバッガーではない。

彼らが行うのはゲームのテストプレイをおこなうだけで、バグ取りはプログラムを内容をいじれるプログラマーの仕事だ。


それはさておき、複雑化が進むゲーム開発にはたくさんのテスターが必要だ。ゲームのテスター職は、なり手の希望が多く人気は高いのだが、実は離職率も高い。

好きなジャンルのゲームがテストできるとは限らないし、そもそもゲームを「遊ぶ」わけではないのだ。単純な操作を何度も繰り返さなければならないだけでなく、細かい部分に注目していちいちレポートしなければならない。


少し考えれば辛い仕事だってことぐらい分かるはずなのだが、それが分からない奴らがたくさん応募してくる。

お金を貰ってゲームがプレイできるのなら楽な仕事だろうと思ってやってくるのだが、多くはそのうち嫌気がさしてやめてしまうのだ。分かっている有能な奴も居るが少ない。そのため、人材の確保にコストがかかってしょうがないのが実情だ。


AIがテストプレイを行うこのプロジェクトが成功すれば、ゲームプレイのテスターは不要となり、ほとんどが解雇されることになるだろう。


若者は気の毒になぁ、と思いつつも、彼は重大なことに気が付いていなかった。彼もまたいずれ解雇されることになるのだ。

なぜなら彼もまたテスタープログラムのテスターなのだから。

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