Menu17:薔薇色のサーモンの花束とストラッチャテッラのブーケ 〜濃厚なマルキーズ・オ・ショコラを添えて〜
味のある木製の天井を尾花 杏樹は見上げた。
ログハウス風という感じだろうか。
案内されたレストランは、殺風景なコンクリート打ちっぱなしの外壁に反して、なかはおしゃれな山小屋という雰囲気だった。
会社帰りに徒歩で駅に向かっていたところを呼び止められ、「シェフの試作品はいかが」と誘われた。
無料だというので、ちょっとラッキーかもと思いついてきたが。
通された窓ぎわのテーブルから、店内を見まわす。
客はほかには誰もいない。
まだ夕方だ。レストランの外には、会社帰りの人間がいくらでも歩いている。
もっと何人かに声をかけているものだと思ったんだけどなと考える。
厨房に通じると思われるドアが開き、杏樹に声をかけたギャルソンが姿をあらわす。
芸能人か男性モデルかかなと思うくらいの美形なので、はじめに声をかけられたときは、えらく気おくれした。
顔をまともに見るのは気恥ずかしくて「橘」と書かれたネームプレートばかりを見ていてしまった。
ギャルソンやってるなんてもったいない。
男性モデルでもぜったいいけそうと思うが、そういうのは個人の勝手か。
駅の方角から、構内アナウンスがかすかに聞こえる。
きょうは、これから実家に向かう予定だった。
連休とその前後に有給がとれたので、退社後にそのまま地元行きの新幹線に乗るつもりだったが。
まあ、このあとの時間帯にも新幹線あるしと思う。
せっかく無料でおいしいものが食べられるチャンスをのがすほど、本数が少ないわけでもないし。
こちらに背中を向けて空いたテーブルを拭きはじめたギャルソンを見つめる。
「あの……ギャルソンさんて、出身どちらですか?」
気がついたらそう声をかけていた。
ギャルソンが、ゆっくりとふりむく。
うわ、なに聞いてんだろと自分で思い、杏樹は苦笑いした。
「あっ、すみません。ふつう聞かないですよね」




