第八章-初陣-
夜明け前。
森の小道に、十余りの影。
誰も声を上げない。
ロウドが視線を巡らせる。
最後にツムギを見る。
「あの漁村で震えていたな」
事実だけ。
ツムギは答えない。
剣を抜く。
刃が淡く光る。
「行く」
短い。
⸻
屋敷は静かだった。
門番を落とす。
合図。
散開。
団が動く。
中庭。
廊下。
叫びが上がる。
混乱は一瞬。
ツムギは正面から入る。
迷わない。
一人、斬る。
二人目は避ける。
団員が仕留める。
連携は拙い。
だが崩れない。
奥で悲鳴。
「黒百合だ……!」
その名が、初めて恐怖として響く。
⸻
貴族の間。
肥えた男が震えている。
「金か……? 欲しいものは――」
ツムギは近づく。
答えない。
刃を振る。
短い。
終わる。
⸻
戦いは長くない。
屋敷は制圧される。
団員が息を整える。
誰かが笑う。
誰かが泣く。
「終わった……」
安堵。
だがツムギは輪に入らない。
血を払う。
胸の奥が重い。
救えた者もいる。
だが、斬った数は確かに増えた。
ロウドが横に立つ。
「団は動いた」
評価でも称賛でもない。
事実。
遠くで、解放された民が膝をつく。
「黒百合……」
その声は、感謝よりも祈りに近い。
ツムギは仮面に触れる。
冷たい。
名が、自分より先に歩いていく。
それを止めない。
夜が明ける。
森へ戻る影。
黒百合は、象徴になり始めていた。
だが仮面の奥では、
まだツムギが息をしている。
棘は抜けない。
深くもない。
ただ、確かにある。




