第七章-黒百合は影を縫う-
夜を重ねるうちに、人が増えた。
最初は三人。
次は五人。
やがて十を超える。
帝国に家を焼かれた者。
徴税で家族を失った者。
逃げ場をなくした者。
黒百合の噂を聞き、森へ来る。
ツムギは彼らを見ている。
何も約束しない。
救うとも言わない。
ロウドが選ぶ。
「剣を握れるか」
それだけを問う。
握れない者は帰す。
迷う者も帰す。
残った者だけが、夜に立つ。
その中に、ひとり。
不器用な男がいた。
剣の握りが浅い。
構えも高すぎる。
だが帰らない。
「土を触ってる方が性に合うんだがな」
訓練の合間、ぽつりと零す。
「終わったら畑をやる」
誰に向けた言葉でもない。
森の土を手で掬い、指先で崩す。
「柔らかい土は、嘘をつかない」
笑った顔は、戦う者の顔ではなかった。
ロウドは何も言わない。
帰せば、彼は飢える。
残せば、死ぬかもしれない。
それでも男は剣を握る。
夜に立つことを選ぶ。
⸻
訓練は短い。
型は教えない。
「死なない位置を覚えろ」
ロウドは言う。
守り方。
退き方。
囲まれない立ち位置。
ツムギも混ざる。
まだ完璧ではない。
だが動きは速い。
誰よりも前に出るわけではない。
誰よりも冷たいわけでもない。
ただ、迷いが少ない。
その姿を見て、誰かが呟く。
「……黒百合の団だな」
いつの間にか、そう呼ばれる。
ツムギは否定しない。
肯定もしない。
仮面をつける。
それだけで、彼らは静かになる。
不器用な男も、黙る。
土を払った手で、剣を握る。
⸻
ある夜。
ロウドが言う。
「次は屋敷だ」
帝国貴族。
搾取で肥えた男。
「団として動く」
初めての言葉。
個ではない。
群れとしての刃。
森に、緊張が満ちる。
ツムギは剣を握る。
胸の奥の棘が、わずかに疼く。
視界の端で、あの男が地面を踏みしめる。
まるで畑を確かめるように。
逃げない。
まだ迷いはある。
だが立っている。
夜明け前。
団は集まる。
黒百合は、先頭に立つ。
その背後に、
それぞれの事情と、
それぞれの明日を抱えた影が並ぶ。




