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第五章-影が走る城内-
帝国王城の夜は静かだ。
重い扉。
高い天井。
灯りは最小。
だが一枚の書類だけが、机の上で止まっている。
黒百合。
仮面の剣士。
夜間襲撃。
複数の将校が討たれた。
第一王子ノアは紙を持ち上げる。
「……黒百合か」
小さく笑う。
興味。
それだけ。
恐れはない。
怒りもない。
ただ、新しい刃の匂いを嗅いだ獣のような目。
「面白い」
書類を閉じる。
「強いのか?」
独り言のように。
答えは書かれていない。
窓辺に立つ第一王女リュナが、夜を見ている。
月明かりが横顔を照らす。
「影は、光があってこそ生まれる」
穏やかな声。
ノアは肩をすくめる。
「なら、光を強くすればいい」
机に書類を戻す。
「出てきたなら斬る。それだけだ」
軽い。
本気ではない。
まだ遊びの範囲。
リュナは振り返らない。
唇に、ごくわずかな弧。
「……さて」
それ以上は言わない。
城は静まり返る。
だが影は、確かに動き始めている。
誰も知らない。
仮面の奥の顔も。
その棘も。
夜は深い。
王城の灯りは消えない。




