第三章-心の棘-
林を抜けると、村が見えた。
月明かりに照らされた土の道。
屋根。
戸口。
静かだ。
静かすぎる。
ロウドは足を止める。
「……遅い」
誰に向けた言葉でもない。
ツムギは村を見つめる。
人がいない。
風が戸板を鳴らすだけ。
死んだ村。
胸の奥が、きしむ。
林での戦い。
自分は、立っていただけだった。
ロウドの剣が三度鳴り、三人が倒れた。
その事実が、無力が刺さる。
仮面の奥で、息が浅い。
ロウドは地面に落ちた剣を拾う。
持ち主を亡くした欠けた剣。
血を拭い、ツムギに差し出す。
「持て」
それだけ。
理由も、励ましもない。
ツムギは受け取る。
重い。
冷たい。
手のひらが震える。
握る。
「振ってみろ」
ぎこちなく、振る。
空気を切る音。
自分の動きではないような感覚。
だが、剣は落ちない。
ロウドは見ている。
何も言わない。
評価も、否定も。
ただ、見る。
ツムギはもう一度振る。
今度は、少しだけ軌道が定まる。
胸の奥の痛みが、形を持つ。
悔しさ。
無力。
それでも。
「……生きる」
小さな声。
ロウドは背を向ける。
「なら歩け」
村の道へ踏み出す。
拠点にするとも言わない。
未来も語らない。
ただ、進む。
ツムギはあとに続く。
老夫婦を思い出す。
何も戻らない。
何も返らない。
それでも足は止めない。
仮面の裏で、何かが残る。
痛み。
名のない感情。
まだ花ではない。
だが。
小さな棘が、確かに心に刺さっている。
月は高い。
村は静まり返る。
二つの影が、道の奥へ伸びていく。




