第三十八章-終わらせる者-
朝日はすでに昇りきっていた。
黒い直剣と鋼の剣が向き合う。
ノアは笑っている。
「来い」
余裕は消えていない。
センカが踏み込む。
黒が走る。
初撃。
衝突。
金属音が響く。
――重い。
だが、折れない。
今度は弾かれない。
ノアの眉がわずかに動く。
「なるほど」
二撃、三撃。
斬撃が交差する。
火花ではなく、衝撃が空間を歪ませる。
黒い剣は揺らがない。
炎の熱もない。
だが、確かに“通る”。
ノアが踏み込む。
速度が上がる。
地面が砕ける。
斬撃の嵐。
センカは受ける。
流す。
踏み込む。
互角。
ノアの口元が上がる。
「いい」
楽しんでいる。
斬り結びながら、自然と相手に合わせている。
強者の癖。
相手の高さで遊ぶ。
本気を出し切らない。
それが染みついている。
センカは理解する。
だから、踏み込む。
王として。
覚悟を持つ者として。
力を競うのではない。
終わらせるために振るう。
黒い剣が軌道を変える。
一瞬。
ほんの一瞬。
ノアの呼吸と、斬撃の間に生まれた隙。
ノアは笑っていた。
その瞬間まで。
センカが踏み込む。
踏み込みの深さが違う。
黒が閃く。
ノアの目が、わずかに見開かれる。
――速い。
鋼が軌道を変える。
だが遅い。
黒い刃が、ノアの胴を斬り裂く。
同時に。
ノアの剣も、センカの脇腹を深く抉る。
衝撃。
血が舞う。
二人が離れる。
静寂。
ノアがよろめく。
膝をつく。
深い傷。
致命。
センカも片膝をつく。
息が荒い。
血が滴る。
黒い剣だけが、静かに在る。
ノアが笑う。
「……見事」
心からの声。
センカは剣を握りしめたまま、動けない。
終わった。
そう思いかける。
だが。
ノアが顔を上げる。
「俺を殺さねば」
血を吐きながら。
「時代は終わらんぞ?」
静かに促す。
部隊が息を呑む。
ロウドが一歩、踏み出しかける。
「来るな!」
センカの声が響く。
鋭く。
ロウドは止まる。
センカは立ち上がる。
足が震える。
それでも、歩く。
ノアの前に立つ。
剣を一度、下ろしかける。
兄。
かつて剣を教えた人。
泣いた日の記憶。
だが。
ノアは笑う。
「迷うな」
血に濡れながら。
「生きてるなら俺の勝ちだな」
挑発ではない。
事実。
力の理屈。
センカは息を吸う。
震える声で。
「……分かっています」
目を閉じない。
逃げない。
「……いいえ」
刃を構える。
「私の勝ちです」
一閃。
黒が落ちる。
ノアの首が地に落ちる。
音もなく。
静寂。
朝風が吹く。
ノアの部隊が、同時に膝をつく。
一糸乱れぬ動き。
頭を垂れる。
「新王に、忠誠を」
声が重なる。
センカは立っている。
血に濡れたまま。
兄を殺した。
時代を断った。
だが。
胸の奥に、また一つ重みが増える。
消えない。
消せない。
それでも。
剣を握る。
王として。
棘を抱えたまま。
次の時代へ進むために。
朝日が、黒い剣を照らしていた。




