第三十七章-黒き意志-
刃と刃が噛み合う。
朝日が二人を照らす。
ノアは笑っている。
余裕。
力が違う。
踏み込みも、重さも、迷いのなさも。
「軽い」
弾かれる。
センカは後退する。
間髪入れず、ノアが斬り込む。
速い。
受ける。
痺れる。
二撃、三撃。
重い。
呼吸が削られる。
「どうした」
淡々と。
「王の剣はそんなものか」
センカは距離を取る。
炎が灯る。
《アグニ》。
紅蓮が空気を焼く。
一直線に放つ。
轟炎がノアを呑み込む。
爆ぜる音。
だが。
炎の中から、影が歩み出る。
一振り。
それだけで、炎が裂ける。
「温い」
ノアは無傷。
センカは炎を剣に纏う。
赤熱する刃。
踏み込む。
斬撃。
激突。
だが押し返される。
横薙ぎ。
衝撃。
二撃目。
三撃目。
乾いた音。
剣が砕ける。
炎も散る。
破片が地に落ちる。
静寂。
ノアが肩に剣を担ぐ。
「魔法も剣も通じない」
一歩、近づく。
「終わりか?」
センカは、息を整える。
違う。
まだ終わらせない。
ゆっくりと手を掲げる。
炎が灯る。
再び《アグニ》。
だが今度は放たない。
両手で掴む。
圧縮する。
炎が凝縮し、刃の形を取る。
紅蓮の剣。
揺らめく、灼熱の刃。
ノアが目を細める。
「また炎か」
センカは答えない。
その炎の剣を――
振るう。
横一閃。
紅蓮が空を裂く。
だが標的はノアではない。
自らの炎だ。
振り抜いた瞬間。
炎が弾ける。
四散する。
紅蓮が散り、消える。
残るのは――
その中心にあった“核”。
炎の中から、静かに姿を現す。
漆黒の直剣。
燃えていない。
熱もない。
艶のない深い黒。
光を反射せず、ただ呑み込む色。
炎に包まれていたはずなのに、焼けてもいない。
染まってもいない。
ただ、そこに在る。
ノアの口元がわずかに上がる。
「……ほう」
センカはそれを握る。
重すぎず、軽すぎない。
手に馴染む。
「炎は奪う力だ」
静かに言う。
「でもこれは違う」
刃を構える。
黒が朝日を吸う。
「これは、染まらない意志だ」
力で塗り潰さない。
奪わない。
焼き尽くさない。
それでも折れない。
黒い直剣が、ノアへ向けられる。
ノアは笑う。
今度は、明確に愉しげに。
「面白い」
鋼と黒が向き合う。
余裕はまだ消えない。
だが――
空気が変わる。
ここからだ。
力の象徴と、染まらない意志。
真の衝突は、これから始まる。




