表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

第三十四章-棘を戴く王-

数週間後。


帝都は、静かだった。


黒炎が消え、王を失い、反乱が燃え上がったあの混乱が嘘のように、空は澄んでいる。


玉座の間。


玉座に座るのは、新たな王。


かつて“黒百合”と呼ばれ、そして“黒薔薇”とも恐れられた第二王女。


センカ・ヴェントール。


その名が、帝国全土に布告された。


王が死に。


第一王女が死に。


その両者を討ったのが、彼女であることも隠されなかった。


むしろ、隠さなかった。


それが事実だからだ。


帝国の民は――受け入れた。


恐怖ゆえか。


安堵ゆえか。


あるいは、流れに身を委ねただけか。


侵略に駆り出され、疲弊していた兵。


搾取に不満を抱いていた民。


王族の横暴だったのだと、今さら声高に叫ぶ者も現れた。


それが本音かどうかは分からない。


だが、人は流れを読む。


新しい力が現れれば、そこへ傾く。


なにより。


王も王女も、センカが討った。


血で断ち切られた王統。


それこそが、リュナの言っていた“帝国の崩壊”なのだろう。


王という絶対が死に、王族という神話が崩れた。


その瓦礫の上に、センカは立っている。


反乱軍の動きも、次第に収まりつつあった。


理由は単純だ。


センカが、かつての黒百合だからだ。


最初は疑いもあった。


王家の内紛ではないか。


別の暴君が座るだけではないのか。


だが。


彼女の剣を見た者は黙った。


彼女の命令を聞いた者は知った。


その判断は冷静で、無駄がなく、そして――確かにかつての黒百合を思わせた。


処刑者の精度。


戦場での的確さ。


甘さを捨てきれないが、それでも揺るがない意思。


力がある。


それは、帝国が最も信じるものだった。


玉座の脇に立つ男がいる。


ロウド。


筆頭参謀として、王に仕えている。


彼は自然と敬語を使い、臣下の礼を崩さない。


「センカ様、本日の議題ですが」


その呼び名に、もう違和感はない。


センカは頷く。


胸の奥に、棘はまだある。


セイン。


ツムギ。


リュナ。


血だらけの心は、治っていない。


だが、それでいい。


彼女は侵略行為を停止させた。


遠征軍を帰還させ、周辺国との戦線を整理する。


力を誇示するのではなく、力を抑える決断。


帝国にとっては、異例だった。


反発もある。


だが、誰も正面から逆らわない。


王を討った王なのだから。


しかし第一王子ノアは、依然として行方不明。


王位継承権を持つ最後の存在。


彼が戻れば、再び帝国は揺れるだろう。


だが、戻らない。


静かな日々が続く。


ある日の夕刻。


帝都の門が騒がしくなる。


伝令が玉座の間へ駆け込む。


「報告いたします!」


膝をつき、声を張る。


「第一王子ノア殿下が……!」


空気が張り詰める。


センカの指が、わずかに動く。


棘が、胸で疼く。


「自部隊を率い、帝都へ帰還されました!」


沈黙。


ロウドがゆっくりと顔を上げる。


玉座の上で、センカは静かに目を閉じる。


「……通しなさい」


王の声。


揺れない。


帝都の門が開く。


夕陽を背に、一団の騎兵が進む。


先頭に立つのは、長身の男。


第一王子ノア。


兄が、帰ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ