第三十章-崩れゆく核-
最初に崩れたのは、天井だった。
石が鳴る。
低く、重く、軋むような振動。
「……来るぞ!」
ロウドが叫ぶ。
黒炎の消えた石室に、亀裂が走る。
魔力で組まれていた構造が、力を失って崩れ始めている。
「遺跡そのものが、黒炎で保たれていたのか……!」
床が傾く。
砕けた氷と石片が滑る。
「出口へ!」
ロウドが先導する。
センカとリュナが続く。
振り返らない。
振り返る意味はない。
もう終わったのだから。
通路へ出た瞬間、背後で爆ぜる音。
石室が潰れる。
衝撃が背を打つ。
熱ではない。
空虚な振動。
まるで、巨大な臓器が停止したような。
走る。
崩れ落ちる柱。
降り注ぐ瓦礫。
ロウドは剣で破片を弾く。
視界の端で、リュナの足元が崩れる。
床が抜ける。
身体が傾く。
その瞬間。
「姉様!」
センカが飛び込む。
腕を掴む。
細い手首。
だが、力は強い。
リュナの身体が宙で止まる。
崩れた床の下は、暗い奈落。
一瞬の沈黙。
リュナが目を見開く。
「……姉様、か」
その言葉は、驚きではなく。
静かな実感。
センカは歯を食いしばる。
「離しません」
かつて呼ばれていた呼び名。
けれど、口から自然に出た。
記憶が戻ったからか。
血が覚えていたからか。
ロウドが駆け寄る。
二人を引き上げる。
「立てるか!」
「ええ」
リュナが頷く。
もう迷いはない。
走る。
遺跡が崩れていく。
壁が裂ける。
階段が崩れる。
空気が変わる。
出口が見える。
崩落の隙間から、森の光。
最後の天井が落ちる。
三人が飛び出す。
直後、轟音。
遺跡が沈む。
土煙が森を覆う。
静寂。
やがて、砂塵が晴れる。
そこにあったはずの建造物は、半ば地中に埋もれ、形を失っていた。
ロウドは振り返る。
黒百合。
いや。
センカ。
リューネ。
いや。
第一王女リュナ。
名が変わる。
立場が変わる。
だが。
今、そこに立っているのは。
ただの、二人の姉妹だった。
ロウドは剣を収める。
胸の奥に重いものが残る。
帝国王を討った。
だが、それで終わりなのか。
帝国はどうなる。
思想は。
国は。
そして――
「これから、どうする」
無意識に口に出ていた。
センカは、崩れた遺跡を見つめる。
リュナは、空を見上げる。
答えは、まだない。
だが。
二人は、もう名前を隠さない。
森を渡る風が、土煙をさらう。




