第二十七章-失敗作-
最奥部は、神殿ではなかった。
円形の石室。
床一面に刻まれた巨大な魔法陣。
幾重にも重なる封印式。
祈りの場ではない。
管理と拘束のための空間。
中央。
透明な結界の中で、黒い炎が燃えている。
ゆらり。
ゆらり。
ただ燃えているだけ。
だがその輪郭は、
どこか女性の姿を思わせた。
ロウドが低く呟く。
「……なんだ、あれは」
黒百合の胸が、わずかに熱を帯びる。
脈打つ。
記憶の底を叩くように。
その瞬間。
「不用意に近づくな」
背後から声。
三人が同時に振り向く。
そこにいたのは――
帝国王。
白衣を纏い、石机の前に立つ男。
最奥にいるはずのない存在。
ロウドの表情が強張る。
「……王」
王は驚かない。
侵入者を前にしても、
ただ観察している。
「ここは私の管理区域だ」
淡々と告げる。
視線が三人をなぞる。
評価するように。
「想定外の侵入だが……興味深い」
処罰ではない。
分析。
王の視線が止まる。
黒百合に。
「第二」
番号。
胸の奥が軋む。
「生存率はゼロのはずだったが」
声に感情はない。
記録の修正を告げるような調子。
「第一もいるな」
仮面の奥を見透かす。
「……予測誤差が重なったか」
そして炎へと目を戻す。
その視線だけが、
わずかに柔らぐ。
黒百合は王を見ない。
炎を見る。
黒。
深い黒。
揺らぎ。
(……知っている)
焦げる匂い。
夜。
崖。
爆ぜる音。
呼ばれた番号。
第二。
失敗作。
違う。
胸の奥で何かが否定する。
あの炎は――
黒百合の唇がわずかに動く。
「……私は、この炎を知っている」
王の手が止まる。
ほんの刹那。
炎が強く揺らぐ。
結界に波紋が走る。
王の瞳が初めて細まる。
「……共鳴?」
計算にない現象を見る目。
黒百合は炎から目を逸らさない。
胸の奥の火種が、脈打つ。
まだ思い出してはいない。
だが。
否定しない。
逃げない。
「私は……」
言葉が揺れる。
ツムギ。
黒百合。
第二。
違う。
もっと深いところから、名が浮かぶ。
「黒薔薇」
炎が大きく揺れる。
結界が軋む。
王の顔に、初めて“驚き”が走る。
「……ありえん」
計算を外れた声音。
黒百合は息を吸う。
選ぶ。
与えられた番号ではなく。
「黒薔薇の、センカ」
静寂。
番号は消える。
王の視線が変わる。
研究対象ではない。
思想逸脱者でもない。
未知の誤差を見る目。
「ならば」
王の足元の魔法陣が光る。
「ここで結果を確定させる」
ロウドが剣を抜く。
鋼の音。
「来るぞ!」
リューネも刃を構える。
炎の前で、
三人の刃が王へ向く。
処理ではない。
実験でもない。
思想の衝突。
戻れない地点に、
もう立っている




