第二十四章-仮面の来訪者-
討伐第四陣。
帝国は本気だった。
森を焼き、地を抉り、退路を潰す。
包囲は静かに、確実に狭まっていく。
黒百合は立っていた。
騎士十六。
魔導兵三。
囲まれている。
だが、怯みはない。
火線が走る。
拘束陣が展開。
「包囲を維持しろ!」
指揮官の声。
黒百合は一歩踏み込む。
「アグニ」
収束。
王火が一直線に貫く。
魔導陣が焼き切れ、術者が吹き飛ぶ。
炎は広げない。
必要な場所だけを断つ。
進化した王火。
斬る。
蹴る。
退く。
包囲は崩れかけている。
だが数はまだ多い。
魔法陣が再展開される。
重ね撃ち。
黒百合が次の詠唱に入った、その瞬間――
風が裂けた。
一閃。
魔導兵が二人、同時に崩れる。
誰も詠唱を聞いていない。
黒衣。
仮面。
細身の剣。
音もなく着地する影。
洗練された動き。
無駄がない。
ロウドの目が細まる。
「……」
討伐隊が動揺する。
「何者だ!」
黒衣の剣士は答えない。
一歩。
二人倒れる。
三歩目で指揮官の剣を弾き飛ばす。
喉元に刃を添える。
「退け」
低い声。
命令だった。
一瞬の沈黙。
やがて隊は崩れ、撤退を始める。
黒百合は追わない。
炎を消し、視線を横へ向ける。
仮面の剣士。
敵意はない。
「行くよ」
森へ退く。
ロウドが続く。
黒衣の剣士も、静かに後を追った。
⸻
森の奥。
三人は向き合う。
ロウドは即座に間合いを詰めた。
剣先が喉元へ届く距離。
「何者だ」
黒衣の剣士は微動だにしない。
「リューネ」
「偽名だな」
否定はしない。
「黒百合の真実を知る者だ」
空気が変わる。
ロウドの殺気が跳ね上がる。
刃がわずかに押し込まれる。
次の瞬間には斬れる。
「ロウド」
黒百合の声。
静かだが、止める力がある。
ロウドは止まる。
「下げて」
数瞬の睨み合い。
やがてロウドは剣を引く。
「……帝国の人間だぞ」
低い警告。
それだけ。
「うん」
黒百合は頷く。
視線は逸らさない。
「でも、敵ならあの場で撃たれてる」
事実。
背を向けた瞬間はあった。
ロウドは小さく息を吐く。
「好きにしろ。俺は警戒する」
位置取りは変えない。
黒衣の剣士――リューネは、わずかに息をつく。
小さな咳が混じる。
ほんの一瞬。
ロウドの目が細くなる。
「あなたは、自分が何者かを知らない」
リューネが言う。
声は低い。
だがどこか、切迫している。
「王家の炎を使える理由も」
森が静まる。
黒百合の瞳は揺れない。
「どういう意味?」
「ここでは話せない」
視線を巡らせる。
まだ帝国の気配は残っている。
「着いてきてほしい」
ロウドは無言。
だが剣は下ろしていない。
黒百合が一歩前へ出る。
仮面越しに視線が交わる。
なぜか、胸の奥がわずかにざわつく。
初めて会ったはずなのに。
「案内して」
決断は早い。
ロウドが舌打ちする。
止めない。
三つの影が森を進む。
ロウドは低く呟く。
「……嫌な匂いがする」
黒衣の背はわずかに重い。
それでも歩みは止まらない。
燃え残る王火。
その正体へと向かって。




