表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/41

第十三章-棘は内側へ-

戦場は、もう静かだった。


死体は動かない。


呻きも、減っている。


石畳に広がる赤は、雨に薄まり始めていた。


黒百合の団は――数えられるほどしか残っていない。



ツムギは立ったまま、動けなかった。


握った剣が重い。


守れなかった。


それは事実。


目を閉じれば、倒れる背中が浮かぶ。


名前を呼ぶ声。


届かなかった手。


視界の端。


泥の中に、見覚えのある手がある。


指先に、まだ土が入り込んでいる。


柔らかい土は嘘をつかない、と言っていた男が、


石畳の泥に沈んでいる。


剣は握られていない。


最後まで、構えは不器用だったのだろう。


雨が、その指を洗っていく。



後ろで足音。


ロウドが立つ。


周囲を一瞥し、淡々と告げる。


「……損耗は想定内だ」


感情のない声。


責めない。


慰めない。


ただ事実。


「想定、内……?」


ツムギの声は掠れる。


ロウドは続ける。


「少数で騎士団とぶつかった。こうなる」


間違いはなかった。


ただ、足りなかった。


それだけだ。



ツムギは視線を落とす。


「それでも」


喉が締まる。


「守りたかった」


理ではなく、願い。


泥の中の手が、もう動かない。


ロウドは一瞬、沈黙する。


「……守りたいなら、強くなるしかない」


冷たい。


だが揺れていない。



ツムギの指から、力が抜けかける。


ぽつりと零れる。


「私がいなければ……」


言い終わる前に、視界が揺れる。


胸ぐらを掴まれる。


強くはない。


だが逃がさない力。


「逃げるな」


低い声。


怒鳴らない。


それが逆に、刺さる。


「お前が折れたら、今ここで死んだ奴らは無意味になる」


言い切る。


情ではなく、選択として。


「黒百合を名乗ったのは、お前だ」



手が離れる。


ツムギは俯いたまま。


雨が強くなる。


血と水が混ざる。


泥は、やがて流される。


だが失われたものは戻らない。


黒百合。


名だけが、重い。


胸の奥に刺さった棘が、向きを変える。


外ではなく、


内側へ。


「……本当に、私なのか」


問いは消えない。


だが、膝は折れない。



ロウドは背を向ける。


「拠点を移す」


それだけ告げる。


振り返らない。


立て直す、とも言わない。


それが現実だ。



ツムギは遅れて歩き出す。


雨は冷たい。


だが止まれない。


団はまだ残っている。


壊れてはいない。


ただ――


ひびが入った。


それは、目に見えない。


だが確かに、深い。


そしてそのひびは、


やがて内側から、広がる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ