表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/41

第十二章-血と共に落ちる花弁-

石畳は、もう赤い。


悲鳴は途切れ途切れ。


煙と血の匂いが混ざる。


黒百合の団は、押し潰されかけていた。


民を背に。


退路は狭い。


騎士団は崩れない。



弓が放たれる。


一本、騎士の脚に刺さる。


倒れない。


盾が迫る。


団員が弾かれる。


石畳に叩きつけられ、動かない。


名前を呼ぶ声も出ない。


戦場は、もう整理されていない。


ただ削られていく。



隊長が前へ出る。


大盾。


大槍。


重い足取り。


一歩ごとに地面が軋む。


ツムギは向かう。


止まれない。


ここで止まれば、後ろが崩れる。



槍が振り下ろされる。


石畳が砕ける。


狭い路地へ誘う。


角を使う。


石垣を背に回す。


いつもの戦い方。


だが違う。


重い。


一撃ごとに腕が震える。


隊長は押す。


崩さない。



背後で団員が倒れる。


ロウドの声。


何かが折れる音。


視界の端で、血が跳ねる。


集中が揺れる。


その瞬間。


隊長の盾が迫る。


ツムギは踏み込み、刃を滑らせる。


甲高い音。


盾の縁が裂ける。


二度目。


三度目。


ついに、大盾が弾かれる。


均衡が崩れる。



隊長の目が、わずかに細まる。


「……黒薔薇」


低い声。


「似ている」


その一言。


胸の奥に、針が刺さる。


知らない名。


だが、どこかが反応する。


頭痛。


視界が滲む。


自分の足音が遠い。



槍が落ちてくる。


避けが遅れる。


肩を抉られる。


血が噴く。


膝が揺れる。


終わる――


その直前。


閃光。


ロウドの刃。


一閃。


隊長の首が、静かに落ちる。



沈黙。


騎士団は、崩れない。


だが前へも出ない。


隊長の亡骸を見下ろし、


合図もなく、後退する。


整然と。


目的は果たしたと言わんばかりに。


彼らは去る。



残ったのは、死。


団員は半数を欠く。


動かない者。


呻く者。


民も、無事ではない。


守りきれなかった。


それが事実。



ツムギは立ったまま動かない。


剣を握る。


震えが止まらない。


勝ったのか。


違う。


削られただけだ。


隊長の言葉が残る。


黒薔薇。


似ている。


知らないはずなのに、


胸の奥が疼く。


「私は……」


続かない。


答えは出ない。


未完成のまま。


名だけが先にある。



ロウドが近づく。


「立てるか」


短い問い。


ツムギは頷く。


強くない。


だが折れてもいない。


黒百合は、


まだ咲ききらない。


だが、この戦いで――


確実に何かが削れた。


そして、何かが芽吹いた。


血の匂いの中で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ