第十二章-血と共に落ちる花弁-
石畳は、もう赤い。
悲鳴は途切れ途切れ。
煙と血の匂いが混ざる。
黒百合の団は、押し潰されかけていた。
民を背に。
退路は狭い。
騎士団は崩れない。
⸻
弓が放たれる。
一本、騎士の脚に刺さる。
倒れない。
盾が迫る。
団員が弾かれる。
石畳に叩きつけられ、動かない。
名前を呼ぶ声も出ない。
戦場は、もう整理されていない。
ただ削られていく。
⸻
隊長が前へ出る。
大盾。
大槍。
重い足取り。
一歩ごとに地面が軋む。
ツムギは向かう。
止まれない。
ここで止まれば、後ろが崩れる。
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槍が振り下ろされる。
石畳が砕ける。
狭い路地へ誘う。
角を使う。
石垣を背に回す。
いつもの戦い方。
だが違う。
重い。
一撃ごとに腕が震える。
隊長は押す。
崩さない。
⸻
背後で団員が倒れる。
ロウドの声。
何かが折れる音。
視界の端で、血が跳ねる。
集中が揺れる。
その瞬間。
隊長の盾が迫る。
ツムギは踏み込み、刃を滑らせる。
甲高い音。
盾の縁が裂ける。
二度目。
三度目。
ついに、大盾が弾かれる。
均衡が崩れる。
⸻
隊長の目が、わずかに細まる。
「……黒薔薇」
低い声。
「似ている」
その一言。
胸の奥に、針が刺さる。
知らない名。
だが、どこかが反応する。
頭痛。
視界が滲む。
自分の足音が遠い。
⸻
槍が落ちてくる。
避けが遅れる。
肩を抉られる。
血が噴く。
膝が揺れる。
終わる――
その直前。
閃光。
ロウドの刃。
一閃。
隊長の首が、静かに落ちる。
⸻
沈黙。
騎士団は、崩れない。
だが前へも出ない。
隊長の亡骸を見下ろし、
合図もなく、後退する。
整然と。
目的は果たしたと言わんばかりに。
彼らは去る。
⸻
残ったのは、死。
団員は半数を欠く。
動かない者。
呻く者。
民も、無事ではない。
守りきれなかった。
それが事実。
⸻
ツムギは立ったまま動かない。
剣を握る。
震えが止まらない。
勝ったのか。
違う。
削られただけだ。
隊長の言葉が残る。
黒薔薇。
似ている。
知らないはずなのに、
胸の奥が疼く。
「私は……」
続かない。
答えは出ない。
未完成のまま。
名だけが先にある。
⸻
ロウドが近づく。
「立てるか」
短い問い。
ツムギは頷く。
強くない。
だが折れてもいない。
黒百合は、
まだ咲ききらない。
だが、この戦いで――
確実に何かが削れた。
そして、何かが芽吹いた。
血の匂いの中で。




