第十一章-焦りと罠-
市街は、罠だった。
石畳に響く怒号。
逃げ惑う民。
暴れる帝国兵。
黒百合の団は、救援のつもりで踏み込んだ。
「黒百合様、こっちです!」
ツムギは走る。
判断は速い。
だが、焦りがある。
民を守る。
その一点だけを見ている。
⸻
路地へ誘導。
屋根上から牽制。
少数で翻弄する。
ここまでは、いつも通りだった。
だが。
帝国兵の動きが崩れない。
散らない。
退かない。
まるで、時間を稼いでいるように。
ロウドが低く呟く。
「妙だ」
次の瞬間。
蹄の音。
規則正しく、重い。
市街の入口から現れたのは――
白銀の鎧。
二十騎。
統率は乱れない。
空気が変わる。
団員の一人が息を呑む。
「……王族直属騎士団」
⸻
一騎が前へ出る。
剣を抜く。
魔力が石畳を軋ませる。
格が違う。
帝国兵ではない。
戦場を知る者の構え。
ツムギは一歩踏み出す。
止まらない。
止まれない。
「隊を二手に」
指示は出す。
だが遅い。
騎士団は、もう包囲を終えている。
逃げ道が塞がれる。
民も、団員も、混ざっている。
守りながら戦うには――重い。
⸻
剣がぶつかる。
重い。
腕が痺れる。
一合で理解する。
勝てない相手ではない。
だが、楽ではない。
隣で団員が倒れる。
悲鳴。
視界が揺れる。
ツムギは踏み込む。
地形を使う。
角へ誘う。
一騎を落とす。
だが代わりに、二人が倒れる。
計算が合わない。
ロウドが叫ぶ。
「黒百合、退け!」
退けない。
ここで引けば、民が残る。
その迷いを、騎士は見逃さない。
肩を裂かれる。
血が滲む。
未完成。
その言葉が、どこかで響く。
⸻
隊長らしき男が前へ出る。
視線が合う。
冷たい。
感情がない。
処理する目。
ツムギは悟る。
これは偶然ではない。
呼ばれたのだ。
自分たちは、釣られた。
「……」
歯を食いしばる。
それでも退かない。
黒百合として立つと決めた。
ならば、前へ。
⸻
市街は混沌に沈む。
騎士団は崩れない。
団は削られていく。
それでも、壊れてはいない。
まだ。
ツムギは隊長へ踏み込む。
未熟なまま。
背負うには、まだ重い名を抱えたまま。
黒百合は、
まだ咲ききらない。
だが――
刃は、確かに届こうとしていた。




