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プロローグ

「鬼の臭いがするな……」

 ある新月の夜。

 一人夜道を歩く少女に、若い男女二人組の男の方がそう言った。

 振り返る、少女。

 腰まで伸びた濡れた絹のような漆黒の髪。

 長い睫毛に縁取られた闇色の瞳。

 筋の通った小さな鼻。

 薄い桜色の唇。

 それらをバランスよく収めた凛々しい輪郭をした、意志の強そうな、少女。

 少女はその、見る者全てを吸い込むような深い闇を帯びた瞳で、男を見遣る。すると男は少し面食らった風な表情で、

「なんだ? 人間にしか見えねえけど……」

 しかしすぐに口元を歪ませ、

「でも鬼の臭いがするってこたぁお前も鬼なんだろ? なら狩るのが俺達の仕事だろ、姉ちゃん?」

「そうですね」

 男の問いかけに頷く女。そして女が右手で四縦五横を切ると、世界から色彩が消え失せた。

 男は首から提げたチェーンの先に括り付けた勾玉に右手を遣る。すると勾玉は目映い光を放ち、男の右手に一振りの太刀となってその光を収めた。

「鬼刃、咆哮丸!」

そう叫び男は太刀を右の腰に構え、地を蹴り少女との間合いを詰める。

「うるあっ!」

 刺突、一閃。

 男の太刀の鋒は寸分の狂いなく、少女の左胸を捉える。

ガキィン! と鈍い音が闇夜に響く。

「……なっ!?」

 男の見遣る先では、少女が取り出した霊符で咆哮丸の鋒を防いでいた。

「てめぇ……何者だ!?」

 男の問いを無視する少女。そこに――

「犬彦! 避けてください!」

 女が左手に光る弓を構え、轟々と燃え滾る炎の矢を番え、少女目掛け射る。炎の矢はシュルシュル! と周囲の空気を焼きながら、少女の左胸にまっすぐ飛んでいく。

 しかし。

 少女はその矢をも霊符で弾いた。弾かれた矢は八つに裂かれ、少女の左右の建屋に跳弾し、爆発した。

「鬼火矢も効かねえ!?」

 驚きに目を丸くする男に向かって、少女が一歩足を踏み出す。男は僅かにたじろぎ女を見る。

「どうする、姉ちゃん!?」

 女は唇に右手の人差し指を宛てうーんと一思案すると、

「退散しましょう」

 間の抜けた声で言う。すると光る弓は放射状に光を放ち、次の瞬間に女の左小指に指環となって封じられる。それを見た男は舌打ちを一つすると少女を睨んで、

「負けたわけじゃねえからな! 次は覚えてろよ!」

 と叫んで夜空に跳躍し、消えていった。すると次の瞬間、消え失せた世界の色彩が戻った。少女はそれを確認すると霊符を腰のポケットに仕舞い、

「見つけた……やっと見つけた……」

 誰ともなしにつぶやいた。


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