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純愛  作者: 一宮 沙耶
第2章 償い

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7話 親友

男性だった頃、莉菜を守るために大学で始めた剣道は、女子校で再開した。

キャンパスを歩いていると、男性だった頃、剣道を始めたことを思い出す。

剣道は、莉菜を守るために始めたけど、実は、莉菜の親友がきっかけだった。


莉菜は、親友の琴葉を私に紹介した。女子校時代から本当に仲良しだと言っていた。

琴葉といるときは、羨ましい程、莉菜の笑顔は輝く。

そして、私が護衛のため武術をやりたいと言うと、琴葉が剣道をやっていると聞く。

莉菜はそれを知って、琴葉を私に紹介したのだと思う。


3人で道場に行き、道具を借りて、琴葉の前に立つ。

このままでいいから動かないでと言われ、竹刀を前にかざす。

その直後、琴葉は私に直進し、私のお腹を竹刀で打ちつけた。


あっという間の出来事だった。

目に見えない速さで、でもしなやかに流れる琴葉の動きは美しかった。

その時から、私は剣道に魅了される。


プライベートでは、莉菜とずっと一緒にいた。

でも、大学では2日、剣道の道場に通い、琴葉といる時間も増えていく。

私は筋がいいと言われ、2年目には2段を取得し、琴葉とも同等にやりあえるようになる。


「陽翔くん、上手になったわね。あっという間に私を抜いていくわね。」

「剣道が、こんなに面白いものだとは思わなかった。紹介してくれてありがとう。」


その当時は、剣道サークルの仲間とも笑い合い、楽しい生活を送っていた。

莉菜とも、いつも笑いが絶えない日々を過ごしていた。


3年目の夏、暑くて道場の壁に座り休んでいた。

その時、琴葉が私の横に座り込む。


「暑いね。疲れたの?」

「あの、私のこと、どう思っている?」

「莉菜の親友だろう。これからも、3人で仲良くしていこうよ。」

「私、辛いの。」


何を言い出したのだろう。


「私、陽翔くんのことが気になって、毎晩、眠れないの。大好き。莉菜には悪いけど、私と付き合えないかな。私は、親友の彼氏を奪う、本当に悪い女だと分かっているけど、自分の気持ちを抑えられないの。」


そう言って、誰もいない道場で、私に唇を重ねた。

何が起こったのか分からない。


「ごめん。僕は莉菜一筋なんだ。この剣道も、莉菜を守るために始めた。期待に応えられなくてごめん。」

「だめなのね。」


涙を目にいっぱいにした琴葉が目の前にいる。

でも、私には莉菜しかいないし、莉菜を悲めたくない。


「でも、ずっと莉菜の親友でいてもらいたい。僕が去った方がよければ、僕がいなくなる。」

「大丈夫。そんなことしたら、莉菜が、私が陽翔くんのことを好きになったと気づいちゃうでしょう。私は嘘をつくのが上手いの。これからも、ずっと、秘密にしておくから、いなくならないで。これからも友達でいさせて。」


私は、大学在学中は三人で仲良く過ごした。

そして、卒業後も、世田谷区の剣道サークルで一緒に練習を続ける。

その後、池袋の事件に巻き込まれる。


女性になった私は、女子校で剣道部に入り、剣道を続けた。

高校では、経験者ということで、他の高校との試合とかで重宝される。

そして、大学に入った今でも、剣道サークルに入り続けている。

唯一、大学のメンバーと話す時間。


今日は、世田谷区の剣道サークルとの練習試合に参加していた。

私は順調に勝ち進み、決勝戦に臨んだ。

相手は、久しぶりに会う琴葉。本音で、ここで再会するとは思っていなかった。


試合が始まり、最初に琴葉が1本を取る。昔より格段に上達している。

そして、次は私が1本を取った。次で勝負が決まる。

試合場は緊張に包まれる。


私は、琴葉の竹刀の筋を読み、直線に進むと思わせながら横に周り、横から竹刀を振る。

審判は、私に1本と叫んだ。私の大学のメンバーは拍手喝采をする。

試合は終わり、着替えて道場を出る時、琴葉から声をかけられた。


「江本さんよね、今日は、本当に強かったわ。」

「ありがとうございます。」


久しぶりの琴葉は、昔より落ち着いている気がした。


「なんとなく、私が昔好きだった人の打ち込みに似ていたから、懐かしくなっちゃった。結城 陽翔さんなんて知らないわよね。」

「どなたですか?」

「まあ、いいの。少しだけ、おばさんの話しに付き合ってくれないかしら。」

「分かりました。」


道場の前のベンチに座る。


「私ね、大学の時、陽翔さんという好きな人がいたの。でも、その人は、私の親友の彼氏だった。でも、本当に好きになってしまって、略奪というか、親友から奪ってしまおうと本気で考えてしまったの。あの頃は、私、どうかしていたのね。」

「そんなことがあったのですね。」

「まだ若い江本さんには、分からないというか、そんなことしちゃだめよ。それでも、陽翔さんの親友への気持ちは全く揺らがなかった。私はフラれてしまう。その時、私は、親友が本当に羨ましかった。そして、親友は陽翔さんと婚約する。もう、私は、目の前が真っ暗になったわ。やっぱり、親友が幸運の運命を持っていて、私は不幸の運命を持っている。生まれながらに運命は決まっているものなのねって。この時だけは、親友のことを妬んだ。」


琴葉は、地面の奥底を見つめるように静かに話しを続ける。


「陽翔さんを諦めた私には、彼ができて、陽翔さんの時みたく愛していたかは分からないけど、結婚したいと思える人だったから、ジェットコースターのように結婚したの。そして、今は娘もいて、今は幸せ。でも、親友と婚約した陽翔さんは、事故に巻き込まれて死んでしまって、その後、親友の悲しむ姿は見ていられなかった。人生は、一箇所だけ見ても分からないんだなと思ったわ。」


一呼吸置いて、琴葉は再び、顔に笑みを浮かべる。


「でもね、最近、親友は素敵な人を見つけたみたいなの。これで、私だけじゃなくて、親友も幸せになれる。やっぱり、親友は幸運の持ち主。これからも、私と親友は、以前のように、一生の仲良しでいられる。」

「良かったですね。」

「本当に良かった。昨晩、親友が、その婚約者を紹介してくれて、私の夫と四人で一緒に飲んだの。親友の婚約者は、なんとなく陽翔さんと似ていた。とっても良い人で、ずっと親友を大切にしてくれると思う。」


目線は、遠くを見つめる琴葉は、急に私に目線を向ける。


「ごめんなさいね。長話しになってしまった。なんか、江本さんの剣道をみていたら、陽翔さんのこと思い出してしまったから。どうしてかな。まあ、こんなおばさんの話しに付き合ってもらって、ありがとう。江本さんも幸せになってね。」

「ありがとうございます。では、私はここで。」


あまりに偶然な出来事。神様が、莉菜の近況を知らせてくれたのかもしれない。

それから半年ぐらい経ち、莉菜の結婚式の案内状が家に届く。

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