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純愛  作者: 一宮 沙耶
第2章 償い

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1話 暴力団

雪が積もった横浜の街を見て、私は、初めて高校で莉菜を見た時のことを思い出していた。

この子の親はお金持ちで、私には、有り余るお小遣いをくれていた。

そのお金で探偵を雇い、教室で莉菜と再会してから翌日から、莉菜の身辺を調べる。


そうすると、驚愕の事実が判明する。

莉菜は、私を殺した暴力団を憎んでいた。

ただ、力では敵わないので、抗争をしていた2つの暴力団の悪事の情報を調べる。

暴力団なんて、いくらでも悪事はあるものだからと。


1つ目は、組長が殺された暴力団の警視庁長官への賄賂。

2つ目は、組長を殺した暴力団による脱税。

このことで、2つの暴力団と警視庁長官から疎まれる存在になっていた。


そんなことを顔に出さずに教員を続けていた。

疲労が漂う莉菜は、私のことだけじゃなく、憎しみの日々に疲れていたのかもしれない。

復讐をどう果たそうかと、日々、悩み続けたのかもしれない。


でも暴力団には、莉菜の動きは筒抜けだった。素人だからしかたがない。

そこで、暴力団は、それらの情報が漏れないように、莉菜の暗殺を計画する。

電車のホームで先頭に立つ莉菜が、到着しようとする電車へと押されたことから始まる。


その時は、偶然、横の人が莉菜の腕をつかみ、大事には至らなかった。

むしろ、素人がそこまでの情報と証拠を集められたことはすごい。

復讐をするという執念が、そこまでさせたのかもしれない。


ただ、交差点で信号待ちをする莉菜が押されるとか、そのようなことが度重なる。

さすがに自分の手に負えないと思った莉菜は週刊誌に情報を売る。


でもその直後に週刊誌の記者はビルから飛び降り自殺をしてしまった。

おそらく、自殺という名の殺人。

警察も敵だと思った莉菜は、TV局にも情報を送るものの、脅迫状が家に届く。


もう、これ以上動けば身の安全は保証できないと。

そんな脅迫状に屈しない程、莉菜の覚悟はできていた。

その中で、莉菜の危険は最大に達していた。


莉菜を暴力から守らなければならない。

私は、探偵を雇った頃から、大学の時に取り組んでいた剣道を始める。

私の女子校にも剣道部があり、練習に打ち込んだ。


周りからは、剣道の経験者として、各種の大会で成績をあげる。

でも、女性の体は弱く、限界もある。筋トレや走り込みも始めた。


この子の両親は、健康のためには良いことだと応援してくれたけど、心配もしていた。

もっと普通の女性として楽な暮らしをし、女性としての幸せを手にして欲しいと。


でも、私が生き残れたのは、莉菜を守るためだったのだと思う。

だから、できることは何でもしなければ。


私が気づいた最初の莉菜への攻撃は、江ノ島に一緒に行く前の日だった。

莉菜の家の前で、明らかに暴力団の組員と思われる男性一人が莉菜を待ち構えていた。


「莉菜を見張るのはやめなさい。」

「あいつとよく一緒にいる女子高生か? 女なのに、俺にそんなこと言っていいのか。まあ、お前を捕らえて、あの女を脅すというのもあるな。おまえがガンをつけてきたのが悪かったと思えよ。」


いきなり、その暴力団は私に襲いかかる。

そんなことは想定済み。男性一人ぐらい、剣道で鍛えてきた私なら簡単に勝てる。

ネットで買った三段式の警棒を振り付けて伸ばす。


これまでの基礎トレーニングと、剣道の経験で、なぐりかかる男性に警棒を振り付ける。

傷だらけになった暴力団の首を警棒で締め付ける。


「最後の警告。莉菜からは身を引きなさい。あなただけじゃなくて、あなたの組として莉菜には手を出さないで。合意できなければ、今からあなたの首を折る。」

「分かった、許してくれ。暴力団に説得するから手を離してくれ。」

「説得なんて甘いわね。もし、莉菜を狙い続けるのであれば、あなたを必ず探し続けて、殺す。」


棘があるナックルを手につけて、背中に押し付ける。


「分かった。痛い、痛い。なんていう女なんだ。許してくれ。」


私は、その場を去る。

振り返ると、ビルが立ち並ぶ隙間で、暴力団は、未だに打撲で立ち上がれない。

痛めすぎたのかもしれないけど、莉菜を守るためには仕方がない。


でも、これで私も、暴力団の敵となった。

あの組員は、組を抑え切れないと思う。だから、これからも攻撃は続くはず。

私だけでは勝てない。仲間を増やさないと。

力には力を持って制圧しなければならない。


私は、探偵を通じて、日本を三分するもう一つの暴力団、滝山組に働きかける。

心配させたくないので、両親には何も伝えていない。

莉菜と江ノ島に行った次の日、滝山組の事務所を訪問する。

ドスの効いたおじいさんが私に声をかける。この人が組長なのだと思う。


「お嬢さん、肝が座っているな。普通の女子高生だったら、ここに来るまでに腰が抜けているぞ。そこまで、お嬢さんを駆り立てているのは何なんだ?」

「莉菜は私の命を助けてくれた恩人なの。」

「そういえば、お嬢さんは、この2つの暴力団の抗争の被害者だったらしいな。そこで、助けてもらったのか。」


莉菜には、駒場駅で助けてもらったけど、暴力団の抗争で助けてもらったわけではない。

でも、誤解しているのなら、あえて言わなくていい。


「で、何をしてもらいたいんだ。」

「莉菜に危害が及ばないように、日本の3大勢力の暴力団のうち、あなた達以外の2つの笹山組、田口組を潰してもらいたい。いえ、この2つの組に所属する暴力団は全て殺してもらいたい。この2つの組にいる組員が莉菜を狙っているの。」

「お嬢さんが、そこまで言うのであれば、何かこちらにお土産はあるんだろうな。」

「ええ、笹山組は警視庁長官に賄賂を送っている。田口組は、脱税をしている。その細かい証拠がこれ。これをきっかけとして、あなた達が2つの組を滅ぼしてもらいたいのよ。」

「お嬢さんがいなくても、笹山組、田口組は滅ぼそうとしていたんだよ。ただ、お嬢さんの情報は役立つから、お願いを叶えてやろう。ただ2つ条件がある。1つ目は、警視庁長官は使えるから、攻めないことにして、こちらの味方につける。」

「警視庁長官が莉菜を攻撃しないと約束してくれるならいいわ。」

「分かった。そのように言って、釘を刺しておく。お嬢さんの情報が正しければ、警視庁長官も俺たちの要望に従わざるを得ないしな。」


組長は、なにやら笑いながら私の顔を見つめる。


「で、2つ目は?」

「お嬢さんは、本当に度胸があるな。こんな女は初めて見た。大学を出たら、俺達の組に来い。幹部として引き入れる。この組では、お嬢さんのような女性幹部が足りなかったんだ。このような組を運営するうえでは、女性幹部も必要なんだよ。時にはハニートラップも必要となるが、お嬢さんなら、まだ若いし、度胸があるから期待しているぞ。」


大笑いをして私の目を見つめる。

さすが修羅場を潜り抜けてきた人なのだろう。

私の奥底まで見通す、闇が溢れる目を持っている。


「まあ、大学を卒業するまでは、自由に過ごしていい。卒業する頃に、また声をかける。そうだ、暴力団に入るなんて言ったら親も反対するだろうから、俺が持っているダミー会社に入ることにしろ。その会社は、有名な絵画とかを扱うオークション会社で、表上はクリーンな事業をしている。そのトレーダーという名目なら、それなりのステータスがあって、親も賛成してくれるだろう。その会社で働きながら、時々、俺達と一緒に裏の世界で動いてもらう。協力するのは、その2つが条件だ。」


私は、莉菜がいなければ駒場で電車に轢かれ死んでいた。

そもそも、暴力団の抗争で本来であれば死んでいたはず。

だから、私の体がどうなろうと、莉菜のためならどうでもいい。

この子の両親には悪いけど、私には躊躇いはない。


「分かったわ。じゃあ、あとはお願い。」


私が部屋を出た後、組長は組員と会話を続ける。


「いいカモが来たな。あの女は使えるぞ。男でも、あれだけ度胸が座っているやつなんて、そうはいない。しかも女で、男ができないことをやらせられる。今日は、いい日だ。みんなで、この日本酒をあげて祝杯だ。」


この日から、暴力団どうしの抗争が激化する。

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