12月24日
こんにちは。
今日は少し長くなるけど、朝陽くんならいつものようにうんうんって頷きながら聞いてくれるよね。
やっとあの日までのことを色々と話せるようになったよ。
といってもあの日の出来事はあまり覚えていない。
思い出そうとしても思い出せない。
唯一思い出せるのは、あの日までに見た朝陽くんの顔。
読書中の横顔
僕を呼ぶ時の優しい顔
教団員に怒っている顔
面倒くさそうな顔
眠っている顔
悲しそうな顔
辛そうな顔
僕だけに見せてくれたくしゃっとした笑顔
朝陽くんはいつも優しい声で話しかけてくれたんだ。
あの頃の僕は、どうして誕生日に?って思っていたけど、後から左門さんに謝られて知った。
朝陽くんはこの日だけ避けようとしていたことを。
証拠品だから本来なら手に入らないものなんだけど、左門さんは特別にと朝陽くんがつけていた日記の一頁を僕にくれた。
12月24日 あの日の日記だ。
といってもこれは12月23日の夜に書いたものらしいけど。
僕が読むと思って書いたのかどうかは分からない。
僕は警察の人と話し終えると、施設に送られたんだ。
夜川流星として生活をした。
大人からの暴力は無かったし、先にいた子供達も優しくしてくれた。
だけどどこか寂しかったんだ。
僕は、あの場所は嫌いだけどあの部屋は好きだった。
広いとは言えないけれど、朝陽くんの好きが詰まったあの部屋が。
朝陽くんのおかげで読書が好きになったよ。
朝陽くんはなんの本を読んでいたっけな?って記憶を辿ってそれらしき本を買って読むんだ。
もう何冊読んだだろう。
朝陽くんは今何をしているんだろう。
雲の上に寝転んで本を読んでいるのかな。
僕は知ってるよ。
あのおじさん、教祖と呼ばれた人は、本当は僕を浄化しようとしていたんだよね。
だけど、「俺の浄化を最優先にしろ。」って言ったんでしょ?
あのおじさんが部屋にやって来て言ったんだよ。
「聖生は私のことを愛している。キミはまだお預けだね。」って。
あの頃の僕はよく分かっていなかったけれど、今なら分かるよ。
浄化の意味も、朝陽くんがそう言った本当の理由も。
僕は何も知らないままずっと守られていたんだね。
今日は僕の誕生日。
そして朝陽くんが旅立った日。
名前に夜と朝が入る僕たち。
この日に生まれた僕と旅立った朝陽くん。
たまに来れない日もあるけれど、僕は朝陽くんの墓参りに来るのが日課のようなものになっている。
毎日顔を合わしているはずなのに、時が経つ程に寂しくなるよ。
左門さん宛の朝陽くんからの手紙に書かれていた言葉を聞いた僕は、そんな事しなくていいよ。って言って手だけを合わせていたんだけど、朝陽くんはモヤモヤしちゃうのかな?って思うようになったから今日はこれを持ってきたよ。
浅賀さんから聞いたけど、10年前の今くらいの時期。
朝陽くんはサンタさんにお願いしたプレゼントはなんなのか?って気にしていたらしいね。
それを聞き出した浅賀さんを睨み付けていたみたいだけど、朝陽くんのことだから自覚ないんだろうな。
あの時僕がサンタさんにお願いしたのは、朝陽くんが幸せになれますように。だったんだ。
不幸に見えてたわけじゃないよ。
ただ、なんとなくそう思っただけ。
叶わなかったけど、サンタさんにお願いすることじゃないから仕方ないのかな。
朝陽くん。
僕は今幸せだよ。
優しい両親にも出会えたんだ。
こうして朝陽くんの墓参りに行くことにも反対しない。
暴力も無いし、信仰もしていない。
あれから時間はかかったけどまた話せるようにもなった。
友達も出来たし、左門さんや浅賀さんともたまに会っては可愛がられているよ。
僕の部屋にはずっと、朝陽くんがくれたものを飾ってあるんだ。
きっとあのボールは朝陽くんの強い思いで姿を現してくれた、そう思っているよ。
朝陽くん、僕の幸せが朝陽くんの幸せなんだよね?
じゃあ、今朝陽くんも幸せなのかな?
いつか答えを聞かせてね。
また明日会おうね。
2035年12月24日 坂城光司
流星はペンとノートをリュックにしまい、リュックの内ポケットから小さな袋を取り出した。
その袋の中から出てきたのは銀色に輝く細い針だった。
流星はその針を墓の前に置くと手を合わせた。
「朝陽くん、本当に千本飲むつもり?」と心の中で問いかけた時、「流星そろそろ帰るよ。」と声を掛けられた。
少し離れた場所から声を掛けてきた女性は優しく微笑む。
流星は「はぁい!」と大きく返事をすると、墓の前に置いた針を袋にしまい、墓……いや、朝陽に手を振り女性の元へと駆けて行った。
この日の夜は晴れ予報だったが、流星が窓から外を覗くと雪が降っていた。
流星はこの日の日記の最後に、「朝陽くんが、俺も幸せだよ。と返事をくれような気がした。」と書き足した。




