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秘密の報告書  作者: 藤岡
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左門大我

彼の協力が無ければ孤幸教を消すことはできなかっただろう。

といっても、熱狂的信者が多い為完全に消せたとは言えないが。

SNSで抗議を行う者も少なくは無いし、署までやってきてデモ活動をする者もいる。

報道番組で詳しくそして正しく語られることはない。

孤幸教 教祖と繋がりのある者や、信者であったり外の協力者と呼ばれる者が携わっている事が多い。

孤幸教がいかに素晴らしい行いをしてきたのか、どれだけ救われた人がいるのか。

そういったことばかりを語る。

その裏では多くの犠牲者が存在するということは、教祖と繋がっていた者と協力者ならば知っているだろう。

そして多く語られるのが彼のことだ。

坂城聖生。

教団、教祖を裏切った恩知らずとして語られているのを見たが、酷いものだった。

彼がどんな目に遭い、どんな思いで過ごしたのかも知らずに、盲目状態の信者たちは彼を貶し続けた。

彼がいなければ、自分が、自分の家族が酷い目に遭っていたかもしれないというのに。


彼と初めて会った時、俺は過去に捜査打ち切りとされた事件に関わる子供ではないか?と直感的に思ったんだ。

名を尋ねると彼は面倒くさそうな顔をして名乗った。

坂城聖生という人間を調べても不思議なことに両親の名前等が出てこない。

孤児である坂城聖生を孤幸教が引き取った。

孤幸教信者である者は得意気にそう語ったが、ではどこの孤児院に居たというのだ?

両親の名が白紙の理由や、出生地は?

孤幸教に引き取られたとされる年齢以前の情報が白紙状態だ。

海道朝陽を調べると、坂城聖生の白紙の部分を埋めることができた。

両親は孤幸教の信者であった。

教団から子供も入信させるように言われた両親。

子育てで教団に割く時間が減り、信仰心が薄れていたのだろうか。

それを否定し教団から去ろうとした時、あの事件が起こった。


教祖は彼をどうしても手に入れたかったのだろう。

理由は簡単だ。

小児性愛者。

教祖は彼に対して歪んだ愛情を抱いた。

それを邪魔する両親を良くは思っていなかった。

教祖はこの前にも信者の子供に対して性的暴行を加えている。

これは表には出なかったし、そもそも捕まりもしていない。

信者からの密告により発覚した事件だが、警察は動かなかった。

証拠が無い。

便利な言葉だ。

勿論、冤罪の可能性もある為証拠は必要だ。

しかし、全く動かないというのもどうだろう。

後にこの一家は心中している。

警察の中にも信者がいる。

警察だけではなく、議員や弁護士、医者の中にも。

教祖が人声かければ奴らは何も疑うことなく罪を犯す危険人物だ。

孤幸教は、多くの人に守られてきた悪の巣窟。


彼が協力をしてくれるとは思わなかった。

約束の日に現れた彼は小さな声でこう言った。

「公務執行妨害で捕まえるのは全てが終わってからにしてくれ。今は俺に殴られて、頃合いを見て倒れ込んでくれ。」

彼がちらりと見た先には姿を隠すようにしてじっとこちらを見つめるカメラがあった。

俺と田村は彼の言うことに従い、時には抵抗し、殴るふりをした。

彼は普通に殴ってきたので俺は口の中を切った。

倒れた振りをすると彼は俺たちの車に引き摺るようにして運び、そして運転をし始める。

教祖に囲われた哀しき男。

運転免許も持っていないだろう。

なのにどうしてこんなに心地良い運転が出来るんだ?


彼は下山すると俺たちの腕や足から垂れる血を指で拭いそれを自分の頬や拳に擦り付けた。

「殺したとでも言わないとあとが厄介だ。」

彼の声は冷たかった。

「警察の中にも信者がいる。」

そう言うと彼は、「そこはあんたらが上手いことやってくれ。」と、へらりと笑って見せたのだ。


彼と手紙でやり取りをするようになって分かったことがある。

まだ迷っていること。

彼の中で男の子、流星くんの存在が大きいということ。

教団のやり方には昔から疑問を抱いていたこと。

教祖がやる事はおかしい事ではなく、普通だと思っていたこと。


きっと、最後の日まで彼は揺らいでいたんだろう。

だけど、教祖より流星くんを選んだ。

自分のような人間が増えないことを願っていたから。


浅賀の事や、協力者として入り込んだ彼女達の事を知ると彼は教団員に悟られないようサポートをしてくれたようだ。

世話係である彼は協力者と接することが減ったようだが、たまに地下へと行き彼女達の様子を伺っていたようだ。

浅賀がヘマをしそうになるとスっとフォローに入り何事も無かったかのように去って行く。

彼女達はあの場所を地獄なんて言葉では生ぬるいと感じるような場所と言っていた。

もし彼が協力してくれなければ、彼女達は変態共の玩具にされ殺されていただろう。

そうならぬよう浅賀にも入ってもらったが、俺が想像するよりも教団員の立場というのは大切なようだ。

彼は立場は下っ端同然であったが、彼が断らなければ幹部クラスだったという。

教え込まれた残虐性に、躊躇を知らない非道な行い。

教団員の中で彼は敵に回したくないと言われていたようだ。

教祖のお気に入りというのもあるだろうが。


彼は12月23日に24日の分の日記も書いていたようだ。

あの日、血の海と化した教団からは大量の遺体が運ばれた。

その中には我々の仲間もいる。

教団員に殺された。

しかし、教団員は殺されたわけではない。

このままでは捕まると悟った者から順に自ら命を絶ったのだ。

教団員が望む最期とは、教祖と一つになる事だという。

つまり、教祖に喰われることを望んでいるということだ。

しかし、教祖亡き今それも叶わない。

自死した教団員たちは、首に刃物を当て「教祖様申し訳ございません」と叫び息絶えたという。

教祖が協力者を食しているというのも、彼からの手紙で知っていた。

教祖は喰った者の命が、力が、知能が手に入ると言っていたようだ。

証拠として写真も入っていたが、俺はそれを見て嘔吐いてしまった。

人だったと分かる形で調理されたそれは、料理と呼ぶには相応しくない見た目をしていたからだ。

教祖が反社会勢力と繋がっており、その者とやり取りする録音音声も送られてきた。

今まで手に入らなかった証拠品を彼はすんなり手に入れた。

彼だからこそ出来た仕事だ。

他の教団員では無理だっただろう。


彼は12月31日を指定してきた。

しかし我々は多くの犠牲を出すことが分かっていてそれに応えることはできなかった。

上との会議で決まった決行日は、彼が唯一嫌がった日だった。

12月24日 流星くんの誕生日。

彼は流星くんの誕生日を祝いたがっていたし、なにより流星くんが誕生日を嫌いになってしまうから絶対に嫌だと言ってきた。

しかし、俺がどれだけ掛け合おうと上の人間は日を変えてはくれなかった。

12月23日から25日は信者が顔を出すことは無い。

特に24日は人が来ないと我々の調べはついていたし、彼もそれを認めていた。


出来れば彼だけでも生きて救出したかった。

「俺の事はいいから光司をよろしく頼む。」

彼からの最後の手紙に書かれていた言葉だ。

手が震えていたのだろうか。文字に安定感が無かった。

怖かっただろう。辛かっただろう。

もっと他にやり方があれば良かった。

だけど、これしか方法は無いと判断が下されたんだ。


俺は彼からの手紙に書かれた合言葉を言った。

嬉しそうに顔を覗かせた流星くんの表情は一瞬にして曇った。

あの時、流星くんも彼のことを信頼しているのだと感じたよ。

震える小さな背を摩り待機する車の元へと向かったが、道は一本しかない。

途中にある分かれ道は山の中へと繋がっており、進めば迷うだけだ。

教団の前で流星くんが「朝陽くん」と叫んだ。

話せないと聞いていた。

最近「うん」とか「いや」位なら話せるようになったと聞いていた。

俺が初めて聞いた流星くんの声は、哀しみと絶望を含ませる痛々しい叫び声だった。

胸が締め付けられた。

息苦しさを感じた。

そのまま気を失った流星くんを抱え運ぶ時、俺は涙を流していた。


こんな思いをさせたかった訳じゃない。

だけど、犠牲を出さずにというのは不可能だ。

その席に座るのは俺たち大人の役目のはずなのに、結局その席に座ったのは彼と流星くんの二人だけだった。

勿論命を落とした警察たちもそうだ。

だが、言っちゃ悪いがそれが我々の仕事でもある。


情けなかったよ、本当に。

無力だと感じたよ。


彼の手紙に書かれていたノート。

前々から日記のようなものをつけていると言っていた。

俺たちに協力すると決めた日、表紙に報告書と書いたと手紙に書いてあった。

彼の部屋に積まれたダンボールの一番下の一番奥。

本当はしちゃいけないんだけど、俺は鑑識たちが手を出す前にそれを回収した。


12月24日のページに連なる文字は滲み、踊るかのようにウネウネとしていた。

これを書いた数時間後、もしくは数分後に彼は教祖の部屋へと向かうのだろう。

信じ続け恩を感じていた教祖。

それを、この手で殺す時間がすぐそこに。


手紙では、逃げられぬようにして警察に渡す。そう言っていたが、それは嘘だったんだな。

きっと君は最初から教祖はその日に殺すと決めていたんだろう。


彼の報告書には、日常的な事、彼の心情に加え、教祖から受けた性虐待の内容や、教団内で行われた非道な行為が書かれていた。

これも証拠品として提出された。


流星くんは落ち着き次第施設へと送る予定だ。

本当は俺が里親になれればなんて思うが、そんなことを言うと彼に「頼りない。」と冷たく言われそうだな。

きっと流星くんのそばに居るんだろう。

ずっと、自分と重ねて見ていたんだろう。

流星くんには自分のような思いはして欲しくないと言っていた。

幼い自分がこういう風に助けられていたなら、そう思っていたんだろう。


俺は、もう警察を続けられる気がしない。

だけど、ここで辞めるわけにもいかない。

全てを根絶やさなければ、また同じような悲劇がおこるから。

俺は、君のような思いをする子供をもう見たくないんだ。

いつか必ず、君が望む世界を見せてあげられるように頑張るから、だから少し待っていてくれないか。

君もきっとそれを望んでいる……いや、君は流星くんが助かればそれで良かったのかもしれないね。

それはそれでいいんだ。

君にとってそれだけ大きな存在だったのだから。


まずは、流星くんのケアから始めるよ。

俺も君のように信頼してもらえるように頑張るから、夢の中でアドバイスをくれないか?

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