11月01日
今まで奪った命の数は覚えていない。
相手の顔も声も名前も覚えていないことの方が多い。
俺はただ教えを守っただけ。
これが普通だと言われ育った俺は何も疑うことなくそれらをこなした。
だけどある時疑問に思ったんだ。
そうだな……あれは確か教団員が反撃に遭った時だ。
相手は暴力組織の男だった。
チンピラと呼ばれるような奴ではなくて、体格に恵まれ戦闘力も高く、肝が据わっていた。
拷問を受けるだけだろうと思っていたのか、男は余裕そうな顔をしてこう言った。
「お前たちがなんの情報を得たいのかは知らないが、どんな目に遭おうと俺は口を割らない。」と。
衣類を剥がれ椅子に縛り付けられ爪を剥がされていた。
余裕そうな顔は歪みを見せたがそれでもどこかまだ余裕がありそうな表情。
指を折られ冷や汗をかいても、お前たちを殺してやるといわんばかりの目付き。
教団員が光るナイフを手に取り足に添わせると、男は流石に目を瞑り上を向いた。
足の骨が露出するまで丁寧に肉を削ぎ落とされると、男は身体を震わせ怒鳴りつけた。
恐怖ではなく怒りのあまりに震えてしまう身体。
俺はその時初めて震えにも種類があるのだと学んだ。
教団員が男の耳を落とそうと掴んだ時、男が顔を動かし教団員の腕に噛み付いた。
普通の状態なら難しいだろうが、屈辱を味わった怒りと痛みに支配された男は教団員の腕から多量の出血をさせた。
噛み付かれた教団員がナイフを落とし腕を押さえる横で、他の教団員達が男を殴りつけた。
「聖生もやれ。」と命令され俺は余り気が乗らないまま男の前に立ったんだ。
男は俺の顔を見上げ赤みがかった唾を吐きかけてきた。
俺はそれを拭う前に男を殴りつけたんだ。
そうしろと言われたからやっただけで、別にやりたくはなかった。
疑問が浮かんだんだ。
どうしてやりたくも無い暴力を振るわなくちゃいけないんだ?と。
その日帰ってから俺は一人で考えた。
誰かに答えを教えてもらえる訳では無いから、自分なりに自分が納得出来る答えを探した。
教団員の中には自ら暴力を振るいたがるやつもいるが、大半は教団からの命令で動いている。
命令は絶対というこの世界で逆らうという選択肢は存在しない。
だけど、本当にこのままでいいのか?
逆らえば次は自分があんな目に遭うという恐怖に支配されていて、結局保身の為に他者を甚振る。
これが、幸せだと呼べるのか?
俺は間違っているのではないか?と思い始めたんだけど、あの時はまだ幼いというか若かったし、思考も定まらず教団は絶対的存在だったから、無理矢理その考えを心の奥にしまいこんだんだ。
間違いなんかじゃない、これが正しい。
そう思う事で俺の心は保たれた。
結局俺も他の教団員と一緒で保身の為に他者を傷付け続けた。
今更どうしようも無いし、どうすることも出来ない。
過去は消えないし、消してはいけない。
目を逸らし続けるのももう辞めだ。
俺は間違った道を歩き続けた。
先頭にいる教祖様の背中だけを追い続けた。
だけど、光司にはそんなものを追いかけさせるつもりはない。
光司にはこんな事で悩んで欲しくないし、その小さく愛らしい手は汚してはいけない。
光司には新たな道を歩んでもらいたいんだ。
決して俺の背中を追うような真似はさせない。
それを俺は許せないから。
光司。
お前は光ある場所に居続けるべきなんだ。
お前がこの醜く淀んだ世界にいる事は間違いなんだ。




