09月04日
光司は「うん」「いや」だけ話すようになった。
たまに「せしょ」と言うのは俺の名前だろう。
こんな単語一つでも話してくれるだけで嬉しく思うな。
ただこれはまだ俺の前でだけ。
他の教団員がいる場所では絶対に声を出さないんだ。
最初の頃は馬鹿な教団員が光司に対して鬱憤晴らしをしようとしたりしていたが、その後は一切無い。
教祖様から言われたからと言うのもあるが、俺が容赦をしないという噂が広まったらしい。
どうせ心の中では、力では負けないとかそんなことを思っているんだろうけど、教団の掟というか決まりというか、厳しい上下関係が教団員の心を強く縛り付けているから態度には出さない。
そもそもの話だ。
これから教団員になってもらおうと育てている子供相手にそんなことをする方が可笑しいだろう。
容赦するしないに関係無くくだらない事をするなって話なんだよ。
教団員は全員とは言わないが殆どのやつはどこか頭がおかしいと思うことが多々ある。
どの口が言ってるんだと言われそうだが、俺の目に映る教団員は皆、残虐な悪魔のような、人を玩具にすることを好む鬼のような、そういうものとして映し出されているんだ。
表と裏が激しいというのかな。
勿論信者やたまに来る警察だとかにはそんな顔を見せない。
理解があり懐深い穏やか人間を偽り接している。
だからこそ、怖いのかもしれないな。
あれだけ仏のような顔をしていたやつがある日突然鼓膜を揺らす不快な笑い声を上げ自分を痛めつけてくるのだから。
人は見た目で判断してはいけないというが、その通りだと俺は思う。
人はいくらでも偽ることが出来るし、それよりたちが悪いのは無意識に偽る人間だ。
自然と偽っているから自分でも気付いていなかったりする。
俺の場合は教団員達とはまた少し違う。
もっと愛想を良くしろとか、笑顔を見せろとか、そういった注意を受け続けているが中々難しい。
ニコニコと笑い接する教団員の中で一人無愛想に適当な相槌と返事で対応する俺はある意味浮いた存在だろう。
当たり前だが信者からの評判も良くは無い。
きっとこれが原因なんだけど、俺は信者と接する機会より協力者と接する機会の方が多かった。
信用を得なければならない表と、処罰を与える裏では俺は裏の方が適していると判断されたのだろう。
俺は、何人殺したのか覚えていない。
性別も年齢も忘れてしまった。
いつどこで誰をなんて覚えていない。
たまに怖くなるんだ。
俺は無意識的に人を殺したりしていないか?と。
夢なのか現実なのか分からなくなる時がある。
光司と過ごすようになってからそういった仕事もごく稀にしかしなくなり、よく分からない夢を見ることも無くなった。
けど、なんでだろう。
最近また見始めるようになったんだ。
今までは黒いシルエットを殺してたんだけど、最近見る夢は顔がはっきりと見えるんだ。
叫び声も聞こえるし、俺の名前を呼ぶ声も。
どうして俺は教祖様を殺しているんだろう。




