07月15日
昨夜光司が熱を出した。
医務室に連れて行き診てもらったが、知恵熱では無いか?とのことだ。
知恵熱とは乳幼児に使うのが一般的であり、大人の言う知恵熱とは、簡単に言えばストレスからくる発熱だという。
光司の年齢なら新たな知識を多量に得たりだとか、歯の生え変わりだとか成長に繋がる経験がきっかけで熱を出すことがあるようだ。
それと、軽い風邪をひいている可能性もあるとのことで、明日は一日安静にして様子を見るように言われた。
体は火照り魘される光司を抱き抱え部屋に戻った。
布団に寝かせて、光司が求めることに対応した。
暑いと言えば涼しい風を送り、寒いと言えば布団をかぶせ、汗をかいたといえば濡れタオルで拭いて着替えさせた。
このまま熱が上がり続けて死んでしまうのではないか?とか、あの医者は手抜きをしたのか?とか、色々と考えてしまったが、朝が近付くにつれて光司の表情は穏やかになっていった。
寝息を立てすやすやと眠る光司を見て俺は安堵した。
今まで感じなかったが、突然猛烈な睡魔に襲われた。
気付けば眠っていて、目が覚めたのは朝の八時だった。
まだ眠る光司の横で飛び起きた俺は、部屋まで迎えに来た幹部と目が合い苦笑いをする。
寝坊なんて珍しいな。と言われた。
珍しいもなにも俺は今まで寝坊をした事がない……はずだ。
記憶には無いけど、もし寝坊をした事があったとしても、朝礼に遅刻をしたことは無い。
風邪を引いている時はノーカンだ。
深夜の仕事が朝の八時を過ぎても終わらない時もノーカン。
そういう場合は何も言われない。
幹部は教団員の動きを全て把握しているから、きちんとした理由があれば何も言わないんだ。
ただ、世話をしている子供の発熱位なら許されないだろうな。
こうやってわざわざ迎えに来たのも、次は無いぞという警告。
今日の事は許してくれているようだ。
小言の一つや二つ位は言われるだろうと思っていたので拍子抜けだ。
教団員が待つ部屋に入る前に幹部は俺に耳打ちをした。
「朝礼後は教祖様の部屋へ行くように。」
幹部はそういうと先に入っていった。
俺は力が抜けた。
教祖様の所へ行かなければならないから、許されただけなんだ。
できれば早く部屋に戻って光司の面倒を見てやりたい。
だけど、教祖様から呼ばれているのならそれを最優先しなくてはならない。
朝礼後俺は教祖様の部屋へ向かった。
気が乗らない。足を動かすのが嫌だ。
だけど、従わなければならない。
ノックをすると教祖様が返事をした。
部屋に入ると俺はいつものように教祖様の前に座るように言われた。
教祖様は俺の顔を見てこう言った。
「疲れているようだね。悪い気が渦巻いているよ。」
夜通し看病してたから疲れてんだよ。
なんて言えるわけもない。
教祖様に手招きされれば黙って教祖様の傍に行き、身体を撫でられ鳥肌が立っても拒否はしない。
押し倒されて服を脱がされても、受け入れなくてはならない。
あちこちに落とされる教祖様の熱を悦ばなくてはならない。
生まれた時と同じ状態。
何も身に纏わず、否定もせず、ただ鳴くだけ。
それしか求められていない。
この声は誰の声だ? なんて鳴き声をしているんだ。
漏れ出る苦しげな声は教祖様を刺激する。
俺の頬を伝う汗は、なんて汚いんだろう。
「もう少しで全部外に出せるからね。」
俺の中にある悪い気とやらは、どんな色をしていて、どんな形をしているんだろう。
どうして教祖様にはそれが見えるんだろうな。
俺が部屋に戻ったのは昼前だった。
髪や服を濡らしているのは、自分の汗なのか?それすらも分からない。
ヒリヒリと痛み、不快感に支配されている。
悪い気は無くなったと言われたが、朝よりもっと疲れている。
また溜まったら浄化してあげると言っていたが、それは何が溜まったらの話なんだろう。
朝兼昼飯を持って部屋に入ると、光司がにこっと笑いかけてきた。
引いたとはいえ熱を出して苦しかっただろう。
目が覚めて一人だった時、また不安に思ったんじゃないだろうか?
そんな事を考えると胸がギュッと苦しくなった。
夕方になると光司はケロッとした顔をして絵を描いていた。
夕方から夜にかけてまた熱を出すのではないか?と心配していたが、その後も寝るまで元気そうにしていたのでとりあえずは安心といったところだ。
光司を残して風呂に入る時も、なるべく最短で出られるようシャワーだけで済ませた。
いつもなら風呂上がりに涼んでから服を着て、そのままアイスを取りに行って部屋で食べるんだけど、今日は一番風が当たる場所で着替えてすぐに部屋に戻った。
俺は今誰が一番大切なんだろう。




