07月07日
今日は七夕だ。
だからといって何か変わったことをする訳ではない。
教団員はいつも通り自分の持ち場へ向かい、俺と光司は部屋に戻る。
だがゆっくりしている時間は無い。
今日は昼過ぎから地下に行かなければならないんだ。
それから夜まで別の仕事も入っているから、今のうちに今日の体力作りをしておかなくてはならない。
七夕というより、両親に対する思いを吐露し涙をしたあの日。
光司は数分間泣き続けたあと、俺に抱きついた。
俺の手は汚れている。
そんな事を忘れて散々撫でていた頭に触れる事も、優しく抱きしめ返すこともできなかった。
光司なりに何か感じ取ったのだろう。
すっと俺から離れて、笑顔を見せたんだ。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔。
小さな口から覗く小さい歯。
もちもちとした白い頬が薄らと赤く染っていて。
気付けば俺の視界に映る光司の顔が歪んでいた。
ぼやぼやとした中で輝きを放っているかのように存在を示す光司。
俺はこれからどんな顔をしてお前と接すればいいんだ?
悩みに悩んだ結果、俺は多分少しだけ素っ気なくなったと思う。
本当は、偉いなって褒めて頭を撫でてやりたい。
本当は、眠るまで優しく背を叩いてやりたい。
本当は、お前が思うより大切に思っていると抱きしめたい。
だけど、今の俺にはそんなことをする資格がないのだと光司に言われたような気分。
当たり前か。
俺が直接手を下した訳じゃない。
だけど光司からすればそんな事関係ないんだ。
そうだよな、どうしてそんな都合良く考えてしまっていたんだろう。
ずっと、ずっと、光司は俺に一番気を遣って過ごしてきたんだろう。
俺に一番懐いてる訳じゃなくて、一番身近な大人に気を遣っていたんだろう。
俺が一番怖いんじゃないか?
一番身近ということは、誰よりも真っ先にその命を摘むことができる距離にいるのだから。
もし、そう思いながら過ごしていたのだとすれば……今にも涙が溢れ出そうだ。
俺は年齢的には大人だ。
だけど小さな籠の中でしか過ごした事がないから視野は狭いし思考も極端だ。
精神的にはまだまだ未熟な子供も同然。
こういう時、どう接するのが正解なのか分からない。
分からないからって素っ気なくしてしまう所もガキ臭いなと自分でも思うよ。
誰よりも光司の気持ちを汲み取ってやらなきゃいけないのにな。
本当は寝る時間以外全て世話以外の仕事を入れたいと思うほどに俺は動揺している。
今まで二人で部屋で過ごすことになんの不満もなければ、居心地が良いとすら思っていた。
だけど、今はとても気まずい。
それでも世話係を放棄するわけにもいかないし、今更別の教団員に変わってくれと言うつもりもない。
最後まで全うするつもりではいる。
俺の考えすぎ、なんてまた自分の都合の良いように解釈しようとしている。
嫌になるな。本当に。
そんなことを考えながらも光司の体力作りの手は抜かない。今までと変わらない。
あっという間に時間は過ぎた。
俺は光司に仕事に行ってくるとだけ告げて部屋を出た。
光司が隣にいない事に違和感を覚えるようになってしまった。
今何をしているんだろう?とか、何事もなく過ごせているか?とか、親みたいなことを考えている自分に笑ってしまった。
予定より時間がかかった。
俺が帰ったのは深夜十一時を過ぎていた。
光司はもう寝ている時間だ。
俺は部屋には戻らずそのまま風呂へと向かった。
一人で入るのはいつぶりだろう。
いつもよりゆっくり湯に浸かったせいで少し逆上せた。
起こさないように静かにドアを開くと、光司は眠っていた。
俺の布団の中で。
寂しかったのか?なんてまた都合良く考えながら布団に入ろうとした時、机の上に紙が一枚置かれていることに気付く。
せいしょうさんへ
おかえりなさい
おしごと よくがんば りました
ぼくゎ きょういっぱ いひとりだった
さびしいなとおもいました
せいしょうさん ぼくのことおいて どこかにいっちゃうのかなっておもった
おへやのまえを とうるあしのおと
せいしょうさんかなっておもったけどちがった
いいこにしてたら はやくかえってくる?
ぼくわもお ねます
おきたら せいしょうさんがよこにいますように
空白部分を切り取り糊で貼り付けたが、手が震えていたせいで不格好だ。
俺は、光司にとってどういう存在なんだろう。
本人から聞かなければ分からないけど、聞く勇気は無い。
だけど、どう思われていようと構わない。
俺は今、人生で一番の喜びで溢れているから。




