07月05日
朝目を覚ますと珍しく光司が先に起きていた。
おはよう。と声をかけると光司は、おはようと書かれたノートを俺に見せる。
光司は日に日に明るくなっていってる気がする。
教団員とはまだ距離があるが、俺にはそれなりに懐いてくれたように思う。
だからといって別に驕るわけではない。
俺は教団員であり、光司の両親を奪った一員の一人に過ぎない。
光司から恨まれる対象だ。
今の光司は俺がいなければ生活がままならない。
生きていくためには俺に従うしかないんだ。
むしろ、俺を利用する位の気持ちでいてほしいものだが。
光司はノートのページを捲るとニコニコと笑いながら見せてきた。
そこに描かれていたのは、細かな星が散りばめられた川を挟むようにして見つめ合い手を振る男女。
「織姫と彦星か?」と聞くと、光司は嬉しそうに頷く。
七夕の絵を描いたのか、とその絵をまじまじと眺めて思う。
勉強熱心であり、絵の才能も持ち合わせている。
礼儀もしっかりしているし、人見知りはすれど愛想は良い方だ。
光司はそこら辺の子供より賢くて天才で可愛いのではないか?
そんなことを考えていると光司にノートを取り上げられた。
背を向け何かを書き始める光司。
小さな背中。まだ脆い。
手を伸ばしその細い首を掴めばポッキリと折ってしまうだろう。
せいしょうさん たなばた すき?
そう書かれたノート。
好きでも嫌いでもない。
どうでもいいというか、言われなければ忘れていた。
俺が七夕に対する思いなんてその程度だ。
「俺はあまり興味が無いが、光司は好きなのか?」と聞くと、首を縦に振ったので、「じゃあ今日は、朝飯を済ませたら七夕のどういうところが好きなのか教えてもらおうかな。」と言うと、光司は目を輝かせ俺の袖を引っ張った。
俺は急かす光司を宥め一人で部屋を出たんだ。
光司はまだ部屋でなければ飯が食えないから、朝昼晩と俺が運ぶんだ。
そして部屋で一緒に食べる。
けど、今日は光司が俺の後ろついてきた。
既に何人かの教団員が椅子に座っている。
「外で待つか?」と聞いたら、光司は首を横に振った。
中に入りおぼんを手に取ると、光司は部屋ではなくここのテーブルの上に置いたんだ。
「ここで食べるのか?」と聞くと、光司は少し緊張した表情をしながら頷いた。
俺は光司の隣に座り、手を合わせる。
教団員たちも珍しい生き物を見たとでもいいたげな顔をしていたが、そんな事はどうでもいい。
これが、成長か。
俺は心がじんわりと温まる感覚に震えた。
人はこんなにも喜ぶことができるのか?と疑ってしまうほどに、俺は嬉しくて嬉しくて仕方なかったんだ。
朝食を終え部屋に戻ると光司は全身の力が抜けたかのように俺の膝を枕にして微笑んできた。
可愛い。
少し休憩してから光司が七夕を好きな理由を聞いた。
伝えたい思いが先走り、たまによく分からない言葉を書いていたが、それはそれでいい。
光司は元々星や月が好きらしい。
そして絵本で見た七夕のイラスト。
今まで見たことがないほどに煌めいた星が流れる川。
それを見てから七夕が好きになったという。
織姫と彦星は年に一度しか会えない。
それまで互いに想い合う二人を繋ぐ星たち。
煌めく川の中で再会し、微笑み合う二人。
それはまるで、自分を見つめ微笑む両親のようだったと言う。
微笑ましいなと思いながら聞いていた俺は、多分顔を引き攣らせてしまっただろう。
光司の手が止まり、文字は滲んでいった。
俺は何も返せないまま、光司の頭を撫でることすら出来ず、堪えていた感情を溢れさせる光司をじっと見ることしか出来ない。
情けないな。




