01月23日
今日は15日にやって来た男女の話の続きだ。
母親が二人を連れて来た。
中に通された二人は緊張した面持ちで、母親はなんというか…静かに怒っているような、そんな顔をしていたな。
諭されたか?と思ったが、それは違った。
大広間に通された三人は背筋を伸ばし正座をしていた。
「この度は申し訳ございません。」
母親はそう言うと額を地に擦り付けるように頭を下げ、少し後ろに座っていた二人が慌てて母親の肩を掴むと、それは振り払われた。
「私に触れるな」と怒鳴るその顔は母の顔では無かった。
二人は何も言えず、動けないまま、再び頭を下げる母の後ろ姿を呆然と眺めていた。
男は悔しそうな顔を、女は目に涙を浮かべ唇を噛み締めていた。
この時点でその場にいた俺達は、母親がどうしたいのかなんとなく察していたが敢えてそれを口には出さず、母親の口から話されるのを待った。
これは意地悪なんかではない。俺達なりの気遣いだ。
暫くして頭を上げた母親は声を震わせながらこう言った。
「私の育て方が悪かったのです。全ては私の責任です。」と。
女の方は堪え切れずに声を漏らしていたな。
「だからどうかこの未熟な親子共々を浄化してください。」
母親は再び頭を下げ、俺達からの返事を待った。
後ろでは男が女の背を摩りながら、目が合った俺を睨みつけてきた。
なんとも恐ろしい目付き。
それに加えて、涎が出てしまいそうなほどの甘い匂いを漂わせ、隠しきれない身体の震えと目の奥に存在する恐怖。
精一杯の睨みは、俺からすれば赤子が睨み付けてきた程度の可愛らしいもの。
これは俺だけではなく、仲間たちも同じだったのだろう。
その場で起こるはずのないクスクスという馬鹿にしたような笑い声があちらから、こちらからと聞こえてくるのだ。
そんな状況では怒りよりも恐怖が勝ってしまったのだろうか。
先程まで精一杯睨みをきかせていた男の目から力が抜けていくのを感じた。
「貴女は我々、そして仲間達の為にいくつもの貢献をしてくれた。
そんな貴女の願いは叶えてやらねばならない。」
教祖様が母親にそう言うと、母親は満面の笑みを浮かべていた。
俺は母親を、仲間達は抵抗する男女を連れ浄化部屋へと向かった。
浄化部屋へ入れられた男女は騒ぎ続けていたが、母親はそんな二人は存在しないかのように一人静かに正座をしていた。
ドアが閉まると誰の声も聞こえない。
完全防音にする必要は…あるだろう。
ここは、地下では無いからな。
長方形型の窓から覗くと、やはり母親は一人正座をしたままで、男女二人は抱き合い下を向いていた。
この季節に自ら浄化を望むとは、肝が据わっているというのかなんなのか。
三十分程経つと扉が開かれ、ひやりとした冷気が俺達の全身を包み込んだ。
俺達だって夏場がいい。
後処理が地獄のようだから嫌なんだ。
三人の呼吸が確認されるとすぐに別室へと運ばれる。
俺はここの掃除当番だ。
ゴム手袋と長靴。
一歩踏み入れるとピチャッと音を立て、滴る雫が頭上に落ちる。
部屋の外側にあるボタンを押すと、床の端がパカッと開き、俺はそこへ向かってモップで溜まった冷水を外に流し出す。
ある程度流しきると乾いた雑巾に持ち替え、壁や床から水分を全て消し去るように丁寧に拭いていく。
それが終わると浄化部屋から出て完全に乾ききるのを待つ。
俺は凍える手を擦りながら教団員の部屋へと向かう。
暖を取りながら三人の様子を聞いてみると、母親は感謝の言葉を、男女二人は何も言えず蹲っているという。
ああ、良かった。俺に家族が居なくて。




